女神様
「いらっしゃ〜い」
目を覚ますと目の前に美少女がいた。
「はい?」
ぐるぐる周りを見てみる。
何もない。
真っ白だ。
真っ白な空間にただ一つ置かれた無機質な椅子。
そこに彼女は座っていた。
ここは……?
「あの世だよん」
「うおっ」
口にしていない疑問を答えられ思わずびっくりしてしまう。
「あ、驚いた?」
「驚いてない」
「はい嘘ー。驚いてるー。私わかっちゃうんだよねー」
「……」
張った見栄を看破され思わず頬が赤くなった。
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「おっぱい」
「……は?」
唐突にどうしたのだろうか。
急に出てきた単語に思わず変な声が出た。
「貴方は今おっぱいって思いましたね?」
「思ってませんよ……?」
「嘘は行けませんね。私は神なのです、人の子の心など全て見透かしてますから」
「大丈夫か?」
いやマジで思ってない。
おっぱいのおのじも無かった。
「深層心理の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の方で貴方は今、おっぱいと確かに囁きました」
「……」
こめかみを抑えた。
何言ってんだろうこの娘……。
「あっ。そして今私のおっぱいペロペロしたいなぁ……と、はい……、確かに聞こえましたとも」
「知らん」
マジで知らん。
確かに目の前のこの娘は可愛い。クソ可愛い。
けど、まあ、早い話が幼女である。
流石にそのおっぱいを舐めたいとは思わないなぁ……。
「え? なるほど……なるほどなるほど」
「何を受信してるんだお前は……」
耳に手を当て、ウンウンと頷きながら顔をこちらに向けてくる少女。
何がしたいんだ。
「俺はもっと小さくないと興奮できない――と。はい、確かにその思い、この神――カメネイグサ=レイン=ハルケインが受け取りましたとも」
「ふざけんなよお前?」
「照れる事は無いのです。汝、自らを受け入れなさい。深層心理の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の方にいる内なる貴方が確かに私に訴えかけてきているのです」
「いやそんな俺すら知らない内なる俺の話をされてもな……」
全く面白いぺったんである。
いやってかこいつ今自分のこと神って言った?
「はい。言いましたよ」
便利だわ。
声に出さなくていいもんこれ。
コミュ障に優しい。
流石神様。
「……? おっぱいペロペロペロネージュ……? ……? 大丈夫ですか?」
「お前がな?」
駄目だ。
口に出して会話しないとややこしくなる。
頬を掻きながら俺は言葉を続けた。
「えっと……すみません。状況把握できてなくてですね」
「貴方は殺されたのです。炎に焼かれて苦しみもがきながら命を落としました」
「……マジで?」
いや最初にあの世とか言ってたし、まぁ、そういう事だよな。
全然覚えてねえ。
あの後焼かれたのか俺。
「はい。焼かれましたよ? 覚えてませんか? 失禁しながら全身を痙攣させて「ごめんなさいごめんなさい」と連呼しながら死んだ事を」
「嘘ん……」
「きっとあまりの苦痛に魂がその記憶を忘却してしまったのでしょうね……」
「じゃ、じゃあ俺はこのまま天国に行くんですか?」
「本来なら貴方はこのまま地獄に行って貰うのですが……。問題が発生しまして……」
「ん?」
あれ? 地獄って言った? 今
「貴方が描いた魔法陣の効果をご存知で?」
「異世界から何かを召喚するんでよね?」
ホントかどうか知らんけど。
「……それは魔法世界からの主観での話ですね」
「魔法世界……?」
「はい。貴方方が暮らす世界を非魔法世界と呼び、その隣にある世界の事を魔法世界と呼びます」
「へ、へえ」
な、なんの話だよ。
それがなんか関係あんのか?
