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21話 カレンVSダイン

 四面楚歌。脳裏にはその言葉が響き渡る。前方と左右には傭兵達が取り囲み、背後からは兵士達が近づいて来ている。

 何処か一点を突破しなければ俺は逃げる事すら出来ない状況。限り在る時間の中で必死に頭を働かせ、どの選択が最善なのかを思案する。

 眼球を素速く動かし各方向へ逃げた場合の状況を予想をたてる。


 先ずは正面突破。敵は周囲に傭兵を配置しているので、数で言えば此方が優位だが、大柄の男が放つ威圧感から察すると、相手は相当強いと判断できる。手間を取っている間に周囲を囲まれ、俺達は包囲殲滅されてしまう可能性が高い。


 それならば左右どちらかの方向へ逃げるしかない。逃亡用の馬車は北の一角に隠してあった。なので右に逃げても左に逃げても、馬車からは遠ざかってしまう。


 分散する手はどうか!? いやそれは愚行だろう。戦えない王女や俺がいるのに分散すればそれだけ護衛に付き従う者の負担が大きくなる。


 背後から近づく兵士の姿が大きくなって来ていた。最早一刻の猶予もない。仕方なく俺は傭兵の数が少ない左側に逃げる決断をする。


「全員、左側を突破するぞ。今は敵を倒す時間も惜しい、全員突っ走れ!!」


 俺の叫びに合わせて、リーダーのダンが仲間に指示を出す。


「アナトルとベルナールは先頭で道を切り開け!  ボドワン、バンジャマン、ブノワ。お前達は運が無いな。俺と共にしんがりだ。カレン、お前も頼む!!」


 俺達は一斉に動きを急展開させ、左側へ一斉攻撃を仕掛けた。

 一方ダインは焦る事無く、斧を持つ右手を上げると地面に叩きつけ戦闘のゴングを鳴らす。


「へっへっへ。逃がしゃあ、しねぇーよ! お前達、戦いの始まりだぁぁぁ」

 

「おぉぉぉ」


 敵の傭兵は狂気を伴った奇声を上げながら、俺達へと飛び掛かってきた。初めて体験する間近での戦闘、三次元で迫りくる剣戟。マンガの様に華麗に避けるなんて出来そうにもない。俺は仲間に守られながら震える様な打撃音が響く戦場を駆け抜けていった。


 決断が速かった事が幸いして、俺達の一団は左側に居た傭兵を蹴散らし、何とか退路を確保する。

 必死で走りながら途中で振り返ると、しんがりではカレン達が敵の追撃を防いでいた。

 カレンの姿は次第に小さくなっていく。多勢に無勢。数の暴力は足し算では測れない程に凶暴。カレン達も防戦一方となり、俺達を追いかける様子が感じられない。カレン達の姿はそのまま見えなくなってしまった。


 俺はこれで、いいのかよ? このままじゃカレンが死んでしまうんじゃないのか?


 逃走しながら自分の中で自問自答を繰り返す。けれど俺には戦う力も無く、行けば足手纏いになる。理性と助けたい感情がシーソーの様に何度も交差する。

 全力で走っていいたが、迷いで次第に速度が落ちていた。そして終には動きを止めて振り返る。


 手を力いっぱい握り、迷いを打ち消そうとしていた。

 

 俺が行っても、邪魔になるだけ……足手まといだ!!


 けれどその時に思い出したのは、口吻を交わしたカレンの姿。その憧憬に心を熱く動かされた。


「クッソったれがぁぁぁーー!!!」


「おい!! 何処へ向うんだ!? お前が言っても死ぬだけだぞ!!」


 仲間の傭兵が突然、進路を翻した俺に叫ぶ。


「アイツは……アイツだけは絶対に死なせない。アイツは此処で死んでいい奴じゃねぇぇんだよ!」


 俺は引き止める言葉を振り切り、カレン達が守っているしんがりへと走っていく。

 

---------------------------------------------


 俺がカレンの元へ戻った時は、まだ全員が生きていた。すぐに近くに在った木箱の影に身を隠して様子を伺う。

 目前に広がる状況は最悪で、カレン達は敵の傭兵達に囲まれていた。全員が大きく肩で息をし、体力の消耗も激しい。敵は不敵な笑みを浮かべてジリジリと間合いを詰めている。


「チッ。王女は取り逃がしたか……。仕方ねぇな。こいつらをさっさとぶち殺して後を追いかけるぞ。既に街の出入口には兵士が検問を強いている筈だ。逃げられる訳がねぇ」


「それは残念だったな。王女様はもう遠くまで逃げているぜ。今回は諦めて貰う」


 ダンは精一杯の虚勢を張る。


「ふんっ死に損ないが……口だけは達者な様だな。お前達マスクで顔を隠しているが、どうせ同業なんだろ? 同業のよしみだ。悪い事は言わねぇここは武器を捨てて、大人しくすれば命だけは助けてやってもいい。俺は寛大な男だ。手荒な真似はしない……。それと金髪のお前。女だろ? へっへっへ。王女を捕まえる迄の間はお前には身体で奉仕してもらおうか? こっちは人数が多い、王女が捕まるまでに何人相手に出来るかな?」


