ウルアン王国直属第六部隊
俺は一人森の中を歩いていた。
この森の奥に、件の採掘場があるらしい。
一人で、いや独りで歩き続ける。
だって仲間なんていないしね。
悲しくはないさ、元の世界でもぼっちだったわけだし、俺にとっては一人こそが日常? っていうか一人のが落ち着くからな。
何て言い訳しても虚しさが無くなるわけもなく、より一層虚しさが増してきていた。
草陰で小動物が交尾していた。
猫みたいな生き物だ。
雄が雌の上に被さって腰を激しく振っている。
三秒といったところか。
数秒で雄は動かなくなり雌の上からのいていた。
早漏というのは決して悪ではない。
野生の世界において、交尾なんて隙の多い行為を短時間で終わらせられるのだ。素晴らしい特技といえる。
だというのに人間はそれを否定し侮蔑し、あまつさえ馬鹿にしてくる。
我々人類は知能と引き換えに大切な物を見失っているのかもしれない。
ルリーあの女……凄え嘲笑ってきやがったからな。
いや別に俺早漏じゃねえけど。
ちょっと十秒くらいで誤射しただけだ。
「……」
こんな時だというのにルリーの裸を思い出して弾道があがってしまう……。
いやぁ……。男ってねえ……。本当馬鹿なのかもしれないなぁ……。
目の前には朽ちた木があった。
動物に噛じられたのか経年によるものなのか至るところに穴が空いている。
「木にも穴はあるんだよな……」
何考えてるんだ俺は。
……なんか虚しくなってきたなぁ……。
一人だと駄目だな。テンションがおかしくなる。
何て自身の内なる狂気と戦いながら歩いていると目の前にテントが見えてきた。
茂みに隠れて、それらに目をやる。
「……」
森の開けた場所にテントがたてられているようだ。
ざっと見ただけで六人程確認できた。
女が一人男が五人ってところか。
静かな森の中では、彼らの話し声はよく聞こえた。
やれだるいだの。やれ早く帰りたいだの。そういう男共の会話を女が嗜めている。
ちょっと男子! ちゃんとやって!! っやつだな。
……こいつらがウルアン王国から演習で来た小隊で間違いなくなさそうだ。
どうするか。
今から突撃してみるか……?
俺にはスキルがあるし……多分どうにかなるよな。
いや、それは危険か。
一旦引いて策を考え――
乾いた音が鳴り響いた。
地面に散らばる無数の枝。
乾燥し尽くしたそれが折れた音である。
(やべ――ッ)
折ったのは俺。
移動しようと足を動かしたら、つい踏んでしまった。
「誰だ!」
テントの方から女の声がこちらに放たれた。
一瞬にして俺の体が、冷や汗で汗だくになっていくのが分かった。
……隠れていても仕方ないか……。
「す、すいません……道に迷って……」
両手をあげ、姿を表す俺に複数の視線が集まる。
俺コミュ障だからぁ……。あんまり見られるのは恥ずかしいっていうか黒歴史思いだすっていうか……。
小学校の頃、教室でお漏らしして奇異の視線を向けられたのを思い出すなぁ。
「旅人か?」
「はいそうです」
女の問いに嘘なく答えた。
二十半ばくらいの凛とした女性だった。
迷ったってのは嘘だけど旅人なのは嘘じゃない。
それを聞い彼女は友好的な素振りで近づいてくる。
「そうか……それは大変だね。時間もあるし私が街まで送ろう」
良いおばさんじゃねえか。
「す、すいません……。お願いします」
とりあえず従って隙を探すとしよう。
「私の名前はアイレット=タオナ。君は――」
「? どうかしましたか?」
アイレットさんはいきなり言葉をつまらせていた。
「君、以前に私と会ったことあるかな?」
「アイレットさんと? ……ないと思います」
新手のナンパだろうか。
――あ。
そうだよ。
こいつらウルアン王国の兵士だろ?
多分ウルアン王国で俺は指名手配的な事されてるんじゃないかな。
だから手配書みたいなのがあって、それで俺の顔を見た事があるのかもしれない。
……ありえるな。
「い、いや。ならいいんだ。君の名前はなんて言うんだ?」
「俺はタロウって言います」
もしそうなら本名はまずい。
とりあえず偽名を名乗っておいた。
「珍しい名前だね。ゲルムンバグまででいいかな? 早速行こう。隊長ーっ!」
アイレットさんは離れた場所に座っている一人の男に向かって大きな声を出した。
「わかってるよ。他国とは言え民間人保護も俺らの仕事だからな……。さっさと行ってこい」
気怠そうに返す彼、天パでモジャモジャの中年のあの男がこの隊の隊長か。
俺の標的。
このまま街まで帰るのもいいが……。
わざわざ戻ってくるのも面倒だな。
俺の目の前にアイレットさんがいて、その後ろに四人の集団、その後ろに一人で座ってるのが隊長さんだ。
まずこの女を殺す。
一瞬で殺し、驚いてる隙に隊長を殺す。
他の四人は無視して逃げればいい訳で。
いけるか……?
今この場で殺せるか?
――殺す。
見た感じ普通の兵士だろ?
別に魔物の近くで強化されているわけではない、通常状態のスキルでもどうにかなる筈だ。
――躊躇なく殺す。
技量的に可能なら、実行しない理由は無かった。
今の俺に躊躇いなんてある筈も無いんだから。
「黙り込んで、どうかした?」
心配そうな顔で覗き込んでくるアイレットさん。
それが隙になる。
「――ッ!!」
一瞬。否、それにすら満たない速度で放たれた斬撃。
彼女の首を狙って放たれた、常人なら認識すらも出来ない一振り。
「――なんのつもりかなッ!」
鳴り響くはけたたましい金属音。
「嘘だろ……」
……俺の剣は首には届かず、道半ばにしてアイレットさんの剣に受け止められていた。
要は防御されたのである。
「まだまだァ!!!」
予想外だがッ!!
一太刀防がれたからなんだというのか。
俺は彼女を殺すべく連続して攻撃を繰り出す。
「グッ……!!」
漏れ出たのはアイレットのうめき声。
流石に攻撃全てをいなす事はできなかったようで、数発が命中した。
しかし、そのどれもが、致命傷を避けられており、殺すには至っていない。
クソ――ッ!!
何だこいつ……。
強えぇ……!!! シュナイダーと同レベルじゃねえか……!!!
あの頃より俺は強くなった。
レベルもあがったし何より戦闘経験を積んだ事により動きも洗練されてきていると思う。
だから目の前の女を倒す事は今の俺にとって難しい話ではない。
ないのだが……。
それはあくまでタイマンでの話。
「何が何だかわかんねえけどよ……!!」
今になってようやく、隊長や他の兵士達が臨戦態勢に入った。
言いながら剣を構えてきたのは隊長だ。
……反応速度からわかる。他の人間は強く無い。
この女の練度が異常なんだ……。
何だって俺の標的がいる部隊にこんな女がいやがる!!!
「その……強さ……。な……何者な…んだ……君は……」
息の切れた声でアイレットが問いかける。
しかし、その問いを払い除けたのは俺では無く隊長さんだった。
「奴の正体は後回しだ。陣形を組め、囲んで殺るぞ」
……最悪の想定外……。
ピンチだ。




