盗賊団
「わかってて私を同行させたのか」
張り詰めた空気の中放たれたその言葉は強張っていた。
警戒の現れだろう。
「まあね」
「理由を聞いても?」
「目的を知りたかったんだ。あんた一人で俺に接触するメリットがわからない。……俺は答えた、今度は俺が質問する番だな。あんたは何がしたい?」
視線を鋭く、睨むように尋ねた。
「……」
押し黙るアイレット。
表情から読み取ろうとしてみるが、よく分からない。
どこか苦しそうな顔をしているだけだ。
「わから……ないんだ」
「……は?」
絞りだされた彼女の言葉に、思わず間抜けな声を出してしまう。
じゃあ理由も無く俺に接触してきたってことか……?
今この場で殺そうと思えばアイレットを殺せる。
俺一人でもそれは可能だ。
ましてや仲間が二人いるわけで……ここは彼女にとって完全なる敵地はなず。
そこになんの理由もなく来た……?
わけがわからない。
「わからないんだ……!! 君に仲間を殺された筈なのに……怒りを覚えている筈なのに……!! 君を見てると胸がもやもやするんだ。これが何なのか……わからなくて……私は……っ」
嗚咽のように彼女は言った。
俺を見ると胸がもやもやする……?
それってよ……。
「俺に惚れたのか?」
「それはないよ」
それはないってよ。それはないってよ……。
即答だったな。
……とにかく。
何か目的があって来てるわけじゃないならいいんだ。
もしどこかにこいつの仲間が待機してて、そこに誘導する為にクエストについてきましたーとかだったら困るし。
今の話がこいつの嘘ってせんもあるが、その可能性は低いだろう。
なんて物思いにふけていると、縋るような声が聞こえてくる。
「君は本当に私の事を知らないか……? 私と何か関わりがあったりしないか?」
「知らないね」
この世界に来て数カ月だしな俺。
手配書か何かがあってこいつは俺の顔にひっかかっているのだと思っていたが……。
それなら他の兵士達が俺に気づかなかったのもおかしいし、何よりアイレットの態度からして手配書がうんぬんって訳じゃないみたいに思える。
「そう……」
「とにかく、この場であんたをどうこうはしねえ。必要ないしな。でもあんたが敵対してくるなら話は別だ。お互い不干渉でいこうぜ?」
不必要に殺す必要はない。
殺すのは必要な時だけでいい。そのかわり必要な時は確実に殺すのだ。
そんな提案をした俺に、彼女は目を丸くさせて驚いていた。
「驚いた……。もっと容赦なく人を殺す人間だと思ってた」
「必要なら容赦無く殺す、でもアンタが敵対してこないなら殺す必要がない。それだけだ」
まるで俺が無差別殺人者みたいな言い方だな……。
いやまあアイレットの仲間を目の前で殺しまくってるんだから思われても仕方ないけどね。
「……そうか。思っていたより――」
「――あの」
何かを言いかけた彼女の言葉は、幼く可愛らしい声で遮られた。
「何だ?」
声の主、ユスラへと視線を向ける。
彼女は体は横にしたまま、顔をこちらに向けていた。
起こしてしまったらしい。
「あの……ユウキさん。大事な話をしているのなら、私達は離席した方がいいでしょうか……?」
気を遣ってくれているらしいが、別にそんな大事な話じゃない。
「いやもう終わる。ゆっくり寝ててくれ」
「はい」
返事を聞いてからしばらくすると、可愛い寝息が聞こえてきた。
ちなみにユスラが俺の事をユウキさんと呼ぶのは俺がそう指定したからだ。
ご主人様とか呼ばれると何か目覚めそうになるから嫌だったんだよ。
「ユウキ……と言うのだな」
起こさないようにだろう。
アイレットの放つ言葉はかなりボリュームが抑えられていた。
「あー……。まぁ。ですね」
そういえば俺こいつにタロウって名乗ってた気がする……。
まぁ……今更偽名ってバレた所で何ともないけど。
「珍しい名前だね」
だろうな。異世界の名前だし。
「親父とお袋の名前をそれぞれとってるんですよ。親父のユウイチロウって名前からユウ、母ちゃんのキマイールって名前からキ」
それでユウキなのである。
キマイールという名前からわかると思うけど、俺の母ちゃんは外国人。
実はハーフなんだよ俺。
「――」
「何だよ……。俺の名前そんなに驚く程変かよ」
目を見開き硬直するアイレットを見て少し不安になってきた。
人の名前聞いてそのリアクションは少し失礼じゃなかろうか。
「……なるほど……。そういう……」
ぶつぶつと、一人で何か納得したように頷くアイレット。
「……わけわかんねえよ?」
「何でもない。君の言う通りここで抵抗しても私は犬死するだけだ。だからこのクエスト中は君に従う」
「……?」
まあ、従ってくれるならそれでいい。
俺だって死体は増やしたくない。
「……うん。じゃあ私は見張りの時間まで寝るね」
「おう」
彼女は寝床へと歩を進める。
そこには先程のような張り詰めた空気は存在していなかった。
「……彼は……貴方の……」
呟いたアイレットの言葉は誰に聞こえるでもなく、夜の闇の中へと消えていった。
―
森の中。
心地よい木漏れ日を浴びながら俺達は茂みに隠れていた。
「あれか」
俺の視線の先にあるのは盗賊団のアジトと思わしき洞窟だ。
さっきからガラの悪い人間が何回も出入りしてるし、見張りも立ってるし十中八九間違いないだろうな。
「ユウキ君。どうする? 調査が依頼なわけだから、もう報告に帰ってもいいわけだけど」
アイレットが耳元で問いかけてきた。
「いや……、俺らの戦力なら普通に壊滅させれると思うから、このまま隙を見て突入しよう」
俺いるし、アイレットいるし、多分いけるだろう。
ユスラとカイエンが実戦でどこまでやれるかも見ておきたいし。
活発だった洞窟の人の出入りも、だいぶ落ち着いたようだ。
……頃合いか。
「突撃するぞ」
俺の言葉を合図に、場の緊張感はより一層高まった。




