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一年間の異世界転移  作者: 茜霞殿 姫太郎
第二章 ハジの街
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不可解な事

「いやー気分がいいなぁ……」

 

 ホクホク顔で俺はギルドから出る。

 

 今回の防衛戦においてかなりの戦果を上げたため、勲章を貰ったのである。

 金色ピカピカのゴージャス仕様だ。

 

 中々嬉しいものじゃないか。

 

 金とか土地とか、褒美を渡す事はできないから、名誉――勲章で誤魔化されてるなんて、捻くれたことを言うのは野暮ってもんだ。

 

 まあ本音を言えば金よこせって話なんだがな。

 

 とりあえず、自慢ってわけではないが目立つ額にでも引っ付けておこう。

 自慢じゃないけどさ!!!

 

 ルンルン気分。

 

 さて、最後に仕事したし、このいい気分のままこの街を去るとしましょうか!!

 

 獣襲撃の影響で馬車が一日遅れたという話をギルドの人から聞いていた。

 だから今日乗れるはずである。

 さっさとそれに乗ろう!

 

「……は?」

 

 そんな淡い期待は裏切られた。

 

「すまねえ。昨日の襲撃にビビった商人が逃げちまっててよ。次の便に乗ってくれや……」

 

 申し訳なさそうな顔をするあんちゃん。

 ここは馬車の乗り合い所である。

 

 この時間に乗るはずだったのだが、チキン野郎が逃げたらしい。

 

 ……無理もないな。

 

 正直俺いなかったらこの街守れてないよね?

 クマさんとか俺いないと殲滅できてないよね??

 

 仕方ない。

 心の広い、素晴らしい人徳者の俺はそれを許してあげよう。

 

 次の便は3日後らしい。

 

 それまで時間でも潰すか。

 

 

「あっはっははは!」

 

 いやぁ……。楽しいねぇ。

 実にねぇ。愉快だねぇ……。

 

 俺が守った街を歩く。

 

 実に気持ちいい。優越感がある。

 

 素晴らしい……!!

 

「いやお前……、調子乗り過ぎだろ……」


 宿の前を高笑いしながらスキップしていると、アーランドと遭遇した。

 

 ……なんでお前がこの宿にいんだよ。

 またストーカーか?

 怖えよ。


「何がかね?」

「何がって全部だろ……。なんでそんな頭の悪い格好してんの」

 

 言って彼が指差したのは俺の額。

 ……? 勲章が貼り付けてあるだけだが。

 何言ってんだこのバカは。

 

「お前はまたストーカーか?」

「今日は違う。アカキに、お前に用があったんだ」

 

 ……いつもストーカーしてる事は認めるんだな……。

 つか俺に用って……。

 俺本来ならもう馬車でおさらばしてるんだぜ。

 もしそうなってたら、こいつずっと待ちぼうけてたわけか。

 ……そういえば襲撃うんぬんで街から出る事言えてなかったな……。

 忘れてた。……言うのは後でいいか、めんどくさいし。

 

「俺に? 何の用だよ」

「単刀直入に言うぜ。戦い方を教えてくれ」

「戦い方……? 何でだよ」

 

 アーランドだってかなり強い。

 それはこの前の防衛戦でわかっているんだ。


 つか俺、スキルゴリ押しだから戦い方とか知らんぞ。

  

「俺はもっと強くなりたい」

「そうか」

 

 彼の瞳には、強い思いが浮かんでいた。

 きっと並々ならぬ思いがあるのだろう。

 

 まあ、興味ねえけど。

 

「あれは五年前――」

「興味ねえから話さなくていいぞ」

「まだ俺に家族と呼べる存在がいた時の話だ」

「興味ねえっつってんだろ!」

 

 どんだけ話したいんだよコイツ。

 

 男の過去とか興味ない。

 

 ふざけた奴だ。

 ふざけた奴ではあるが、その思いは確かな物であった。

 

「――大切な人を守れる強さが欲しいんだ。だから戦い方を教えてくれ」

 

 そんな、純粋な願い。

 

 過去は知らない。でもこの言葉は、本物だった。

 

 アーランドと言う男が胸に秘めた信念とも呼ぶべき炎だった。

 

 ……まあ。それに応えないのは男じゃないよな。

 

「……俺は戦い方なんて知らない。でも戦う相手にはなれる、コツとか何とかは勝手に掴んでくれ」

 

 俺としても実戦経験が積めるわけだし、一石二鳥。win-winだな。

 

「ほんとか!?」

 

 驚きに目を開き、身を乗り出すアーランド。

 

「おいおい。そんな俺は嘘つきに見えるかよ」

「おう」

 

 ……。

 てめえ……。

 

 練習相手になってやんねえぞ……。

 

 

――

 

 

 振るわれる爪。

 常人ならば反応することも叶わないようなそれを、俺は難なく避けた。

 

「遅えよ!」

 

 煽ることも忘れない。

 

「お前が早いんだよ!! 頭おかしいんじゃねえのか。その速度!!」

 

 俺の煽りに青筋をたてながらも、アーランドの連撃は留まるところを知らなかった。

 

 ……全部避けたけどな。

 

「はぁ……はぁ……。お前のスキル……チート過ぎんだろ!!」

 

 スキルを解除し、腕を人のそれに戻したアーランドが憎まし気に口を開いた。

 

「お前に言われたくはねえよ」

 

 コイツのスキルも大概だ。

 

 シュナイダーくらいあんじゃねえの?

