捜索
「では皆、健闘を祈る!!」
ギルドのロビーにギルド長の声が響き渡った。
それは『魔物捜索』クエストの開始合図だ。
「つまり、俺らは囮かよ?」
「ま、必要な役割みたいだしな、頑張ろうぜ」
「いやそれはわかってるけどさ……」
アーランドに愚痴れば、嗜めるような言葉が返ってきた。
今回のクエストは衛兵と冒険者との共同作戦といえば聞こえはいいのだが……。
この街は衛兵に守られている。日本で言う警察だ。
その衛兵、つまりは兵士の中に二人、魔物を識別するスキルを持った人間がいた。
今回の作戦にあたりこの国の首都――ゲルムンバクから同系統のスキル持ちが三人派遣され、感知スキル持ちが五人いる事になる。
俺含めたら六人だけど、俺のスキルはアーランドしか知らねえしな。言う必要も無いし。
要は、そいつらが街を回る。
くまなく回って魔物を見つけ出すというのがメインの作戦。
んで、俺達冒険者はそれを魔物に知られないために囮として、あえて表立って捜索する手はずとなっていた。
「愚痴るのはいいですけど、ちゃんと仕事はしてくださいね」
黒髪の綺羅びやかな女性。ジト目で俺を見てきているのはそんな人だ。
冒険者は四人一組で捜索に当たることとなっている。
俺、アーランド、そしてこのドレスさんは同じ捜索隊となっていた。
「それはわかってますよ」
あの人を小馬鹿にした魔物女をぶっ殺してやる。
いや、女か?
あの時は女に寄生してたけど、本体の性別はわかんねえか。どうでもいいけどな。
「やばい、僕興奮してきたかも」
なんて頬を赤らめ息が荒いのがドクターである。
「なんでドクターが同じ隊なんですか」
この人冒険者でもないんでもないだろ。つか戦えんの?
「アカキ君。不満かい?」
「別にそういうわけじゃないですけど」
「目に不満って書いてるよ。大丈夫、一応冒険者でもあるし、あ、でも、戦闘能力は一般人レベルだから。守ってね」
えへんと胸を張る彼。
そういうのはな、胸のあるドレスさんとかがやるからいいんだよ。男がやってもキメえだけだ。
冷めた目でドクターを見ていると、横にいたアーランドが、軽く引き攣らせながら口を開いた。
「お前、深層心理でエロい事考えてる顔してるぜ」
「嘘だろ……」
そういえばユニークなぺったんもそんな事言ってたよな……。
俺って案外やばいのだろうか。
「それじゃあ、捜索にいこうか」
ドクターの声に頷き、俺達は街中へと向かった。
――
捜索とはいっても基本歩いてるだけだ。
普通の寄生虫に寄生されてる奴なら、もう顔がやばいからわかるけど、女王個体のとかわかんねえもん。
「アーランド、お前今回の作戦でスキルは使うな」
横を歩くアーランドに小声で話しかける。
ドレスさんとドクターに聞かれないようにだ。
「? なんでだよ?」
「魔物を感知するスキル持ってるやつらが捜索してるんだぞ。お前のスキルだと勘違いされる」
「あー……。確かにそうだな」
「俺がいるから戦力的にも問題ないだろうし。無能を演じてくれ」
「できるかな……」
「いつも通りに素を出せばオーケーだ」
何やらアーランドが訴えかけてきているが、無視でいいだろう。
それより今はドクターに聞きたいことがある。
アーランドから離れ、少し離れた所にいるドクターの所へ向かう。
「どした?」
気付いた彼が手を振ってきた
「どうしてドクターは俺達と行動を共にするんですか?」
聞きたかったのはこれである。
兵士と行動を共にすればいい。彼らの方が実績もあれば組織的で安全だろう。
「ん? 兵士だと厳しいから嫌いなんだ。好き勝手できない。せっかく愛しの魔物に会えるのにそんなの切ないだろ?」
「……なるほど」
つまり俺ら相手だと好き勝手できると。
まあ、うん。できるね。
俺も好き勝手ドレスさんの胸見まくってるし。でかいもん。
ドクターが思い出したように言った。
「これ君に言ったっけ?」
「はい?」
どれですかねぇ。
「ブラッドウルフといい、通り魔犯といい、脳内に残っていた寄生虫はみんな死んでいたんだ」
「はい」
「でも君が殺した幼女、彼女の脳にいた寄生虫はまだ生きていた。部下の研究員の一人が寄生されかけて大変だったんだよ。まあ、それはどうでもいいんだけど」
「……おぉう……」
いいのかよ。
こんな上司嫌だな。
「その寄生虫を保管してね観察しようと思ったんだけど、半日で死んじゃった」
「それが何か」
「うん。それでね。寄生虫の死体を解剖してみても、彼らには消化器官が存在しなかった。寄生虫の寿命は案外長くないのかもしれない。それこそ一日やそこらとか」
「――つまり女王を殺せば、時間経過で他の寄生虫もろとも全滅すると?」
「そそ。多分兵士達には言ったんだけど、君らには言って無かったなって思って」
……いや言っとけよ。
大人の事情かな? そんなの知らねえよ。
