20話 暁の傭兵団
-------------------三人称----------------------
ピィィィーーー!!
静寂な街に甲高い笛の音が鳴り響く。行き交う人々も足を止めて笛の鳴る方へと視線を向ける。
「王女が現れたぞ。中央広場だ急げ!!」
兵士達は武器を手にし集団となって、航平達が居る中央広場に向けて近づいてくる。次第に増える兵士の数は目に見えて増えていた。
航平達は敵が知らせてくれる笛の音を合図に、撤退を始める。勿論サラたちの誘導指示に従っているので逃亡は容易い。
「クソッ。また逃げられた。このままでは、ブルグ卿に申し開きができん。おい、まだ王女が現れて居ない街は残り幾つだ!?」
「ハッ! 残りはセントブルグとハイネセン。そしてダストの街であります!!」
「もう残り3つしか残っていないのか!? 仕方ないな猶予はもはや無い。直ちに暁の傭兵団に使者を送れ!!」
航平達の小さな影を苦虫を噛むように見つめ。兵士長は暁の傭兵団へと使者を送った。
ブルグ地方最大の街、セントブルク。ここに拠点を張る傭兵団がある。それは暁の傭兵団と呼ばれ様々な依頼を請け負っていた。けれど暁の傭兵団はいい噂を聞くことはない。目的達成の為に非道な手を平然と使い。人の命を何とも思わない残酷非道の行為は他国まで鳴り響いている。
所属する傭兵の数は50人前後。他の傭兵団に比べ大所帯である。
「なるほど……噂の王女様を捕らえれば良いのか? 王女以外は生死を問わぬと?」
「その様に聞いております」
「俺達の依頼料は高けぇぞ?」
「金に糸目は付けないと書いてある筈です。けれど失敗も許さぬと……」
「へっへっへ。これは面白くなって来たじゃねーか。最近おもしれぇー事が無かったからウズウズしていたんだよ。いいぜ。その依頼、暁の傭兵団が請け負った!!」
「協力感謝します!!」
筋骨たくましく。スキンヘッドの男が鋭い眼光を放ち不敵に笑う。この男の名前はダイン。暁の傭兵団の団長で【百人斬りのダイン】と呼ばれる強者であった。後ろに従う団員達も口角を釣り上げて今から始まる戦いに興奮気味に雄叫びを上げた。
「お前ら、早速準備をしろ!? まだ現れていない3つの街に別れ、奴等が現れるのを待つんだ。現れたら手は出さずに追え!! 相手の動きや協力者が居ないか探し出せ!!」
「へい!!」
傭兵達は直ぐに準備へと移る。暁の傭兵団は各街に15名前後配置し、王女が集まりそうな場所に張り込み続けた。
兵士の情報に拠れば、王女は基本的には人が集まる場所に現れると言う。
その情報を元に傭兵達は街人に姿を変え、人混みに紛れた。また別の者は建物の一室を借り上げ、高所の窓から人の群れを監視し続ける。
暁の傭兵団が行動を開始して3日後、ダストの街で王女が現れた。それは情報通り人が多く集まる街道筋の一角。20名のマントに身を隠した者たちに守られ、一人だけ姿を見せて演説を行っている。
「なるほどな王女の護衛は同業の者だな。王女も傭兵団を雇っているって訳か……」
近くから様子を見ていた者が護衛の正体を見極めた。また家屋の2階から見ていた傭兵は違う事を見つける。
「これは変だ。逃げる道順に迷いが無いじゃねーか? こりゃ誰かが誘導しているぞ。俺と同じ高所から全体を見ている者がいる筈だ」
知らない間に航平達の行動は百戦錬磨の傭兵達に丸裸にされていた。
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情報を持ち帰った傭兵達が団長のダインへと情報を伝える。ダインはニヤニヤと笑いながら話を聞いていた。
「団長。奴等の次の狙いは何処だと思いますか?」
「セントブルグは多分ねぇーだろうな? まぁ一応半分は配置して置くが……。俺の考えが正しければハイネセンだ。俺はハイネセンに向う。この街に残る奴等には大通りや人が集まる場所で目立つように警戒しろと伝えろ。兵士達には俺から伝えを出す。