 

 しかもそれで全力じゃないというのだからチートと言う他ない。

 

 なんでも全力を出せば完全に魔物と化してしまうらしいが、まあ俺には関係ないな。

 

「なあアカキ」

「んだよ」

「昨日の襲撃、何なんだろうな」

「急だな。何なんだろうなって?」

 

 どうしたってんだよ。

 

「ブレイグマは本来群れる獣じゃないんだよ」

「……なる程な。昨日はあんなに群れてた……。確かに不可解だな」

「だろ? 現状、何があるかわからねえ。だからさ、強くなれる時になっておきたいんだ」

「宿屋の娘を守る為にか?」

 

 俺が言えば、アーランドの顔が真っ赤になるのがわかった。

 ぼふん! というショート音も聞こえた気がする。

 

 ……昭和の主人公かよこいつは。

 ピュア過ぎるだろ。

 

「……まあ、それもあるけどよ」

 

 照れ臭そうに、アーランドは鼻を掻いていた。

 

「さっき大切な人を守る為って言ってたもんな。家族もか?」

 

 何ていう何気ない問い。

 俺からアーランドへの雑談のつもりの問いかけ。

 

「俺に家族はいない。とっくに皆死んでる」

「……そ、そうか」

 

 しかしそれは地雷でしかなかったようだ。 

 悪気はなかったんだよ……。

 

 じゃあは。コイツは、コイツの言う大切な人っていうのは、本当に宿屋の娘さんだけなのか。

 一人の女の為に己を磨く。

 

 中々乙女してんじゃねえか。アーランドさん。

 

「アカキ、もう一試合頼む」

「ああ。とことんやろうぜ」

 


――

 


「すいません毎日毎日……」

「いいっすよついでなんで」

 

 今日も今日とて、俺は娘さんに晩ご飯を運ぶ。

 

 なんか女将に使われてる感があるが、まあいいだろう。

 

「俺の知り合いにアーランドってバカがいるんですよね」

「? はい」

 

 唐突に出された人名に首を傾げながらも、相槌をうってくれた。

 優しい人だ。

 

「凄えいいやつ何ですけど、ピュアってか童貞臭いっていうか」

 

 いやまあ俺も童貞捨てたのはつい最近だけどな。

 

「その方がどうかしたんですか?」 

「惚れてる女を守る為に強くなりたいとか言って、努力してるんですよね。女の人からして、そういう男ってどうなんですか?」


 こういう男を嫌いな人もいるしね。

 

 だって、俺の妹とか、彼氏に誕生日をサプライズで祝われたのが気に食わなくて別れてたからな。

 

 「裏でコソコソやって陰湿!!」

 ってキレてたし。

 

 あれはマジで彼氏が可愛そうだった。泣いてたもん。

 

 こう、陰ながらやってる事を嫌悪する人は男女限らず、極一部に存在している。

 こればかりは、この人がそうでない事を祈るしかないのだが――

 

「その女性はきっと幸せ者だと思います。そんな風に殿方から思って頂けるのに、嫌な訳ありませんわ」

「――」

 

 だってよ。

 良かったな。アーランド。

 

 ……つかなんでホッとしてんだよ俺は。

 あいつの事で何でこんな考えなきゃなんねえんだ。

 アホらし……。

 

「素敵なお友達がいるんですね」

「いや友達じゃないです」

 

 娘さんの言葉につい、反射的に言葉が出ていた。

 あんなの友達じゃないです。

 ただの知り合いでございますよ。

 

「そう……なのですか? でもしかし、羨ましいです。私はこんな体ですから、色恋沙汰なんて無縁なので」

「……どうでしょうね。もしかしたらその変に縁が転がってるかも」

「……?」

 

 これあれじゃんね。

 いきなり付き合ってくださいとか言っても断られるけど、友達から少しずつ初めて行ったら付き合えそうじゃんね。

 

 ……青春してやがんな……。アーランドの野郎め。

 

 好きな人が生きている。

 そんな事に羨ましさを感じている自分に気づいて、何だかやるせなさを感じていた。

 

 

――

 

 

「誰か!! 誰か助けて!!!」

 

 一人の女性が、闇に沈んだ街の中を走っていた。

 この時間帯になれば道に人はいない。

 故に、その助けに応える者はいなかった。


「あ゛あ゛あ゛……」

「来ないで!! 来ないで!!」

 

 女性を追いかける影が一つ。

 男だ。

 

 口から涎を垂らし、とても正気とは思えない風貌の男が、今にも迫らんとしていた。

 

 この男はなんなのだ。

 おかしい。なぜ追いかけられているんだ。助けて。なぜ自分が。

 

 彼女の脳内は様々な思考が次々と浮かび、パニック状態になっていた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

 

 それは果たして人だろうか。

 知性を捨て去ったような顔。

 人の形をしながら、本能では人とは思えない、そんな存在。

 

「いや、いやよ。いやいやいや!! 助けて!! 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!」

 

 女性の悲痛な叫びは、誰にも届かず闇に果てた。

 そしてその命も――。

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