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4話 再会

 異世界の朝は早い。日が昇ると共に人々は活動をはじめる。

 異世界に来てから俺の生活リズムも、異世界人と同じ様になっていた。

 まぁ、ただ単に夜はやる事が少ないと言うのもあるだろうが…… 一応ランプなどの照明器具は存在している。けれどテレビやインターネットも無いんじゃ退屈で早く寝る様にもなるってもんだ。


 早朝、目が覚めると俺は日課であるスキルを掛けている店舗を回り出す。店舗の人に掛けているスキルは効果を余り高めていない。その理由として俺が店に顔を出せない日もあるので禁断症状が出ないようにする為。余り度が過ぎると悪い事も起きると予想している。


 例えば煙草を吸い始めた人が一箱で1週間持つのと同じ感覚だと思って貰えばいい。ヘビースモーカーになると一日に2箱や3箱吸うので、そこまで行くと重度と言えよう。もし禁断症状が起きた時に煙草がなければイライラが爆発し発狂してしまう事もある。そうならない様に俺も気をつけていた。


 なので同じ店に通い続けるのでは無く日によって店を変えて定期的に回る様にしている。今日、顔を出す店舗は【不死身のカレン】に出会った店。あの事件以来怖くて顔を出していなかったが、そろそろ顔を出さないと店長に禁断症状が発症するかも知れない。

 俺はカレンが居ない昼間の時間を狙って店を訪れた。この世界の人達は昼間から酒を飲む。その為、店舗は昼間から営業していた。


「店長、お久しぶり」


「おおっ!! 顔を出さないと思っていたがやっと来やがったか。殺されたと思っていたぞ!!」


 ぶっきら棒の表情が崩れていく。顔には【待ち焦がれたぞ!! さぁワシの飯を喰え!】と書かれていた。


「ご飯食べさせてくれよ」


「しゃーねーな。待ってろよ」


 すぐに出された料理は川で取れた魚を蒸し物と野菜を炒めた料理。魚は日本も異世界も似たような姿をしているので特に違和感なく食べる事ができる。

 中まで熱が通ったホクホクの白身を頬張る。香辛料をたっぷりと使用した魚は本来の淡白な味から味わい深い味へと変わっていた。


「うーん……旨い。やっぱり店長の料理は最高だな」


「馬鹿野郎。お世辞はいいんだよ。熱い内に喰っちまえ!」


 素直じゃない店長との楽しいやり取りをしつつ、旨い料理を頬張っている俺の身体が突如宙に浮く。

 それは子猫が首根っこを掴まれて宙に持ち上げられた感じに近い。


「えっ……? この感じは以前……何処かで……」


 俺が恐る恐る後ろを振り返ると、予想通りの人物が俺の首根っこを掴んで笑顔を向けていた。


「探したぞ。ちょっと話がある。私に付いて来て貰おうか」


「付いてくるって言うか、連行するの間違いじゃないのか?」


「ん? そうか? まぁ私としては話が出来ればそれでいい。さぁ行くぞ」


 俺は宙に吊られたまま、前回と同じ人影の少ない店の裏へと連行された。


「ぐへぇっ!!」


 地面に放り投げられて、変な声を上げる。


「このデジャヴ感すげーな……」


 だが今日はカレンに対してちょっかいは出していない。話が在るとはどう言う事か少々気になっていた。


「それで? 話ってなんだよ?」


 俺に対する扱いが雑なだけに少々冷たく言い放つ。するとカレンが何だかモジモジとした姿を見せる。それはまるで少女の様だ。容姿が良いだけに今の状態だけを見れば騙されるかもしれない。


「実は……えっと……」


 何やら煮え切らない様子。


「実は……あの日の事が忘れられなくてな……傭兵仲間の女性に相談しだんだ」


「何を相談したんだ?」


「そうだな。相談した事をそのまま話すと。店で初めて出会った男性と接触した時に脳天に突き刺さる衝撃が走った。その後ずっと身体のある部分が疼いて仕方ない。これはどう言う事なんだろう?って」


「お前、本気でそう相談したのか? 語弊があり過ぎるぞ!!」


「嘘は言っていない!! それでだ。彼女が言うにはそれは恋だと……」


「何故そうなるんだよ……」


 頭が痛くなり手で抑える。

 この危険な傭兵に付きまとわれると碌な事が起きない。俺の勘がそう警鐘を鳴らす。


「私ももう20歳だ。普通の女なら結婚して子供も作っている。けれどずっと戦いに夢中で戦場ばかり駆け回っていた。この想いが恋なら私は全力で頑張りたい」


 確かにこの世界の女性は早くから結婚し、子供を作っている。日本とは違い20歳と言えば遅い方になるだろう。

 次に視線をカレンに向けると彼女の顔には文字は浮かんでいない。と言う事はスキルはちゃんと解除されている事になる。ならどうして俺に恋するんだ?


