そういうスキル
リアルで色々あって更新できてない……(´;ω;`)
少しずつ更新できたらなって……。
「随分余裕だな?」
俺から魔物へ。
目の前のこいつを単体で殺せるのは多分俺だけだ。
だから俺と出会うこのシチュエーションは一番最悪なはず。
だというのに、余裕げな顔を崩さない。
虚勢か……? いや、何かあると思うべきか……。
「私が貴方に抱くのは焦りじゃないわ。お気に入りのおもちゃを取り上げられた時のような怒りよ」
「……」
女の魔力が膨れ上がった。
戦闘態勢に入ったということだろう。
漏れ出る膨大な魔力にアーランドが冷や汗をかいていた。
「アカキ……こいつ……」
「あぁ。魔物だな」
俺にとってはスキルのおかげで余裕な相手だが、アーランドにとっては遥か格上。この反応は仕方がない。
「貴方、殺せるの? 私を。いや、私の身体を」
「……もう迷わねえって決めてんだよッ」
こんな状況になったのは俺のせいだから。
最善だと思った行動をする事に、俺はもう躊躇わない。
そんな思いをぶつけるように俺は飛び出した。
俺と女の距離は瞬時に詰まり―それは剣の間合いになっていた。
振るわれる剣先。
強化された俺の肉体は人間離れした速度で斬撃を繰り出す。
「なッ!!」
渾身のそれが女に当たることはなかった。
地中から出てきた――鎌……だろうか。
巨大な鎌が大きな金属音をたてながらも、俺の攻撃を防いでいたのである。
「地中に駒を忍ばせておいたのかよ……」
地面が盛り上がった。
どうやら寄生虫に寄生された何らかの生き物を地中に待機させていたらしい。
それは少しずつ姿を表していた。
「カマキリか」
全貌が顕になり、浮かんだ感想はそれ。
二メートル程の巨大なカマキリ。
「デス・クレイモアルというのよ。カマキリなんて名前じゃないわ」
俺の純粋無垢な感想に女の野暮な茶々が入る。
「気にすんな。俺の世界の話だよ」
「不思議な事を言うのね……。そんな事言ってる場合かしら? このクレイモアルはね、最も魔物に近いと言われる生物なのよ?」
「?」
「確かに魔力こそは持っていないけれど、その強さは準魔物級。そんな化物が、ほら、後五体も」
彼女の声に合わせるように、五箇所から一体ずつ。五体のカマキリが地下から出てきた。これで巨体が六。
凄まじい光景である。
「い、一体は俺がなんとかする。まかせろ。地獄まで付き合うぜ」
スキルを発動し、腕を変質させたアーランドが震えながらに言っていた。
「その必要はねえよ。お前が戦う必要も、地獄に付き合う必要もな」
ふう。
リラックスするように息を吐いて―。
一瞬であった。
「――ッ!」
女の驚愕を感じる。
彼女の視線の先は空中を舞う六つの塊。
「準魔物級って言ったって、魔物のあんたには及ばないんだろ? なら手こずるわけない。仮にあんたが六人いても同じ結果になってた。……そういうスキルなんだ。俺のはさ」
どさりと。
鈍い音がして、舞っていたカマキリの頭が落下する。
「見逃さねえよ」
カマキリの頭部から飛び出る小さな何かを剣で切り裂いた。
寄生虫だ。
宿主であるカマキリが死んだから出てきたのだろう。
ブラッドウルフの時は気付かなかったが、もう見逃す事は無い。
同様に他の個体からも寄生虫が出てきて、その全てを斬り殺した。
他の生物に寄生されても困るしな。
「やっぱ化物だよ……お前」
アーランドが強張った声を出す。
「観念するんだな。もうあんたを守るものはない」
女へ剣を向けた。
それは将棋でいう王手と同じである。
「あら、それは寂しい……」
「余裕ぶんな」
「……はっ。それは私のセリフね」
「あ?」
「余裕ぶらない方がいいんじゃなくて? もう迷わないって決めたと言ったわね。それは自分に言い聞かせているんでしょう……? 自分は人を殺せるって。だからそんな飄々とした態度をとっているのでしょう? あからさまなのよ、わかりやすいわ。貴方」
「……」
