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一年間の異世界転移  作者: 茜霞殿 姫太郎
第三章 新たなる出会い
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少年少女

「おらおら!! 遅えよ!!」

 

 アイレットと撃ち合っていた。

 お互いの殺意が交わるたび、火花がとび、甲高い音が響いていた。

 

 しかし実力は俺の方が上である。

 

 少しずつではあるが、彼女へ浅く攻撃が当たり、確実にダメージを蓄積させていた。

 

「後ろへ跳べ! アイレット!!」

 

 言葉と共に放たれたのはファイアーボール。

 敵隊長の放った物で、おされているアイレットを援護する為のものだろう。

 

 俺がこれを避ければ、その隙をついて剣がとんでくるはず。

 

 ならば――

 

「!?」

 

 避けなきゃいい。

 二人分の驚愕がまとめて聞こえてきた。鳩が豆鉄砲喰らったような顔してやがる。

 いい顔だぜ。

 

「――ッゥ―ゥラアアァァッ!!!」

 

 芯まで響く焼けるような痛みに耐え、視界が真っ白になりそうな苦痛に耐え、俺は攻撃を繰り出した。

 

 単調な斬撃であったが、虚をつけたのだろう。

 

「――ギャ……グ……ッ!!」

 

 女性の物とは思えない、死にかけのカエルみたいな悲鳴がアイレットから漏れた。

 

 それは俺の剣が彼女の体に決して浅くない傷をつけた証である。

 

「勝負、あったな」

 

 膝をつき、その足元に血溜まりを作っている彼女の姿が、先程の攻撃のダメージを物語っていた。

 

 苦しそうに肩で息をしている。

 

 もう万全の状態で戦うことは叶わないだろう。

 そして万全じゃないなら俺の敵じゃない。

 

「……どう……かな? 君だって……ダメージを受けてるじゃ……ないか……」

 

 満身創痍の女騎士は、無理矢理作ったような笑みを浮かべる。 

 

「あぁ……。これね」

 

 視線を少女に向けた。

 

 すれば怯えた顔で回復魔法を唱えてくれ、俺の傷は癒えた。

 

 回復魔法持ちがいなきゃこんな捨て身の闘い方はしない。

 痛覚は我慢すればいいが、ダメージはそうもいかないからな。

 

 アイレットはそれを見ていっそう顔を歪めた。

 

「そんな小さな娘を巻き込んで……罪悪感がないのか……?」 

「目的のために手段は選ばねえって決めたんだよ……。まあ、死ねや」

 

 剣を振りかぶり、力なく睨んでくる彼女にとどめを刺そうとした時だった。


「――!?」

 

 俺達の間に割って入るように出現する火の壁。

 

 フレイムウォールと呼ばれるそれは、洞窟を端から端まで完全に分断する形で出現してきていた。

 

「アイレットは……やらせねえよ……」


 声の方へ視線を向けると、敵隊長がいた。

 

 ……? こいつもこっち側にいるのか。

 

 フレイムウォールで俺を分断して逃げるつもりなら、こいつはこっち側にいちゃいけない。

 アイレット側に居ないとフレイムウォールが邪魔で出口へ迎えないしな。

 

「隊長……!!」

「アイレット、お前は逃げろ。こいつは俺が引き受ける」

 

 なるほどそういうつもりでこっち側にいたのか。

 そりゃ随分部下思いな事だ。

 

「そんな……隊長を置いて逃げるなんて……」

「馬鹿野郎!! 全滅したら誰がこの事を国に伝えるんだ!! 早く行け!!」

 

 まあそれはこっちとしてもありがたい。

 

「わかり……ました……っ」

 

 きっとアイレットは苦虫を噛み潰したような顔をしてるんだろう。

 聞こえた言葉から並々ならぬ感情が感じられた。

 

 洞窟の外へ向かって遠ざかる足音を聞き、敵隊長は口を開いた。

 

「ってなわけだ。ここは行かせねえぜ」

「別に行く気もねえよ」

 

 強がりでは無く本音である。

 

 俺の標的はあくまでもこいつ。

 

 アイレットを逃がす事で色々と不具合があるかも知れないが、別の国へ行けばいいだけだし……。

 

 むしろやりやすくなった。

 

「……俺が狙いだったのか……? てっきり剣鬼の名声狙いかと……」

「そんな名声は興味ないな」

 

 アイレット剣鬼とか呼ばれてんのかよ……。

 

 まあ強かったしね。

 

「それはめずら――」

「これ以上話す事は無い」

 

 彼の言葉を遮るように、その首を跳ねた。

 

 出口を無くした空気が断面から漏れ、何とも間抜けな音を出している。

 

「ふぅ……。疲れた」

 

 血を吹き出す死体から距離を置いて腰を下ろす。

 

 マジで疲れた。

 今日は下手すれば死んでた。

 

 このスキル、魔物相手なら余裕なんだか……。人間相手だと中々なぁ……。

 

 ザンタボルトと戦うまでにもっと強くなんねえと。

 仮にもウルアン王国二英雄の片割れ。弱いはずがない。

 

「おっ」

 

 術者が死んだからだろう。

 

 フレイムウォールが消え、出口への障害は無くなっていた。

 

 これで帰れる。

 

 そう思い、重い腰を上げようとした時――

 

「――死んじゃえ!!」

 

 いつの間にか俺の背後へ回っていた少女が、恐らく兵士達が持っていた物だろう。

 剣を振りかぶり、俺へと振り下ろしてきた。

 

「――ッ!!」

 

 咄嗟の事で判断が遅れ、回避は出来なくなった。

 

 ならばも、左腕でそれを受ける。

 

 激痛が走るが、所詮は年端もいかない女の子の剣。

 大した傷には至らない。

 

「キャ――ッ!!」

 

 空いている右手を少女の腹に叩き込む。

 くの字に折れた彼女の体は軽々と吹き飛び、壁にぶつかって静止した。

 

 どうやら気を失ったようで、立ち上がる気配はない。

 

 ……。

 

 視線を少女へ向け、そして少年へと向ける。


「こいつら……どうすっか……」

 

 置いていくわけにも行かないよなぁ……。


  

――

  

 

「かけなさい」

 

 老人――ギルドマスターに言われ、それに従う。

 

 ここは闇ギルドの中。

 

 俺は依頼を受けた部屋に再び来ていた。

 

「これが頼まれていた首です」

「確かに」

 

 布に包まれた生首を渡す。

 何にも包まず渡してやってもいいけどな。

 

 絵面がやべえからやめておいた。

 

「本来なら兵士達が洞窟に来るまでに倒して欲しかったが……。まあいい。今回のはお前さんがちゃんとウルアンと敵対してるかってのの確認だったしな」

「……信頼していただけるようでなによりです」

「依頼の件はこれで終わりだな。それとは別に――話がある」

 

 彼の纏う空気が変わった。

 圧が増したというか、威圧感が増したような気がした。

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