「なぁ、一つ聞いてもいいか?」


「あぁ、何でも聞いてくれ。趣味は毎日素振り5000回だ。それと別に……」


「いやいや。そんな事は聞きたいくもない。さっきお前身体が疼くって言っていたよな? どこが疼くんだ?」


「ん? 勿論、尻だが?」


 両手を腰に当ててドヤ顔で言い切るカレンには恥じらいと言う感情が感じられない。

 コイツの友人は確実に勘違いしている。

 この女、真性のマゾかもしれん。そりゃそうだろう。女がてらに戦場を駆け巡る女性が普通である訳がない。

 この瞬間、俺は絶対にカレントは関わりたく無いと決意を新たにした。


「気持ちは嬉しいんだけど、こういうのはお互いの気持が大事だしな」


 俺の言葉を受けてカレンの表情が瞬時に変わる。眉を寄せて額には血管が浮き出す。


「私が気に入らないって言う気じゃ無いだろうな……」


 威圧感が半端ない。日本に居る時に見かけた極道の人達よりも格段に上だ。その時俺の第六感が、今すぐ逃げろと警鐘を鳴らし始めた。だけど運動が苦手な俺はこの化物の様な女にすぐ捕まってしまうだろう。

 

 そこで俺はカレンの気を逸らす為に、一計を案じる。


「いや……そういう事では無いんだが……。なぁ、ちょっと後ろを向いてみてくれ」


「ん? 何か在るのか?」


 カレンが素直に俺の言葉を受けて後ろを振り向いた瞬間、俺は立ち上がると同時に回れ右を行いその場から逃げ出した。


「あっ逃がさん!! まだ答えを聞いていないぞ」


 予想通りカレンは俺を追いかけてくる。だが心配はいらない。逃げる為の手立ては以前、青い髪の少女を助けた時に確立されている。


 俺は建物の角を時計回りで周り背後から追いかけてくるカレンにスキルを掛けた。一度だけじゃ怖いので何度か上書きを重ねる。


「この位でいいだろう。それじゃ俺は反対に曲がっておさらばさせて貰うな」


 何周か周り続け、前回と同様に反対に曲がる。だがカレンは俺と同じ様に曲がって追いかけてきた。


「待たぬかぁぁぁぁ」


「何で追いかけて来れるんだよ。スキルの効果で時計回りに曲がるんじゃないのか??」


 俺は混乱しながら、カレンの顔を見てみると文字がしっかりと浮かび上がっている。スキルに掛かっているのは間違いない。


「でも何だあの文字は……」


 カレンの顔には【愛する人を必ず捕まえる!!】と書いてあった。


「どういう事だ? 前回は右に曲がってスキルを掛けたら右に曲がる事が中毒になったと言うのに……。確かに追いかける事も曲がる事と同時に行っている行動だけど……。前の時と何が違うんだ?? ええいぃ!! わけが分からんぞ。取り敢えず。スキルは解除だ」


 俺はスキルを解除し街の中を走り抜けた。道行く人達も何故か、カレンに追い回されている俺を見ている。


「クソッ!! 俺は目立ちたくは無いんだよ。どうすればいいだ!? このまま鬼ごっこを続けて体力勝負になれば確実に勝てる気がしないぞ」


 俺が走りながら舌打ちをしていると突然声が投げかけられる。その声に俺は聞き覚えがあった。


「兄ちゃん、久しぶりだな。今日も逃げてんのか? げっ、追いかけている奴、【不死身のカレン】じゃねーか」


 俺に並走する形で突然、以前助けた水色の髪の女の子が現れる。名前は確かサラ。俺が逃げている様子をクスクスを笑っているのが腹ただしいが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。


「まぁな。大人には色々あるんだよ!!」


「そう言えば兄ちゃんに、まだお礼を返して居なかったな。私に付いてきなよ。逃してやるからさ」


 サラ俺の前を走ると東の方へと進路を向けた。路地を一つ越えた場所は、ボロい家が立ち並ぶ地区。辺りはゴミと乱雑に建てられた掘っ立て小屋の山で、この場所は俺も訪れた事は無い。


「こっち、早く」


 サラは一つの路地を曲がると、ある建物へと飛び込んだ。俺もそれに続き飛び込んで身を潜める。


「ええいぃ!! クソッ何処へ行った!?」


 カレンは周囲をキョロキョロと見渡しながら、俺が隠れる場所から離れて行く。


「ふぅ……助かった……」


「逃げられて良かったな。【不死身のカレン】に捕まったら命が幾つあっても足りないからな」


「お前、名前はサラだったっけ? サラまでアイツの事を知っているんだな」


「兄ちゃん、本気で言っているのか? この街だけじゃなく、この国中でカレンの名前を知らない奴は居ないっての!」


 それ程までに恐ろしい奴と言う事なのか……。俺は息を整えながら安堵のため息を付いた。


「ちょうどいいや。兄ちゃん。私の家に案内してやるよ。そこでもう少し隠れてな」


「あぁ、助かるよ。悪いな」


 俺はサラに案内されて、少女の家へと向う事となった。

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