「人に寄生するなんて怖いわよねぇ……」
話に入って来たのはドレスさんだ。大きな胸。
俺、大人の情事知りてえなぁ。教えてくんないかなぁ。
「君が寄生されたら研究材料にするから、無駄死にではないよ。安心して」
「? ありがとうなのかしら?」
ドクターなりの励ましだろうか。
それを受けた彼女は首を傾げてきた。
視界の隅で話に入れてないアーランドが悲しそうな顔をしているが、まあ無視でいいだろう。
――ッ。
「皆警戒してくれ」
「わかってるわ」
「あぁ。結構数いるな」
「え? 何? 何事?」
俺の言葉にドレスさん、そしてアーランドが答え、ドクターがあたふたしていた。
大丈夫かよ……。
殺気である。
複数の殺気が俺達へ向けられていた。
そして警戒する事数秒。
道の先から二十近くの人影が現れた。
どいつもこいつもラリったような顔をしてやがる。
……操られてる奴らだな。
俺のスキルが強化されている気配はない。
故に近くに魔物はいないのだろう。
「ドクター! さっき女王殺せば寄生虫は時期死ぬって言ってましたよね。ならこの操られてる奴らを拘束しておけば、寄生虫死亡と共に元に戻りますか?」
もし戻るというのなら、難易度はあがるが拘束したい。
何も無理に殺す必要は無いしな。
そんな願いのような問いは速攻で閉ざされた。
「いや無理だね。寄生された段階で脳細胞が破壊されてる、僕達が殺そうと殺すまいと、死は免れないよ」
「……そうですか」
ならくよくよしてても仕方ない。殺すしかない。
「俺が前に出ます。ドレスさんは俺の援護を、アーランドはドクターの近くで守ってあげてくれ」
ドレスさんは魔術師だ。
二人の返事を聞くのとほぼ同時に、俺は駆け出す。
「あ゛あ゛あ゛あ゛……」
遅え。
強化されてないとはいえ、スキルを前にただの人間が抵抗できるはずもない。
中年の男の腹を切り裂き、近くにいた若い男の首をはねる。
老人、少年、少女。
一人、また一人と斬り殺し、気付けばその数は五人にまで減っていた。
「援護しろって言っても……。早すぎてできないわよ……」
――よし。
やれる。殺れる。殺せる。
そうだ。
難しい話じゃないんだ。
ただ剣を振るうだけ、それだけだ。
「あ゛あ゛あ゛!!」
「あ?」
振るった剣。
しかしそれは最後の一人となった女に防がれた。
思わぬ抵抗に間抜けな声がでる。
俺の一撃を防ぐとか、生前は結構な実力者だったんだな。
格好的に冒険者か。ただの人間じゃないってかよ。
「けど無駄なあがきだぜ!!」
所詮一撃防いだだけ。それだけである。
再度肉薄、そして剣を振りかぶった。
これで終わり。戦闘が終わる――。
そんな油断のせいだろうか。
彼女の顔を見て、俺はふと、リーゼと呼ばれた女性を思い出した。
女王に寄生されていた女性。俺が殺した、俺が殺めた女性――。
――人殺しが!!!
「――!!」
フラッシュバックというのか。
男に叫ばれたあの時の事が鮮明に思い出され、剣先が一瞬止まった。
それが致命的だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「しまっ――」
走り出す女。完全に隙をつかれた形になる。
向かう先にはドクターがいた。彼がこの中で一番弱いと本能で悟ったか。
やべえ!!
俺相手なら雑魚とはいえ、一般人レベルでならかなりの強敵である。
「逃げろ、ドクター!!!」
「大丈夫だ」
俺の叫び声は、静寂な刺殺音で掻き消された。
アーランドの変化した右手が女を屠ったのである。
「アーランド……」
女性の倒れ込む音が鮮明に聞こえた。
助かった。あいつを護衛に回しておいてよかった……。
魔物化スキルを使ってしまってはいるが、この状況なら仕方ない。
流石だぜ。
「どうしたよ。躊躇うなんて」
心配そうな顔でアーランドが歩み寄ってきた。
「わりい……」
「しっかりしろよ」
「わかってる」
頭ではわかってたんだ。
こんなふうな躊躇いがいずれ取り返しのつかないことを招くって。
でも躊躇った。体が勝手にそう動いた。
……順応しなければならない。
俺が生きるのは日本じゃない。この世界だ。
この世界の生き方に慣れないといけない。
「無事か!?」
複数の足音、そして人影がみえる。
戦闘を聞きつけた兵士が駆けつけたらしい。
遅えよ。もう終わってしまったぞ。
彼らはぞろぞろと俺達の元へとやって来て、剣を抜いた。
……は?
「もう大丈夫だぞ!」
俺、ドレスさん、そしてドクターを庇うように壁を作り立つ兵士達。
いや。
まて。
待ってくれ。
――いずれ取り返しのつかない事になる。
それが、今なのか?
「今の反応!! 貴様が魔物! 女王個体だな!? 成敗してくれる!」
俺の、俺のせいだ。
俺が躊躇ったから――。
「――ッ」
その剣先は確かに、アーランドへと向けられていた。




