接敵
ルリー、それからトクの住んでいたグロータル村が属するウルアン王国。
その王宮の一室の円卓に座る影があった。
「異界探索も成果はなし。我々の目的には問題が山積みだな」
ザンタボルトである。
円卓に座る十の影は彼とその部下達のものであった。
「例の――魔王の死体ですが、大まかな場所は割り出せました。詳細な場所となるともう少し時間が……」
言ったのはザンダボルトの横に座る男。
名前をラーク・メビウセンと言う。
単純な実力なら王都五本指には入る実力者だ。
「急がせろ。我々の目的の為にあの死体は必要だ」
「わかっております」
高圧的なザンダボルトの言葉をすんなりと受け入れるその姿には、階級以上に彼を崇めているということが伺える。
そんな二人の間に割った入る声がある。
「ザンダボルト様、例の少年はどうしましょう。まだ死体の確認ができておりませんが」
その主はノリス・バライト。
シュナイダーを突破したアカキ達の前に立ちはだかり、ルリーを刺した男である。
「あぁ……アカキとか言ったか? 異界の男の事か……。もう根回しはすんだ。仮に生きていたとしても、今更漏らされた所で問題はない。放っておけ」
「了解しました」
――今は、魔王の死体が最も重要だ。
そんなザンダボルト言葉が部屋の中に響いていた。
――
どうする……。どうすればいい。
どうすればこの兵士達を納得させられる?
「いや……俺は魔物じゃねえ。信じてもらえないかもしれないけど、スキルの効果なんだ。女王に寄生なんてされてない」
アーランドの言葉。
……真実である。
でも多分兵士には通用しない。
「スキルの効果だと? その証拠はどこにある。寄生されていない証拠もどこにある?」
「そんな証拠だせるわけないじゃないか」
兵士の言葉に反論するアーランド。
罰するための証拠をもってこいではなく、罰されないための証拠をもってこい。
中世もいいとこだな。
でもこれがこの世界だ。
「現状において貴様の言葉の裏付けをする暇はない。仮に違うとしても、貴様一人の命で街が救われるかもしれないなら、その命奪わせてもらう」
自分の命を守る為に躊躇いは許されない、そんな余裕なんてないクソッタレな世界だよなここは!!
俺のせいだ。
俺がどうにかしないと。
兵士を殺すか?
それは簡単だけど得策じゃないな。この国を敵に回す事になる。
時間を稼げればそれでいい。
本物の女王が討伐されればアーランドの疑惑だって晴れる。
無罪となった時、兵士を殺していたりしたらそこで遺恨が発生するしな。
「おい! 逃げるぞアーランド!!」
アーランドを連れて人目のないとこへ逃げてほとぼりを冷ます。
これが思いつく限りの最善だ。
「え、あ、でもよ」
俺の言葉に返したアーランドの声はうわずっていた。
当然か。
幸いにも彼はスキルを発動したままだ。
おかげで俺のスキルは強化された状態となっている。
丁度いいぜ!!
アーランドを抱き上げ街の外へ向かって駆け出す。
「舌噛むなよ」
「え、あぁ、ああ」
いわゆるお姫様だっこ。
それをされた彼は驚愕の顔をしていた。
「すまねえ、俺のせいだ」
街の外。
街を見下ろせる崖の上に俺達は逃げ着いていた。
「いや、俺が迂闊だった。咄嗟にスキルを使ってしまってた」
「……そう言ってくれると助かる」
これからどうするか。
こうなった以上、アーランドは捜索に参加できない。
ここにこいつ放置して俺だけ街に戻るっていうのとも気が引けるし――
「アカキ。お前は街へ戻ってくれ」
思考を読んだかのように被せられた言葉。
早く戻って魔物を倒せと、彼の目はそう告げていた。
「アーランド……」
「仮に魔物を見つけたとしても、その討伐にはかなりの困難が予想される。でも、でもお前なら」
「……ああ。俺なら魔物だろうと、いや、魔物だからこそ容易く屠れる」
「決まりだな。街へ行ってくれ」
……確かにその通りだ。
俺が戦った方が犠牲は少ない。
クソ……。さっき悩んだから、躊躇ったからこんな事態になってるんじゃないか。
また躊躇ってどうするんだ。
見下ろす街は、一見平和そうに見える。
とてものどかなものに見える。
でも戦闘が始まればそれは瓦解するだろう。
「わりい、行ってくるわ」
女王を倒し、この戦いに終止符をうつ。
決意を胸に踵を返そうとした時だった。
「〜♪〜ふふふふふふ〜ん♪」
暖かな風に乗って、鼻歌が聞こえてくる。
女の物だった。
こんな所に人……?
「アーランド、スキルをといてくれ。可能性は低いが、あの人が探知スキル持ちだったらめんどくさい」
五十メートル程離れた所に見える人影。きっと鼻歌は彼女のものだろう。
まだこちらには気づいていないようだが、気づいて何かあったらめんどくさいしね。
「? といてるぞ。ここに来たときからな」
「は?」
じゃあなんで?
俺はてっきりテンパったアーランドがまだスキルを使ってて、だから俺のスキルが未だ強化されたままなのだと思っていた。
でも違う?
……じゃあなんで俺のスキルは強化されているんだ……?
「……」
ここは街の中を見るには最高のスポットだろう。
上から見下ろせるんだからな。
――操ってね、仲間割れさせるの。本当に、最高に楽しいんだから
かつて、奴はそう言っていた。
街の中で人間同士が殺し合っている。
奴にとってそんな楽しいショーはないだろう。
そしてそんなショーを見逃す訳はない。特等席で見たいはずだ。
……。
「久しぶりだな……今度の寄生先は前よりブサイクじゃないか。女王様よ」
なんて偶然。
間違いないこいつが女王だ。
逃さない距離まで近づき、声をかけた。
「あら、面倒くさい男に見つかってしまったのね……」
返ってきたのは、変わらぬ人を小馬鹿にした口調であった。




