胸のモヤモヤ
真上に上った太陽が昼間を告げ、痛いくらいに照りつけてきていた。
乙女にとってこれ以上の敵はいない事だろう。
(私は……)
そんな太陽の下、アイレットは一人考えていた。
自身の胸の中にある怒りと、何かしこりのようなものについて。
この感覚はなんだろうか。
大切な事を忘れている……というよりは見落としているかのような感覚。
それを確かめる為に彼を見ている。
人がごった返す表通りにおいても目立つ黒髪の少年。
恐らく偽名だろうがタロウと名乗っていたその人間を。
自分の部隊は目の前の少年に壊滅させられた筈なのに、怒りと同じくらい刹那さのような感情がはしっていた。
それに彼女は困惑しているのだ。
アイレットともう一人、リヤントという兵士以外みんな彼に殺され、彼が王都への報告から帰ってくるまでは待機を命じられえいるのに、それを破ってまで彼女は――。
――
心地よい朝日で目を覚ます。
いい朝だ。とはとても言えない。
全身が痛いし疲れもあんまりとれてない。
全体的にクソだるい。
理由はわかってる。
あの兄妹のいる部屋に戻りたくないからこの橋の下で野宿したせいだ。
もう一部屋借りればいいと思うかもしれないが、残念そんな金はない。
(金も稼がなくちゃいけないし……。あいつら二人の戦闘能力も知りたい。クエストでも受けるか……)
とりあえず適当に朝飯食って装備整えて、昼からクエストに行こう。
「よし」
決めたら行動。
大きくあくびをして眠気を追い出した俺は橋の下から出、街の表通りへと向かった。
途中で屋台があったのでそこで朝飯(ホットドッグみたいな物だった)をすませ、武具屋の前へと辿り着く。
朝というのもあって、人通りは少なかった。
だから堂々と食べ歩きができたよ!
別にこの世界、食べ歩きが行儀悪いとか言われたりしないけど、あんまり見られたくないし。
店の扉を開け中へ入る。
「すいませーん」
並べられた武具の臭いが立ち込める店内には人の姿が見えなかった。
「うんこしてるから少し待ってて!!」
奥の方から男の声が聞こえてきた。
苦しそうだ。かなり苦戦しているらしい。可愛そうに。
……とりあえず店内の武器でも見て回ろう。
俺が今使ってる武器って適当に買った安物だからな。
いい加減ちゃんとしたのを使いたい。
武具用に金を置いとかないといけなかったから、昨日は野宿なんてハメになったんだ。
なまくら掴まされたら泣くしかないぞ。
「いや〜ごめんね。おかげさまで凄まじい物が出たよ」
態度の軽そうな男が腹をさすりながら出てきた。
ウンコ出たのがおかげさまで……とか言われるのって、なんか嫌だな。
「武器が欲しいです。標準的な長さの剣で、威力もそうだけどそれよりも頑丈な物がいい。なにせ旅人なもんでして。いいのありますか?」
早速だが単刀直入に男に言えば、彼は少し考え
「ちょっと倉庫にいいのがあるから、待っててよ」
と再び奥の方へと姿を消した。
何持ってきてくれるんだろうな!
呪われた剣とか魔剣とかかな!?
ロマンだけど! 店には無いよなぁ……。
……。……結構長いな。
奥の方にしまいこんでるとかか?