「フハハハ。調子に乗っている王女様に痛い目を見て貰おうじゃねーか」
ダインはペロリと唇を人舐めし、獲物を狙う獣の様に獰猛な殺気を撒き散らしていた。
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その頃、航平達は次の目的地であるハイネセンに潜入していた。他の街と同様に兵士の数を地図に書き写している。特に変わった所は見当たらず。航平は特に危険を感じてはいなかった。
「コウヘイ。少し気になる事があるんだが……」
いつもの様に付き従うカレンが航平に声を掛けた。カレンから意見を言ってくる事は珍しい。航平も足を止めてカレンの言葉に耳を傾ける。
「街の雰囲気に緊張感を感じる。これは他の街には無かった物だ」
「緊張感? 俺には感じないけどな? だけどカレンが言うのはもっともだな。この地方に残された街も最早2つ。兵士達も殺気立っているんだろう。だけど俺達はその上を行く!」
航平はそう告げてドヤ顔を見せる。カレンに口吻をされた翌日もカレンは普段と変わらぬ態度で航平に接していた。逆に航平の方が意識してしまい空回りしていた位だ。
けれどカレンのそんな接し方のお陰で航平も普段通りに動く事が出来ていた。
「それもそうだな。私が気にし過ぎたかもしれんな」
「いや、助かるよ。これからも思う事があったらドンドン言ってくれ。俺が気付かない事もあるからな」
航平達は再び調査を開始し2日後には全ての調査を終わらせた。そして作戦を決め航平達はハイネセンの街にゲリラ戦を仕掛ける決定をした。
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今回の作戦実行時間は夕方前、その理由として人の量が増えるからだ。出来るだけ多くの人に演説を聴いてもらい。一人でも多くの人にスキルを掛ける。実行時間を決める決めてはその2つの項目であった。
いつもと同じ様に20名の集団が突然乱入し、円陣を組む。その瞬間から大きな歓声が沸き上がる。王女の噂は広く伝わり、街人達の大きな希望へと変わりつつ在った。
王女がフードを取ると、その歓声は一段と大きなものへと変化する。もはやスキルすら必要ないんじゃないかと思える程だ。
王女の演説が始まり、少し経過すると何時もと同じ様に笛の音が鳴り響く航平達は撤退の隊形を取りサラやペドロの指示を確認しながら街を駆け抜けていった。逃げる途中に兵士達の姿は無く何時もより楽に逃げられている。
「今日の兵士はしつこくないよな?」
「あぁ、何かが変だ!? おい、コウヘイ。気をつけろ? 悪い予感がするぞ!!」
傭兵達の第六感が警鐘を鳴らし、話し合っている。そして傭兵のリーダを務めているダンがコウヘイに声を掛けた。
「悪い予感!?」
航平が意味不明だと言わんばかりに首を傾げて見せた瞬間。街道の影から20名余りの男たちが飛び出してきた。
「何だコイツ達?」
急ブレーキを掛けて歩みを止める。周囲を確認すると見知らぬ男たちに囲まれている状況。ここ迄きて航平も誘われた事に気がついた。
そして前方からはスキンヘッドの大柄の男が巨大な斧を片手に持ち、悠然と近づいてくる。
「ゲッゲッゲ。お前達の命も此処までだよ。誘われた事も気付かない飛んだ間抜け野郎どもだ。女王以外は命が無いと思えよ!!」
竦むような殺気を放つ男を見ただけで、傭兵の額からは大量の汗が流れる。人目で前方の男が危険な奴だと全員が認識していた。
「アイツは【百人斬りのダイン】だ。クソ野郎が出てきやがった。お前ら王女は必ず逃がすぞ!!」
ダンが仲間の傭兵に発破を掛ける。傭兵達はゴクリと生唾を飲み込み、今から起きる戦いを想像する。周囲は緊張の渦に飲み込まれていた。