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22話 物理的要因

 異世界に飛ばされてから、ずっと自分の力の使い方を考えてきた。予想をたて検証しそれを実践する。そうして手に入れたのが今の力。


 だけど俺は基本をすっ飛ばしていたのかも知れない。

 

 今までやっていたのは、スキルを掛けたい相手に対して俺がアクションを起こし、目的の行動を取らせる受動的行動。もしくは相手が自分から進んで行う自発的行動。その2つの場合しかスキルを掛けて来なかった。


 けれど中毒と言うのは基本的に物理的要因で起こるべき症状。お酒や煙草にしても、また薬物にしても全てが物理的な干渉による中毒……その事をスッカリ忘れていた。


 俺は勝手口から家屋に侵入すると、台所を探した。家の中には人の気配が無く。都合良く外出しているのかもしれない。


 運がいいぞ。それなら早く目的の品を集めないと……。


 素速く家の中を物色し必要な物を揃えて行く。外に耳を傾けると、激しく互いの武器をぶつけ合う甲高い打撃音と男たちの狂気に満ちた雄叫びが聴こえていた。

 

 今、カレンも必死に戦っている。俺がすぐに助けてやるからな!!


 必要な物を集めた俺はポケットから適当な金を握り、テーブルの上に置いた。持っていく物資の代金だが足りているのかは解らない。そのまま勝手口から戦場へと戻ると、激しい戦闘を繰り広げるカレンの姿を目にする。すぐに準備を始めながらも、その戦いに視線を注ぐ。


 カレンは持ち味の速さを利用しフェイントを入れならが、ダインを攻めたてる。間合いに入れば取り回しが難しい戦斧より剣の方が有利となる。その事を理解しているが為にカレンは命を削りながら、何度も突撃を繰り返していた。


 一方、ダインも戦斧を棍棒の様に回し器用に振り回していた。その手慣れた扱いは一朝一夕で物に出来る事ではない。カレンの動きに合わせて、鋭く威力の高い攻撃を返している。

 戦斧の攻撃は剣で受け止める事が出来ない為に、ギリギリで避けるか受け流すしかない。その度に動きが止められ思うように近づけないでいた。


「へっへっへ。コイツは驚いた。お前一体何者だ!? そんじょそこらにいる傭兵じゃあねーよな?」


「ふん。貴様の様なゲスに名乗る名など無いわ」


「ならば地べたに這いつくばらせてから、ゆっくりと喋って貰うぞ!!」


 ダインは戦斧を頭上に持ち上げ、プロペラの様に高速回転させた。近づけば勢いを増した戦斧がいつ襲ってくるか解らない。カレンも額に汗を流し、緊張した表情でタイミングを見計らう。ダインはジワジワと自ら間合いを詰め始めた。


 今が勝負の時、ダンや敵の傭兵達もそれを悟りゴクリと息を呑む。


「おぉぉぉぉ!!」


 大きな雄叫びを上げてダインは戦斧を振り下ろした。その一撃は敵を滅殺する程に強力で、繰り出された瞬間に勝負が決したと思われても仕方がない位だ。カレンの悲惨な姿を想像してしまい。俺は一瞬、目を瞑ってしまう。


 ズドンと言う轟音と共に小さな地響きが俺にまで伝わる。

 覚悟を決めて目を開くと、そこには地面に叩きつけられた戦斧の柄を踏み台にして大きくジャンプするカレンの姿があった。


「これで終わりだぁぁぁ」


 カレンは右手に持っていた剣を自分の正面で横一文に構える。

 次に大きく振りかぶり、渾身の力で剣を叩きつけた!!


「クソがぁぁぁ」


 ダインは戦斧を持ち上げて防御の体勢をとった。


「もう遅い! これで終わりだぁ!!」


 けれどカレンの一撃は戦斧の柄で防がれてしまう。しかし衝撃までは防ぐ事が出来ずにダインは片膝をつき頭を垂れる。後一撃で勝負が決まる。

 カレンは躊躇する事無く、とどめの一撃を繰り出そうとした。


 だがカレンの身体は突然後方へと身体を引きずられてしまう。


「貴様ぁぁ。卑怯な事を……!!」


「グヘヘ。戦いに卑怯もクソもあるかよ!! ダインさん大丈夫ですかい!?」


 カレンは突然背後から自身の長い髪を引っ張られ、後方に引き寄せられると一人の傭兵に羽交い締めにされてしまう。

 思いっきり引っ張られた為にカレンの髪は何本も千切れ、残った髪も本来のストレートではなくパーマを当てた様に曲がっていた。


「良くやった。おい女……さっきはよくもやってくれなたな」


 鬼の形相でダインは立ち上がると、カレンの腹に何度も強烈な拳を叩きつける。


「ぐふっ……」


カレンの身体は重力を無視して大きく持ち上がり、羽交い締めを解かれた後は地面へと倒れ込んだ。


 ダンや仲間の傭兵はそれを見て、ダインへ怒号を浴びせる。


「やめろぉぉ。一対一だろうが!!」


「あん!? 何だお前達、今すぐ死にたいのか?」

 

