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30話 決戦

 前哨戦を快勝した俺達は進軍を再開する。壊された橋も簡易ながら復旧し後方からの物資も滞りなく受け取る事ができる。後顧の憂いも消え、軍は勢いを増す。


 情報によるとマクレーン卿は自領に戻り帰還した軍を再編成させているとの事。手を組んでいる貴族達もマクレーンの領土に向けて兵を送っているらしく、マクレーン軍の兵数は失った数を取り戻しているらしい。


 今は陣地の中に作られたテントの中で、今後の作戦を一人で考えていた。側には護衛としてカレンが別のイスに座って俺の姿を眺めている。

 戦争が始まってから基本的な作戦や兵用などは他の者がやっているので、俺は暇を持て余していた。なのでこんな事位しかやることが無いのが実情だ。


「なぁコウヘイ。マクレーン卿を倒せばこの戦いは終わるのか?」


「カレン、突然何なんだよ? 親玉のマクレーン卿を倒せば戦いは終わりに決まっているだろう」


「そうか、なら頑張らないとな」


 強い決意を見せてカレンは何度も頷いていた。

 

 俺達は進軍を続け、マクレーン領土の手前にあるザイン平原でマクレーン卿の軍勢と再び相まみえる事となる。偵察に送り出した先兵がマクレーン卿の姿も確認していた。この戦いが正真正銘の決戦だ。


 小細工無しの正面対決は兵士の練度と兵用の巧みさで勝負が決まる。

 練度は両軍同じ位だと聞いている……となると兵用で勝負がつく。そう考えるとマクレーン卿の方が有利だと言えるかもしれない。



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 睨み合いが数時間続いた後に互いの軍は呼吸を合わせた様に動き始め、雄叫びを上げながら衝突を始めた。


 前回の戦いで戦争と言う物を多少は理解していたが、現実は全然違っていた。多くの兵士は互いに築き上げる人の壁に向かって剣を振るう。先頭にいる兵士は敵の攻撃を受けて鮮血を撒き散らしその場に倒れている。


 思い返せば前回は俺のスキルで敵の矢は在庫が無くなり、更に連日の不眠で体力も精神力もボロボロになっていた。

 だから一方的な戦闘で目前で繰り広げられている戦いこそが、本来の戦争と言うものなのだろう。


「これが戦争……」


 後方から戦場を見つめていた俺は知らない内に言葉を発していた。そんな俺にカレンは自身の体験を聞かせてくれた。


「私が言える事は、全ての兵は自分自身の為に戦う。それが命令であったり、信念であったり、想いは違うが一つだけ確かな物がある。それは想いの強い者が生き残ると言うことだ」


「話を聞いても俺には解らない心情だな。こんな命を軽く扱う戦争はやっぱり好きになれないわ」


「私だって人を殺す事が良い事だとは思っていない。ただ小さい頃から生きる為には戦うしか方法が無かったからな。もしコウヘイが言うハーレムが出来上がれば、二度と戦う事も無いのだろう? 私はそんな生活がしてみたい」


 この異世界は弱者には厳しすぎる。それは嫌という程解っている筈なのだが、思考や発想が全然違う。

 そう考えると胸の中で腹ただしい感情が渦巻いていた。



-------------------------------



 戦いは3日目に突入しており、兵士達の疲れも溜まって来ていた。戦況は次第に分が悪くなってきているのが素人の俺にでも解る。


 一応作戦会議には参加しているが、皆の表情も暗い。打開策が見つからずに全員、無言の時間が続いた。


「この戦いで負ければ、この国は終わりだ。たとえ命を失おうとも我々は勝たねばならん」


 バッカスは言葉を絞り出す。会議に集まっている者達もその言葉に頷いていた。けれどただ一人、王女は首を左右に振り席から立ち上がる。


「私は皆さんに死んで欲しくはありません。もしこれ以上命が失われるのなら……もう戦わなくても」


「王女様、それ以上は言わないで下さい。我々はこの国の為に戦っているのです。誰もが昔の国を取り戻す為に!! 既に多くの兵士が命を失いました。今退けば彼等に申し訳が立ちません」


 一番端の席で会議を聞いていた俺は大きくため息を吐く。バッカスの言葉に王女も言い返せずに席へ着席し、力なく頭を下げていた。


 既に状況は大きく動き出し、多くの命が失われている。切っ掛けを作った俺が言える訳がないのだが、状況は王女の手を既に離れている。人道的に言えば戦争なんて起こせば当然多くの命が失われる事は分かっていた。俺の提案に乗った王女もまたそれを理解していただろう。


 けれど状況はこちらが不利になり更に多くの命が失われそうになっていた。それに王女は耐えれなくなって来ているのだろう。兵士達も王女の気持ちを当然理解しており、全員が苦い表情を浮かべている。


 彼等を遠巻きに見つめながら、無力な自分の手を力一杯握りしめていた。自分に力が在れば、ここで強気な事も言えるだろうが、俺には戦う力は殆ど無い。強力なスキルを持っているが、大人数に使うには条件が厳しかった。


 会議はそのまま終わり、何も案が出ないまま解散となる。俺は帰り際にカレンへと声をかけて自分のテントに呼び寄せた。


 

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「コウヘイ。どうしたのだ?」


「あぁ、何かいい案が無いかな? と考えていたんだよ。でも何も出なくってな! カレンは何か作戦とか思いついたりしなかったのか?」


「確かに戦況は悪いが、戦争は終始同じ流れでは動かない。きっとどこかのタイミングで我々にも好機が訪れるだろう。その時にどれだけ流れに乗れるのかで勝負は決まる。今は耐えるしか無いと思う」


「そうか……」


「私から言えば、小細工をしてもあのマクレーン卿が引っかかるとも思えん。ここ3日間の戦いを見ていれば誰でも解る」


「カレンはこの戦いどう思う? 勝てるか?」


「……確かに分は悪いが、今の状況なら切っ掛けさえ在れば、十分巻き戻せるとは思うが……今のままなら、勝てないだろうな」


「このままじゃ、ヤバイって訳だな?」


「飽くまでも予想だ。それにもし危なくなっても、コウヘイの命は私が守る。安心してくれ」


 カレンは俺の不安を取り除く為に必死で誤魔化していた。その気持が嬉しく思う。


「助かったよ。俺も何か考えてみるよ」


「ならもっと私を頼って欲しい。私はコウヘイの為に参加しているのだからな」


「カレンは格好良いよな」


「何を言うか。私から見ればコウヘイも十分魅力的だぞ」


 そう言うカレンは頬を真っ赤に紅潮させながら、テントから飛び出して行く。逃げ去るカレンを見つめる。


「この戦いは負けられないな。さてもう一度全体を見直してみるか!!」


 床に戦場の地図を広げ、見落としは無いか? スキルを何かに使えないか? 独り言の様につぶやき続けた。

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