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34話 決着

 怒号や悲痛の叫びと共に周囲には金属同士がぶつかり合う打撃音が響き渡る。カレンとマクレーン卿以外は既に戦闘に入り生死を掛けた戦いが繰り広げられている。傭兵達はカレンの元に敵兵を近づけさせない様に必死で戦ってくれていた。


「まさか俺の相手がこの女だと!? 貴様、場所を解っているのか? 今が夜なら喜んで相手をしてやるが?」


 不愉快そうな表情を浮かべてそう言い放つ。


「悪いな私には決まった人がいるんでな。さっさとお前を倒して彼の元へと帰ろうと思っている」


「ぬかせ! 小娘が」


「マクレーン様、貴方が相手をしなくと私が対処してみせます」


「フラクベルト!? よし副隊長のお前なら任せよう。この小娘を殺せ!!」


 マクレーンの側に付き従えていた一人の巨漢がマクレーンを遮る様に前に出る。手に持つ武器は巨大な鉾で自身の前方で高速で回転させる。


「カレン大丈夫か? あの巨漢、副隊長とか呼ばれているぞ」


「あぁ、問題ない」


 心配して声を掛けてみたが、カレンは力強く答えてくれた。もし戦うのが俺なら姿を見ただけで逃げ出すだろう。素人目から見てもこの巨漢の男は相当の強者だと解る。以前襲われたダインと言う傭兵の男と近い存在感を発している。


 カレンは剣を腰の位置まで落とすとそのまま副隊長の男へと真っ直ぐに突っ込んでいく。相手の武器はリーチの長い鉾で突きや振り払いと先制攻撃が可能だ。

 そのまま鉾の攻撃範囲内にカレンが侵入すると副隊長は巨漢には似合わない程の速度の突きをカレンの額に向けて放っていた。


 カレンはその攻撃を大きなジャンプで躱す。男は攻撃を避けられた事に少々驚いていたが、慌てる事もなく。突き出した鉾をそのまま上方へと跳ね上げ鉾の側面に取り付けられた側面武器で下方から斬りかかる。


「馬鹿者がぁ、空中ではこの攻撃からは逃げられんぞ!!」


「馬鹿者は貴様の方だ」


 空中にいるカレンはなんと自分の下方から襲いかかる鉾を側面から蹴り飛ばした。強い衝撃を受けて鉾の軌道をズラされ、副隊長の攻撃はカレンの側を通りぬけ空振りとなる。

 一方カレンは蹴りを放った衝撃を利用し空中で一回転した後何事も無かったかの様に地面へと着地していた。その場所は既にカレンの攻撃範囲内で躊躇する事も無く、カレンは副隊長の首元を切り払う。


「ぐぁぁぁ」


 鎧に守られて居ない首を斬られ大量の血飛沫が舞う。

 ズドンと巨漢が地面へと倒れ込み姿が見えなかったマクレーンの怒り顔が現れる。


「さぁ、次は貴様の番だ」


 剣先を突きつけてカレンが言い放つ。


「舐めるなよ、小娘がぁぁ」


 マクレーン卿は勢いよく剣を振り下ろしカレンへと斬り掛かっていく。


 カレンは自分が女性だと言うことを十分理解している。それは戦い方にも現れていた。防御方法は受け止める事を極力さけて躱す事を第一とし、剣と剣をぶつけ合う場合でも力比べなど一切行わずに剣で受けた後は力を刃上で滑らせ力の向きをを変える。


 カレンは自主練中に何度かそういう事を言っていた。傭兵や戦士達で言うならばカレンの全力は中の上程度らしい。最初は周囲の男達と同じ様な戦い方をしていたが、何度も死線をくぐり抜けて行く内に考え方を改めて女性特有の身体のしなやかさを利用した戦い方を覚え今まで生き残ってこれたと。


 俺を片手で持ち上げる力を持ってしてもその程度なのかと驚いた。

 今もカレンは速さと技でマクレーン卿を翻弄していた。見ている限りでは一度もクリーンヒットを受けていない。これが不死身のカレンの本気だと知る。


 ダインとの戦いは人質を取られて居た為に最初から本気を出せずに苦戦を強いられていた。今は背中に羽が生えているかの様に軽やかな動きでマクレーン卿に何度も切り傷を与える。


