新しい仲間
「あの場で何をやってるかっていうのは、まぁ、察したよな」
「そりゃあ……。わかりますよ」
老人の言葉に頷いて返した。
「別に身構えなくても何もしやしないよ。これは暗黙の了解なんだ。国に密告されても、お前さんの首がとぶだけさ」
「ご親切にどうも……」
つまり余計な事すると俺の身が危ないって事だろ。
脅しじゃねえか。
「あの場で二人、奴隷を拾ったな?」
彼は、嘘を拒絶した目で問いかけてくる。
「拾いましたけど、別に保護しただけで盗ったわけじゃないですよ……。すぐ返しますから」
「いや、返す必要はない」
奴隷を盗難したと思われてると思ったが、そうではなかったらしい。
老人は手元にあった紅茶をすすり、一息ついてから言葉を続けた。
「その奴隷は俺からの餞別だ。女は回復魔法を使えるし、男の方も戦闘用のスキルを持ってる。かなりの粒物だぜ? ザンタボルトを殺すのに必ず役に立つ筈だ」
「ありがたいですけど……。俺に奴隷を渡す理由は?」
タダ程高い物は無い。
「お前さんがザンタボルトを殺してくれたら情勢は大きく変わる。そういう転換期には情報が高値で売れる。それとまぁ……。拗らせたようなその目が個人的に嫌いじゃないのよ」
最後の一文はよくわかんねえが、つまりギブアンドテイクって事。
でも俺に有利すぎる話だよな……?
奴隷の相場ってわかんないけど、あの二人のスペックを考えたらかなり高価な筈だ。
それを捨てて逃げ出したんだからブータって奴はどんだけ慌ててたんだって話だが。
「……」
「そんなに疑うなよ。若者には素直さも必要だぞ?」
黙って考え事をしていると、老人が呆れたように言った。
「……ありがたく受け取らせて貰います」
そうだな。
ザンタボルトを殺すのに仲間は多いに越した事はないんだ。
この男が何を企んでるのかは知らないが、奴隷の二人にあまり隙を見せず、あくまでも戦闘用の駒として使えば問題ないだろう。
「話ってのはこれだけだ。……これであんたはうちのギルドの一員になった訳だが……。ザンタボルトの情報だったよな? しばらく待て、三日以内に情報を整理して持っていかせよう」
「お願いします」
「情報料は高いぜ? 相手が相手だからな」
「わかってます」
何はともあれ、これで奴の情報が手に入る。
もし現在地がわかるようなら殺しにいける。
そうで無くても殺す為の一歩は踏み出せる。こっからやっと復讐を始める事ができるんだ。
……一段落ついたからか? 疲れがどっときた気分だ。
扉を開け、老人に会釈しながら部屋をあとにした。
「じゃぁ……俺はこれで」
早く帰って休もう……。
――
休める――訳がなかった。
「……そんなに睨むなよ」
宿に戻った俺は、溜め息混じりに言った。
備え付けのベットの上には怯えて小さく縮こまる少女がいて、それを庇うように少年が立っている。
「それ以上近づいたら殺す」
殺意の籠もった瞳で睨みつけてくる少年。
……。
彼等は俺が闇ギルドに行く前に、宿屋に寝かせておいたんだ。
両方共意識なかったしな。
意識が戻ったら逃げると思ったけど逃げなかったらしい。いや、逃げれないのか。
こいつら奴隷だしな。
多分体のどこかに奴隷刻印がある筈だ。
それは言うならば脅し。
刻印を発動させれば、その距離に関係なく奴隷を苦しめたり殺したりできる。
反抗防止の抑止力だ。
こいつ、今「殺す」とか言ってたけど。
今の持ち主は俺だから、やろうと思えば刻印で苦しめる事ができるんだ。
多分俺が主人って事を知らないから言ってるんだろうな。
「お前らは今日から俺の奴隷になった。精々頑張ってくれ」
「な――っ」
二人の目が開かれる。余程驚いているらしい。
少女の方なんか今にも泣きそうな顔をしている。
悲痛な表情。
そんな彼女が涙声で言う。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。だからお兄ちゃんを苦しめないでください……。貴方がご主人様だって知らなかったんです」
「ユスラ……やめろ……。俺なんかの為に……」
「私にはお兄ちゃんしかいないんです。お願いします。私は何でもしますから」
「ユスラ……」
ユスラっていうのはこの娘の名前か?
俺が少年に何か処罰をすると思っているらしい。
必死な懇願だった。
「す…いません……でし……た……。だから、ゆるして、もらえ……ませんか。妹を悲しませたくないんです」
そんな妹の思いに動かされたのか、途切れ途切れの声を少年は出して頭を下げていた。
プライドがあるのだろう。
歯を食いしばり、肩を震わせている。
保身の為じゃなく、妹の為に言っているというのは嫌でもわかった。
……まあ、俺がこいつらにやってきた事考えたらこうなるよな。
完全に悪役じゃないか。
「別に……どうでもいい」
ばつが悪くなった俺は、吐き捨てるように言って部屋を出た。
人手が増えたのはいいけど、やり辛なぁ……あの空気。
今更そんな事言っても仕方ないか。俺の行動の結果ああなってるんだし。
何よりザンタボルトを殺すために手段を選ぶ余裕なんてない。
使い捨てだろうがなんだろうがやってやろう。
悪魔にだって魂を売ってやる。
だから、誓え。
自分に誓うんだ。
もう迷わない、躊躇わない、邪魔をする奴は問答無用で殺すし、目的の為には犠牲も問わない。
何度も誓って、何度も破りかけてきた。
だから、今度こそ誓うんだ――。




