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一年間の異世界転移  作者: 茜霞殿 姫太郎
第一章 プロローグ
4/85

転移

 ――ちゅんちゅん。


 和やかな鳥の囁きと優しい朝日に照らされ俺は目を覚ました。


 ――はははっ。おい、よせよ。


 声には出さず頬を緩めた。

 鶏が数匹首元に集っていてこそばゆい。


 ここはどうやら森の中らしかった。


 大きく深呼吸。

 空気がうまい。


 さて

 異世界に来ての第一声である。


 何かカッコいいことを言おう。


 ――世界にとっては小さくても、俺にとっては大きな一歩だ


 よし、これに決め――


「ぎゃあああああああああああああっっ!?!?」


 迫りくる痛みに思わず絶叫。


 それに驚いた鳥達が俺から逃げるように飛び立った。


 え、何? 痛い。

 焼かれた傷は治してくれてるって言ったじゃん!!


 思い自分の体を見てみた。


 所々についばまれた跡がある。

 どうやら捕食されかけていたらしい。 


 いや守っとけよ女神!!

 俺の死体守っとけよ!!


 ってかあの鳥共俺食おうとしてたのかよ!!


 懐かれてんのかと思って撫でちゃったよ。

 バカみたいじゃん。


「まあいいや。……あー、〈ステータス〉だっけ?」 


 俺の言葉をに答えるように、視界に文字が浮かぶ。



 紅木結城あかき ゆうき16歳 男


 Lv1


 体力 18/30

 魔力 60/60

 筋力 2

 魔法攻撃力 48

 守備力 3

 魔法防御力 7

 敏捷力 2

 意外性 1


 スキル 〈??????〉 〈魔法無効化〉



「なんか文字化けしてんな……」


 なんだこれ怖い。


 てかこのステータスが高いのか低いのかよくわかんない。

 比較対象が欲しいし、他の人間に会ったら聞いてみよう。


「さて、と」


 改めて周りを見回す。


 木しかない。

 見渡す限りの木、木、木、木、木。

 

「――ん」


 いや、人がいた。


 木々の隙間から不安そうにこちらを伺っている人影が見える。

 ぼさぼさの赤髪を肩の辺りまで伸ばしたTHE田舎娘って感じの女の子だった。


「こんにちは?」

「――」


 その娘はびくりと肩を跳ねさせ、そのまま走り去ってしまう。


「あー……」


 色々聞きたかったんだが……、驚かせてしまったか。

 まあ行ってしまったものは仕方ない。


 人がいるって事は近くに集落なりなんなりがあるって事だ。

 あの娘が走っていった方向にそれはある可能性が高い。

 それを探そう。

 

「どっこいしょ」


 ふー。と息を吐きながら立ち上がった俺は、異世界での第一歩目を大袈裟に踏みしめた。

 

  

 迷った。

 はい。迷いました。


 ここはどこだろうか。

 喉乾いたし汗かいたし足痛いしお腹減った。


「ん」

 

 そういえばやけに静かだな。

 

 森なんだから生き物の一体や二体いても良さそうだが、目覚めたときに集ってた鳥以外何も見ていない。


 異世界だからか?

 異世界の森ってこんなものなのかしら。


 なんて事を考えていると遠くの方に何かが見えた。

 よく見えない。


 木の隙間から蜘蛛のような脚だけが見える。


(でけえな)


 見た感じ三メートルはあるだろうか。

 大きな――蜘蛛……?

 ――いや


(人……?)


 隙間から抜け姿を完全に表したそれを見て眉をしかめる。


 蜘蛛の脚に人の身体がのっかかっていた。

 アラクネか……? あれ。


 すげぇ!

 異世界凄ぇ!!

 ファンタジーって感じじゃん!


 怖いので木の後ろに隠れながら思わず興奮する。  


「――ん」


 あれ?

 こっち見てね?


 距離も十メートルは離れてるしそうそう見つかるとも思えな――

 ――瞬間。


 俺の意識は暗転した。



――



「……」

「……」

「……はぁ」


 目の前の女神様が大きなため息をついた。


「……」

「貴方は今、死にました」

「はい……」


 どうやら俺はあのアラクネに殺されたらしい。

 隠れていた木ごとひき肉みたいに叩き潰されたと言っていた。


「貴方の魂は肉体が死ぬと、あの世に行くのではなく消滅します」

「え」

「今回はたまたま私が気付いたから消える前に無理やり連れてきただけで、多分次はないでしょう。てか次やったら魔法世界管轄の他の女神にどやされますし」


 もう死なないでくださいね?

 

 と苦笑いする女神様。


「け、けどさ! だってしょうがないじゃん!? ニートよ俺。森でサバイバルなんてできねえって」

「まぁ……はい。そうですね」

「だろ!?」


 ってか半分くらいはお前のせいじゃん!! 

 ちゃんとチート能力授かってたら結果違ったかもしれないじゃん!?

 

 そんな俺の思考を読んだのだろう。

 彼女は満面の笑みを作る。


「ドラマ……すっごく楽しかったです」

「うるせぇ!!」


 聞いてねえよそんな事。


「あ、後、先程言い忘れていたのですが、転移魔法陣の事は他の人間に言わない方がいいですよ」

「なんで?」

「あの魔法は魔法世界では禁忌魔法に分類されてますので……。貴方を殺した男も、貴方が転移される事で自分が転移魔法を使った事が周囲にバレるのを危惧しての行動ですから」


 それくらいタブー視されてるんですよ。と微笑む。


「なるほど」


 最初に言っといて欲しい。


「貴方のせいですよ……? おっぱいおっぱいうるさいから」

「……」

 

 もういいや。

 疲れちゃった。


「さて、じゃあ再び生き返りましょうか」

「あざっす」


 女神が手をかざすと俺の体が輝き始める。


「とりあえず先程の森の中にある村の前に転移させておくので、後はもう死なないように頑張ってください」

「はい。ありがとうございます」

「え――? おっぱ――」


 言葉を聞き終わる前に俺の視界が暗転する。


 聞かなくてもわかるし聞く必要もない。



――



「……ん」


 目を覚ます。

 今度は痛みは感じない。


 体を横にしたまま視界を巡らせる。


 隅の方に集落が見えた。


 そんなに大きくないな。

 人口は100人いるかいないかって所か。


 立ち上がろうとして違和感に気付いた。


「あれ」

  

 ……あれ?

 体が動かない。


「目覚めた!! 目覚めたぞ!!」


 近くにいたらしい男が何やら叫んでいる。


 え? 

 あれ?


 俺の体は縄か何かで雁字搦めにされていた。


 そして村の方を向いて叫ぶこの男は門番か何かだろうか。

 槍と思わしき武器をこちらへと向けてきていた。


「敵襲!! 敵襲だああああああああッ!!」


 俺を見ながら叫ばれるそれを聞いて、思わず全身から汗が吹き出した。

 村の方からバタバタと複数の足音が聞こえる。

 間違っても俺の味方では無いだろう。


 ……二度目の死もそう遠く無いのかもしれない。

2020/07/11 リメイク済

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