「ええい。小賢しい!!」


「ふんっ、ならば早く私を斬り伏せればいいだろう」



 一度距離を取り直した2人は呼吸を整え再度殺し合いを始めた。


「カレンは強い。イケる勝てるぞ」


 何度も切り合う2人の姿は対照的だ。

 マクレーン卿は装備している鎧が傷まみれになっている。一方カレンは今だ傷ついていいない。けれどカレンの額からは大量の汗が流れていた。


「どうしたそんな程度か? 動きが鈍ってきているぞ。貴様の攻撃などでは俺に傷付ける事は出来んぞ」


 マクレーン卿は全身を覆う黒い鎧を着ており、どうやらカレンの攻撃は内部まで達していない様だ。

 けれどカレンは間接部などを狙い今までも多くの兵士達を倒してきている。それをさせないだけマクレーン卿は強者と言う事なのだろう。



「私もそろそろ飽きてきていた所だ。そろそろ決着を付ける」


 カレンは構えを取り直すと今まで見てきた中でもっとも早い突撃をしかける。マクレーン卿は剣を身体の真ん中で構えて攻撃にそなえた。


「喰らえ!!!」


 そのままカレンは怒涛の連撃が開始した。左右からの攻撃から上段に移り最後は腹部へと突きを放つ。

 俺が気付いた時には腹部に剣を突き刺すカレンの姿が見えた。


「やった。勝った……」


 俺が喜びの雄叫びをあげかけた瞬間、パキンと言う音と共にカレンの剣が剣の中間部分から折れて弾き飛んでいた。


「最後の一撃はヒヤッとしたぞ。俺の鎧にまさかひびを入れるとはもう少しお前の一撃に力が在ればそのまま串刺しに出来ていたものを」


 マクレーン卿は待っていたとばかりに自分が持つ剣でカレンを斬り伏せる。カレンは瞬時に身を翻したが胸部を斬られ血飛沫をあげた。そして大きく息を吐き力なく膝をつき頭を垂らす。


「カレンーーーー!!」


 俺は周囲を見渡し近くで倒されていた兵士から盾と剣を奪うとカレンの元へと全力で走りだす。


「お前は強かったが、まだ足りん」


 一方カレンはマクレーン卿に殺されようとしていた。


「お前は俺のハーレム要員だろうが!! 死ぬんじゃねーよ」


 俺はカレンの元にたどり着くと盾を全面に突き出す。盾には物凄い衝撃が伝わり俺の体ごと背後に居たカレンの方へと吹き飛ばした。

 カレンは必死で俺の身体を受け止めて何とか勢いを殺す。


「何て無茶な事をするんだ。コウヘイは死ぬ気なのか?」


「へっへ。まぐれで防げれたけどお前はこんな化物達と戦っていたんだな」


 盾を持つ手がしびれて上手く力が入らない。けれど俺は自分自身を奮い立たせて再び盾を構える。


「貴様一騎打ちに邪魔をするとは覚悟は出来ているんだろうか?」


「へっお前の副隊長様も割り込みしたじゃねーか。これでチャラにしてくれよ」


「ん? なんだ何処かで見た顔だと思えば、お前ブルグ卿が連れてきた商人ではないか? フッフッフそう言う事かあの豚はやはり俺を裏切っていたと言う訳だな。まぁいいこの戦いの後にはちゃんとこの仮は返して貰う」


 笑みを浮かべたマクレーン卿に対して俺は右手を突き出しスキルを掛けた。こんな状況で掛かる衝動と言えば一つしかない。


 出来るだけ強い中毒が掛かるように何度も上書きを行う。


「それじゃ、まずは邪魔をしてくれた貴様から殺してやろう」


 掛かった!! 


 ゆっくりと近づくマクレーン卿の額にはシッカリと俺を殺すと言う文字が浮かび上がっている。


「カレン。俺が一度だけアイツの攻撃を防ぐ。お前はそのスキに止めを刺してくれ」


 簡単にそう言い放ち盾と一緒に持ってきた剣を握らせる。


「そんなの無理に決まっているだろう。ヤツの腕は超一流だ。さっきだってマグレで防げれただけ今度は確実に殺される」


 俺はカレンの手を握りスキルを掛けながら声を掛けた。


「俺を信じてくれ!!!」


 その瞬間カレンがコクリと頷く。俺は再び意識をマクレーン卿へと向けた。


「別れの挨拶は済んだのか? 次は必ずその首を飛ばしてやる」


 大きく振りかぶった剣は陽の光を受けてキラリと光を反射する。けれど俺は剣には意識を向けずマクレーン卿の顔だけに死線を向けた。


 するとマクレーン卿の顔には(右側から水平に首をはねる)と言う文字が浮かび上がっていた。

 その文字を確認した瞬間。俺は攻撃がくる方向へと盾を掲げて腰を落とす。すぐにバイクに接触されたような強い衝撃が盾を襲い、俺は吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がった。


「カレン今だーーーー!!」


「うぉぉぉぉーーー」


 俺の背後にいたカレンは剣を強く握ると渾身の突きをマクレーン卿の腹部へと放つ。マクレーン卿は俺に攻撃を防がれた為に剣を振り切った体勢で上手く避ける事ができない。


 次の瞬間マクレーン卿の背中から一本の剣が突き抜けていた。


「ガハッ。まさか、ひびを入れた箇所を寸分違わず攻撃してくるとは……」


 身体を貫かれたマクレーン卿はカレンに寄り掛かる様に倒れ、瞳を閉じて行く。


「「うぉぉぉぉーーーー」」



「俺達の勝利だぁ」


 周りにいた傭兵達もマクレーン卿を倒した事を知り、大きな雄叫びを上げた。


 マクレーン卿の攻撃を受けた俺は脳震盪を起こしたみたいで、そのまま眠る様に意識を手放していく。


 後で聞いた話だがマクレーン卿が死んだ一報はすぐさま戦場を駆け抜けた様だ。

 マクレーン軍も最初は信じず抵抗していたが、マクレーン卿の率いる部隊が居なくなった事をしると武器を捨て投降してくれた。



 この戦いの結果マクレーン卿が引き起こした大規模なクーデターは失敗に終わったのである。

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