 ダインはカレンの背中に足を載せて全体重を掛けながら、ケタケタと笑う。ダン達も多勢に無勢。苦虫をかみつぶしたような表情と変わっていた。


「へっへっへ。手こずらせられたが、これで終わりだ。それじゃ、後でこの女にしっかりと借りを返さないとな。野郎共、これで余興も終わりだ!! お前達は残っている男共をさっさと始末しろ!!」


 もう時間はない。


 すぐに俺は相手の注意を引くために雄叫びを上げる。


「このド外道共がぁぁぁ!!」


 敵の傭兵達は俺に気付き、視線を向けた。もう後には退けない俺は勇気を振り絞って一歩前へと踏み出した。


「お前達はもう終わりだ。全員、返して貰うぞ!!」


「仮面なんぞ付けてから……お前は何者だ? この人数を相手に、たった一人で何が出来るって言うんだ? そんなに死にたいのなら、お前から殺してやるよ!!」


 一番近くにいた傭兵が俺に向かって走り出した。俺は男に対してスキルを掛ける。


「いぎがぁぁ……ぐるじぃ」


 男は俺にたどり着く前に喉を押さえてながら倒れ込む。


 成功だ! やっぱり物理的な要因でも中毒は掛かる!! 


 それさえ解ればもう怖くない。力を持つとはこういう事を言うんだろう。

 俺の側には木箱や薪を油で浸し、家から拝借した火種で燃やしている。木に油を掛けることで白煙を上げて煙は空中へと舞い上がっていた。


 俺はその状況下で近づく傭兵にスキルを掛けた。その結果、男は空気中に漂う、煙を吸い込んだ事による中毒になった訳である。

 それが一酸化炭素中毒なのか、二酸化炭素中毒なのかは解らない。火事の時に煙で中毒になると知っていただけの事で、予想通り男は喉を押さえて倒れ込んでくれた。

 

 俺にとってクソ野郎共がこの後どうなろうと知った事ではない。なのでわざわざスキルを解除したりもしない。


 火は勢いを増し、煙の量はドンドンと増えて周囲には煙が立ち込めていく。それは俺の無敵フィールドが広がっているという事になる。


 突然倒れ込んだ仲間の傭兵を見てダイン達が驚いている。けれどそんな事で怯んでいるような玉でもなく。すぐ反撃を仕掛けてきた。


「何をやりやがっった!? お前ら一斉にかかりやがれ!!」


「おぉぉ」


 今度は5~6人が一度に襲ってくる。けれど結果は同じ。途中でパタリと喉を抑えて倒れ込んだ。


「畜生……どうなってやがる!? 毒か!? お前ら煙を吸うんじゃねぇぇ」


 困惑するダイン達に目もくれずに俺は火が付いた薪をドンドンと投げ入れていく。その結果、煙は敵の周囲に立ち上がり、コホコホと咳をする者が現れ始めた。


「カレン!!」


 それを確認した俺はスキルを掛けながら、敵の真っ只中へ突撃をはじめた。目に見える者は全て中毒を掛ける。直接触った訳ではないが、既に煙を直接吸い込んでいるので、一度掛かれば継続的に中毒状態を持続させる事が出来る。敵の傭兵達は喉を押さえて苦しそうに藻掻いていた。


 もう目の前にはダインとカレンしかいない。ダインは俺に警戒して、息を止めて戦斧をグルグルと振り回し始めた。俺は安全な距離でダインへ向けて何度もスキルを掛ける。


 煙を今更吸わせなくても既に体内に入っている煙だけで十分。すぐに効果は現れ出す。


「チクショー!! グフッ。ガァァァ……息が……」


 ダインはその場に戦斧を落とし、他の男同様に喉を押さえ始めた。


「お前だけは……お前だけは絶対に許さん!!」


 俺は勢いを付けて肩肘を付いて喉を押さえるダインの顔に全力のパンチを叩きつけた。


「グハッ!!」


 ダインはパンチの衝撃と直接叩き込まれたスキルの力で息が続かなくなり、窒息状態になり大の字で倒れてしまう。

 まだ無事な傭兵はダインがやられた事に驚き、次々と逃げ出していく。


「カレン大丈夫か!?」


 俺は地面に倒れていたカレンを起こすと声を掛ける。


「……コウヘイなのか? どうしてここに……?」


「あぁ、お前を助けに来た」


 カレンのダメージは深く動けないでいた。俺はカレンの身体を抱きしめると、呆然と立ち尽くすダンへ声を掛けた。


「ダン。手を貸してくれ。カレンを運ぶぞ!!」


 その後俺はダン達の手を借りてカレンを運び出し、無事その場から逃げる事に成功する。


 けれど、一先ず姿を隠した場所で俺は突如、膝から倒れ込む。以前も同じ体験をしたのを思い出す。

 それはスミスさんの娘であるソフィアを助けた時だ。複数の的にスキルを使った時と同じ。身体の力が急激に失われ、薄れゆく意識が暗闇に染まり、俺は意識を手放した。

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