……また前のような精神攻撃だ。
奴は焦っている。だからこうやって精神に攻撃してきているんだろう。
剣を振りかぶる。
……これで終わりだ。
「もう一度聞くわ。貴方に私の身体が殺せるかし――!?」
「殺せるよ。言ったろ。迷わねえって」
その剣先は女の心臓を突き刺した。
心臓の鼓動が剣越しに伝わってくる。
しかしそれも少しの間の事。
鼓動はすぐに止まり、生命活動を停止した。
……まだだ。
これは身体の生命活動が停止したにすぎない。
脳には女王がいるはずだ。
故に、狙うは頭。
繰り出した斬撃は彼女の頭を二つに切り分けた。
横へ、輪切りにするように切ったのである。
――最悪の気分だ。
何が悲しくて人間の脳の中を覗かないといけないんだよ。
そして見つけた。
脳の中で微かに動く寄生虫を。
思ったより小さい。
他の寄生虫と変わらないサイズだ。見た目も変わらない。
女王だっていうから、もっと大きくて違った見た目を想像していたが、そうでもなかったのか。
それを指で摘み、潰した。
「終わりだ」
粉々になったそれを見て、思わずそんな言葉が出ていた。
流石に粉々の状態で生きているとは思えない。
少々呆気なかったが、これで今回の事件は解決だ。
あと数日もすれば人を操っている寄生虫も消滅する事だろうし、アーランドの冤罪も晴れるだろう。
何はともあれ、これで終わったんだ。
足跡がして振り返ると、アーランドがこっちへ向かってきていた。
「ありがとな、アカキ」
「なんでお前が礼を言うんだよ」
「俺の冤罪がこれで晴れるからさ」
「……あぁ」
元は俺のせいなんだ。
当然の事なんだけど、アーランドはそう思ってないんだろうな。
俺には勿体くらい良い友だ――
いやまて。
俺は何を思いかけた。
こいつが友達? ねえよ。
「アーランド、お前はここに居てくれ。俺は街に戻って魔物の討伐報告と、あと他の寄生虫の相手してくるわ」
「わかってる。ほとぼりが冷めるまで大人しくしてるよ」
「……ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ」
「……何でもねえよ。じゃあ行ってくるから」
―
アカキが街へ行ってから十数分が経っていた。
彼、アーランドは持て余した暇をぼーっと過ごしていた。
「暇だな……」
やることが無い。
くつろごうにも辺りには死体が散乱している。
変に場所を変えてアカキが自分の場所をわからなくなってもいけないし……。
とてもくつろげる状況でもなかった。
「――ッ!?」
そんな空気に水を指すように死体の一つが動き出す。
それは女王が寄生していた女の死体だった。
「お前……死んだんじゃ……」
漏れ出るアーランドの恐怖。
「別に私があの男に勝てるとは思ってないから……。精神に揺さぶりをかけたのも本体を見つけられないようにするためだし」
「アカキが粉々にしたはずだろ」
「あれは囮よ。私じゃない。本物の私は戦闘が始まった段階で、脳の隅の方、体を操れる限界まで離れて隠れていたの。それに気づかれないように精神を揺さぶったわけだしね」
「そ、そんな……」
言いながら、女の体はみるみるうちに治癒されていく。
これは女が持つスキル《全開治癒》の能力である。
一日一回だけ対象のHPを満タンにできるスキルなのだ。
「しっかし……何なのあの男は……。下手すれば魔王様級じゃない……」
ぱんぱんと服についた砂埃を払う仕草はただの女の子のようにも見える。
(ど、どうする……。アカキがいない状態で魔物と接触とかふざけんなよ。逃げるか……? いや、駄目だ。女王個体なんて次いつ見つけられるかわからないんだ。ここで逃せばまた多くの人が犠牲になる)
アーランドの腕の風貌が変わっていく。
爪は鋭く、殺戮的な見た目へと変わりゆく。
「俺がここで倒すしかねえよなぁ……!!」
「……は? 何様なのかしら。人間風情が」
その変貌は、彼が臨戦態勢に入った証だった。