十分は経ってないか。
「いやー、お待たせしました」
なんてそわそわしてると包帯の巻かれた剣を持って、男が戻ってきた。
「その剣は?」
包帯巻いてるとかカッコいいな。
「通称、呪われた剣です」
「えぇ……」
あんのかよ。
「切れ味は保証しますよ。頑丈さも申し分ないし、ベーシックな形だからメンテナンスもしやすい」
男の言うように、その剣はごく一般的なそれの形をしている。
あれなら俺も簡単な手入れくらいはできるだろう。
「……値段は?」
「十六万ペトでいかかでしょう」
ペトはこの国の通貨の単位で、パン二千個分って所か。
そんなに高くない、これくらいなら出せるが……。
「呪いの由来を教えて欲しいです。高性能な剣がその程度の値段なのはそれが理由なんですよね」
問いかけ、彼の反応を伺う。
「どう説明したらいいか……」
困った顔を浮かべていたが、騙そうとしている訳ではないように見える。
「んー」と長考し、男は言葉を続けた。
「お客さんは剣聖ってご存知で?」
「聞いた事ないですね」
「二十年くらい前になりますか。まだ自分が子供だった頃にここ、カイン共和国に存在していた……言うならば英雄ですね」
「へぇ」
「名前はユウキチだったかユウイチだったか、それともユウジロウだったか……。よく覚えてないんですが、当時は凄まじい人気だったらしいです」
なんか聞いたことあるというか、日本人みたいな名前してやがるなそいつ。
偶然なんだろうけど。
「その剣聖がこの剣と関係が?」
「うちの父が軍にいた頃、剣聖に稽古をつけて貰ったらしいですが、その時に使ったのがこの剣なのです」
「それで?」
「はい。父はその稽古でコテンパンにされたらしく、挫折し、軍人やめて武具店を開きました」
「……で?」
だから何だというのだろうか。
肩をすくめながら男が答えた。
「それからというもの、この剣を見るとそれを思い出すらしく、この剣は呪われてる、怖い、見たくない。としまいこんでしまったんです」
ただのトラウマじゃねえか!!
くだんねぇ!!
「じゃぁ……実際に呪われてるわけじゃないと」
「ですね。あぁ、値段が安いのは古いからです」
先にそう言えや。
まぁいいや……。
装飾の施されてないシンプルなデザイン。
値段も悪くない。
後は実際に切れ味を見てみないといけない。
「試し斬りしてみても?」
「どうぞ」
言って男が持ってきたのは太めの丸太。
これを切れと言う事だろう。
「遠慮なく――!」
スキルを使用し素早く抜刀。
それは煌めく銀線を描き、丸太を両断した。
「ふぅ……」
剣を鞘に納め、一息つく。
凄い切れ味だ。なんの抵抗も感じず滑らかに切れた。
丸太の断面だって綺麗だし。
もう、これしかないだろう。
「この剣ください!」
「まいどありぃ!!」
男の元気な声が静かな店内に響いた。
―
剣を買った俺はユスラとカイエン(兄の方の名前)を連れてギルドに来ていた。
「このクエストを三人で受けようと思う。異存は?」
盗賊団の調査。
街の近くに盗賊団が根城を作っている可能性があるため、それを調査しろというのがクエスト内容である。
「別に、主人がそうしたいならすればいい。俺は従うだけだ」
「私もお兄ちゃんと一緒です」
……うん。
ちょっと空気はあれだけど、異存は無いみたいね。
受け付けに持っていきましょうか……。
そんな時だった。
「すまない。私も一緒にクエストを受けさせてくれないか?」
後から声をかけられ振り向く。
フルフェイスの兜を被った人物がそこにはいた。
声からして女だろうが、なにせ顔が見えない。
けど、こいつは――。
「いいぜ」
「か、感謝する」
即答だったせいか、女の言葉には少し戸惑いが読み取れた。
まあ、こんな得体のしれない奴がパーティー入れてくれとか言ってきても、普通断るしな。
俺だっていつもなら断るが……。
こいつが何で今ここに居て俺に接触してきているのか……が気になる。
「このクエストを四人で」
難しい事は後で考えよう。
とりあえず今はクエストを受けないと。
俺が受け付けへと持っていき、俺達は盗賊団の調査へと向かった。
―
辺りは暗く染まり、虫の声がBGMになっていた。
少し肌寒い。
夜が冷える季節だしな……。
盗賊団は俺達のいたゲルムンバグの街から一日歩いた先にある森の中に根城を築いている可能性が高いらしい。
だから今日は移動だけ。
こうやって野宿して、起きてまた移動。
明日の昼には森に着く計算になっている。
俺が起きているのは別に寝付けないからではない。
見張りだ。順番に起きて行って、今は俺の番ってだけ。
「……寝てなくていいのか?」
そんな俺の元へ近づく影があった。
「寝付けなくてね」
鎧を着た女だ。
仇討ちのつもりか?
彼女は腰に携える剣に手を回していた。
「まあ、来るとは思ってたよ。で? 何で俺のクエストについて来た? アイレット」




