今日が人生最悪な日だったとしても、笑えてくる
オカモトはタバコに火を点ける。
ユキノはカナと交合う。
ファミリーレストラン「Oracle」のスタッフルーム。店長が従業員のオカモトに言葉を発している。
オカモトは、タバコを吸いながら店長の口を見ているが、何を言っているのかわからない。何となくこんな事を言っているのだろうと思いながら、タバコを吸っている。
店長の口が止まると同時に茶封筒を差し出した。中身は、今日までの給料だった。
カナの部屋、カナのベッドの上。
カナはブラを着ける。ユキノはカナの背中を見つめている。
上着を着ながらカナは言葉を発している。何を言っているのかわからない。ユキノはカナの言葉に耐えられず部屋を飛び出した。目には涙を湛えていた。
オカモトはOracleのクックコートを着たまま人ごみの中を歩く。左手はズボンのポケットの中。右手には、茶封筒が握り潰されている。
ユキノは泣きながら歩く。
二人はすれ違った。
オカモトは家に着いた。ボロアパートの2階。
ユキノは丘の上の公園に一人。ブランコに乗り、夜景を見ている。
夜の帳が落ち、家々の明かり、街灯、月が輝く。
オカモトは仰向けに寝転びながら、点く気配のないドーナツ型の電灯を見ている。
暫くして、オカモトは暗闇の部屋を出た。
ドアが開いた瞬間、外の明るさで部屋の中が照らされた。ゴミ、電気、ガス、水道の督促状の他に、1枚の写真。
写真にはオカモトの恋人、ナツキが写っている。
ドアは閉まり、部屋の中は暗闇に戻る。
外では、大家がオカモトに声をかけている。
丘の上の公園のブランコにユキノの姿は無い。ブランコの傍にはスクールバッグが放置されていた。
嫌気がさす夜の喧騒。雑踏。その中をユキノは彷徨っている。
大通りの信号。赤信号でユキノは立ち止まる。対岸にはオカモト。
信号機には、赤から青に替わるまでのカウントダウン。
長い赤の所為で周りには多くの人。
口々に何かを発している。
「隕石が接近してるってほんと!?」、「マジ、逃げないとやばいって!」、「こんなんで俺の人生終わりかよ! クソッ!」
信号のカウントダウンが進む。
赤から青に切り替わった瞬間、巨大隕石が飛来。
地獄と化す街。
そんな中、ユキノとオカモトは平然と大通りを横断する。
信号無視をする車に轢かれる事もなく、二人は同時に中央分離帯に辿りつく。
平然としているオカモトとユキノ。
見つめ合う二人。
「その店嫌い」
「俺も」
二人は残り半分の横断歩道を歩きだす。
オカモトは笑う。
店長が発していた言葉は「お前、明日から来なくていいから」だった。
部屋にあった、電気、ガス、水道の督促状。
大家との会話「オカモトさん。家賃は?」
今日の出来事がフラッシュバックする。
滑稽過ぎてオカモトは笑いが止まらない。
「私の分も生きて、幸せに、なってね」ナツキの最期の言葉をフラッシュバックした時、オカモトは横断歩道を渡り切っていた。
ユキノは笑う。
指を絡めるユキノとカナ。
濃密なキス。
卑猥な音、臭い。
カナの髪の匂い。
胸の感触。
濡れる陰部。
零れる声。
「ユキノ、ごめん。私とこういう事するのは、今日で最後。私ね、大崎くんと付き合うことになったから」
カナの最後の言葉をフラッシュバックした時、ユキノは横断歩道を渡り切っていた。
昇る太陽。
街のゴミ箱にOracleのクックコートが捨てられている。
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