「その書物は魔法世界で書かれた物。魔法世界主観での異世界、つまりは非魔法世界から魔法世界へ何かを転移させる魔法陣になります」
「そ、それがどうかしたのかよ」
「今現在、貴方の死体は異世界へと転移されました」
「えぇ……」
何そのスタイリッシュ埋葬。
でも確かに順序立てて考えてみるとそうなるよな。
「け、けどよ、何で異世界の書物が俺ん家にあんだよ? おかしいだろ」
「それはちょっと私に言われてもわかりませんね……。人の歴史などは部署違いですので」
「あっ……ごめんなさい」
「それはさておき、ここで問題が発声しました」
「はい」
女神がピンと人差し指を突き立てて言う。
「貴方の魂が肉体から抜け落ちる寸前。抜けきる前に、転移現象が起こってしまったのです」
「つまり?」
「端的に言えば、そこで貴方の魂は切り取られ、その段階で肉体から出ていた魂はこうしてあの世に、肉体の中にあった魂は未だ肉体の中に残ってしまっています」
「よくわかんねぇ……」
俺の言葉を受け、女神が困ったような顔をした。
心の底から理解してないっていうのを見通したのだろう。
馬鹿でごめんなさい……。
「……貴方の魂は今、凄く中途半端なんです。三分の一肉体に残り、三分のニだけがあの世に来てしまっている。あの世的にも、そういう魂に来られても困っちゃいまして……」
「俺いらない子?」
あの世を門前払いだなんて前代未聞じゃないだろうか。
流石俺、どこにも居場所がないぜ!
フオォゥゥゥッ!!
……悲しくなってまいりました。
「一度、貴方の魂を肉体に戻し蘇生させます」
「!」
「そして一年後、魂が完全に引っ付いた頃にまたあの世に来てください」
「つまり?」
「一年間の異世界転移、その後死んでください」
「――」
マジか。
いや、悪い話じゃない。
本来ならここで終わりなのだ。
一年間のボーナスタイムが与えられるっていう話。
けどやっぱ急に受け入れろって言われても難しい。
「ずっとって訳にはいかないんですか? どうしても一年間だけ?」
「……気持ちはわかります、わかりますが……。勘違いしてほしくないのが、あくまでも正しく魂を導く為の処置なので……。一度離れた魂はなかなか引っ付かない。完全に元に戻るのに一年かかるという話なのです」
「はい……。すみません。言ってみただけです」
「凄いですね……。こんな時にも関わらず貴方の深層心理はおっぱいの事しか考えてないですよ!」
「マジか」
凄えな俺! たくまし過ぎない?
「まあそんなに気に病む事はありませんよ。一年の間、貴方が快適に暮らせるようにどんなスキルでも一つだけ、授けてあげましょう」
「スキル?」
「はい。ゲームの世界を想像してください」
「した」
「……エロゲーの想像はしなくていいです」
「はい……」
だって……。
俺にとってゲームってそれだし……。
「古典的なMMORPGの世界でも想像してください。それです。そういう世界なんです魔法世界は」
「なるほど」
「早速ですか、この中から好きなスキルを選んでください……と言いたいんですが」
「ん」
女神が手を天にかざすと、先程まで何も掴んでいなかった手の中に紙束が出現する。
チラ見してみるとやれ『聖剣顕現』だの『魔剣生成』だの『自動再生』だの一目でチートだとわかる単語が並んでいた。
生粋のエロゲーマーな俺だが、ネトゲも嗜んでいる。
それらのスキルがとんでもない効力を持っている事は簡単に想像できた。
しかし当の女神はというとその紙束を難しそうな顔で見ていた。
「時間が無いんですよねぇ……」
「時間?」
ここにそんな概念あったのか。
「もうすぐドラマ始まるんですよねぇ……」
「えぇ……」
知らねえよ。
「はい! もう時間が無いので私が決めます!!」
「は? ふざけんな!」
「女神ルーレット!! スタート!!!!!」
俺の言葉をを無視した彼女は、「デュリュリュリュリュリュ」とかなんとか呟きながら紙束を上へ放り投げた。
おいバカやめろ!!
そんな俺の願いは届かない。
ぺったんは舞い散る紙をから一枚キャッチし、そこに記されている一つのスキルを指さし笑う。
『魔法無効化』
効果 一日一度、一番最初に受けた魔法を無力化する。
「いや、待って!! さっきチラっと見えた『自動再生』がいい!!」
『魔法無効化』も使えないスキルではなさそうだけど!
一日一回、それも一番最初にって、使い勝手が悪すぎる!!!
絶対『自動再生』がいい!!
「え? 何? またおっぱいって?」
「言ってねえよバカ!!」
あっ。
やばい。
体が透けてる。
すっごい光りながら透けていってる。
「ちょっ……待っ……」
「――目覚めの時は近い。人の子よ、汝に神の祝福を」
「うるせぇ!!」
なんでそんな慈悲深い表情してんだ!!
あ、違う。
こいつ笑ってる。
笑い堪えてるだけだ。
「『魔法無効化』いいスキルだと思います。頑張ってください」
そんな女神の笑顔最後に、俺の視界は暗転した。
2020/07/10 リメイク済