「ふん。私に触れる事が出来るのはこの世界で一人だけだ。能書きはもういい……さっさとかかってこい!!」


 カレンは怒り顔を浮かべると今まで着ていたマントを脱ぎ去る。軽装に身を包んだ姿で露出部は多い。カレンがマントを脱いだ訳は動きやすさを重視しての事だろう。

 顔は布を巻いているので、正体はいまだバレて居ない様子。けれど傭兵達はカレンの裸体を目にし、一斉に騒ぎ出した。


「ほぉ、こいつは上玉だな。おい、こいつは俺が捕まえる周囲を囲んで逃がすなよ!!」


 ダインは手下の傭兵達に指示をだす。


「なんだ。親玉が相手をしてくれるのか? なら都合がいい」


 カレンもダン達から一人離れ、ダインの方へと近づいていった。


「大丈夫なのか?」


「ダン。心配しなくても私は負けん。コウヘイが心配だからな。さっさと倒して追いかけよう」


「へへへ。ずいぶんと威勢がいいな。心配するな殺しはしねぇー。だが後で死んだ方がマシだったと思う筈だぜ」


「貴様の薄汚れた声を聞いていると吐き気がする。今すぐに喋れ無いようにしてやろう」


 ダインの武器は斧の先に小さな槍が付いた戦斧。剣のカレンに比べるとリーチは長い。

 カレンの半裸に近い姿を目の当たりにした傭兵たちは、欲情し嫌らしく舌で唇をなめた。周囲は一瞬にして闘技場へと姿を変貌させ、傭兵達もゲスな期待が入り混じった視線を絡めて狂喜乱舞して騒ぎ出しす。


「ダイン様ーー!! その女の服を剥がしてやってくださいよー」


 周囲からはカレンに向けて、野次が飛ばされた。


「ふん。親がゲスだと、子も酷いものだな。行くぞ」


 カレンは素早い動きでダインの懐へ突っ込もうと突撃をしかける。しかしダインは戦斧を横になぎ払いカレンの動きを妨害する。

 驚いた事に戦斧は重量があり扱いが難しい筈なのだが、ダインは軽々と振り回している。その速度は普通の冒険者が剣を振るう速さと遜色がない。


「へっへっへ。やるじゃねーか!! こりゃますますお前が欲しくなったぜ」


「もう喋るな。煩わしい」


 次はダインから仕掛ける。大きく振りかぶり戦斧のリーチを有効に使う。この間合では剣は届かない。

 カレンはダインの動きに合わせて、身体を半歩移動させながら時計周りに身体を滑らす。

 直ぐ側を通り抜ける戦斧の風圧で、カレンの長い髪が宙にふわりと浮き上がる。そして物凄い衝撃音が響き戦斧を叩きつけた地面には刃が半分ほど食い込んでいた。


 まともに喰らえば一撃で身体は引き裂かれ、防いだとしても骨は砕かれるだろう。

 避けたカレンは足に力を入れて自身の間合いまで侵入する事を成功させる。そのまま剣を振りかぶり鋭い一撃を首筋に向けて放つ。


「甘いわ!!」


 ダインは戦斧を引き戻さず横に振り抜き柄の部分でカレンを横に吹き飛ばした。空中でバランスを取り、着地しながら身体を1m程滑らせる。柄で殴られただけなのだが、凄まじい威力だ。


「デカイ図体の割に小癪な真似をする。ならこれならどうだ!!」


 カレンはすぐさま飛び込むと連撃を仕掛けた。ダインも戦斧を引き戻しているので両手で柄を持ち左右上下から繰り出される攻撃を受け止め、流していた。


 2人の攻防は素人の俺から見てもLVが高く。どちらが強いのか予想も出来ない状態だった。けれど今の状態のままではカレン達に分が悪いのは一目瞭然。何としても助け出さないと行けない。


「何か無いのか? 俺の【中毒】が使える方法が……クソ。何て無力なんだよ。諦めるな! 考えろ! きっと方法は何かある筈だ」


 基本的に相手が意識した行動を中毒に出来る俺のスキル。今回の場合、戦う力の無い俺は間に入る事が出来ない。間接的なアクションでカレン達を逃がす方法。


 俺は何か手がかりが無いか、必死で周囲を見渡す。


 すると、木箱の周りには家庭から出るゴミや家事で使う薪などが置かれていた。


 もしかして行けるかも知れない。まだ試しては居ないが普通に考えると中毒ってこう言う事だもんな!? 検証する時間は全くない。今は一分一秒が惜しい。俺はすぐに行動へと移す事をきめた。

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