18話 逃げるが勝ち
今日から街を対象としたゲリラ戦を開始させる。最初に狙う街はグロッグ。
そう隠れ家のあるこの街が第一手目と俺は決めていた。
何故、隠れ家がある場所を一番最初に選んだかと言うと、俺達は今後、国にある街を順番に回っていく事になる。王女の行動はすぐに噂となって国中を駆け巡るだろう。そうなるとマクレーン卿達は当然、王女を捕らえようとする筈だ。
その結果、王女が現れていない街は警戒が強化される事になる。そうなると、もしグロッグの街を後回しにした場合、休息や補給を受けるにしても街には兵士が多く配置され動きづらくなってしまう。
最初この街からスタートさせると告げた時は、全員が驚いて猛烈に反対をしてきた。けれどちゃんと順を追って説明すると最後は納得する事となる。
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作戦の当日。太陽が一番高い場所にくる昼前、多くの人々が買い物や仕事に出ている。マントをまとった20名程の集団が市場の中央で円形の陣形を取ると円の中から人を追い出す。
「何だ!? お前達は!!」
「今から演説が始まるんだよ。さっさと下がれ馬鹿野郎!!」
大柄の男が一人の傭兵に突っかかっていたが、顔面にパンチを喰らい。その場に倒れ込む。やはり傭兵は強かった。体格で言えば文句を言ってきた男の方がデカく体重も重そうだったが、男が掴みかかるのを見計らってカウンターで一撃とは……。それによく見ると傭兵は自称カレンの親父じゃねーか!?
あのおっさん。マジ怖い奴だったんだ。あの時反抗しなくて本当に良かった。
俺が冷や汗をかいている間に騒動を見た街人達が、何だ何だと騒ぎ始めた。
皆の視線が俺達に集まった時、円の中心に王女が進み、顔を隠していたフードをバッと払う。
「国民よ! 立ち上がるのです。プリースト国はマクレーン卿の暴挙によって混沌と化し、皆、重い税を強いられ苦しんでいる。この絶望から脱却する為にはあなた達の力が必要です。私はプリースト国第一王女、アクア・プリースト。さぁ私と共に元の国を取り戻す為に立ち上がるのです」
全身を使って周囲の者に訴えている。その顔は真剣で言葉には熱意が込められていた。呆然と見ていた街人達だったが、少しずつ騒ぎはじめる。
「おい、あれ本物の王女様じゃないのか?」
「本当だ、俺は何度も見た事がある。あれは本物だ。王女様は生きていたのか!?」
「聞いたか? 王女様は戦うつもりだぞ。お前どうするんだよ」
「俺は……こんなクソッたれな生活、もううんざりだ。元の暮らしに戻れるなら俺はやるぜ!!」
周囲から少しづつ王女を応援する声が聞こえ始めた。この位の人数になると、一人づつ接触してスキルを掛けるのでは効率が悪い。少々効きが弱くても一度に全体を掛けた方が良いだろう。
俺は手当たり次第、視界に入っている者達へスキルを掛ける。
予想通り、効果は薄いが元々反抗意識の高い者達には効果は幾らか在るようだ。急に声援にも勢いが増した気がする。
「王女様ぁぁー」
「国を取り返すぞーー!」
「へへっ。効果は在った様だな。後はちょっと強めの中毒を数名作り上げておけば……」
俺は近くで叫んでいた。3人の男性達に近づくと身体に手を当ててスキルを掛けた。男達は直ぐに中毒症状が現れていた。
「おい、お前達は王女の力になりたいんだろ?」
「おう、当然だ。こんな国ぶっ潰してやる」
「なら、街の人々に声を掛けて有志を募っておけ、王女はいずれ行動を起こす。その時まで、出来るだけ多くの人を集めておくんだ」
「あぁ任せろ。不満を持っている奴等は多いからな。俺達の力で元の生活を取り戻してやる」
「その意気だ。くれぐれも領主に見つかるんじゃないぞ」
残りの時間、俺は時間が許す限り直接スキルを掛けて行く。すると遠くで建物のガラスが割れる音が数回聞こえた。
「もう兵士が来たのか!? 意外と早いじゃねーのか? まぁいい。みんな逃げるぞ!!」
俺達は直ぐに一箇所に固まると王女を守りながら、人混みを押しのけ、その場から逃げ出した。
因みにガラスを割って兵士が来た事を教えてくれたのはサラで、今も兵士がどの方向から近づいて来ているのかを教えてくれている。
サラやペドロは近くの建物の2階から俺達の様子を見守ってくれていた。そして兵士が見えたら窓ガラスを割って知らせると事前に決めていた。
背後を振り返ると、街人達の妨害に合い思うように進めない兵士の姿が見える。
まずは作戦通り。そのまま街を抜け、見つからない様に隠していた馬車に乗り込み俺達は次の街へと走らせた。
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グロッグの街から馬車で1日進んだ所にあるのは、この地方で最も大きな街セントブルク。セントブルクにはこの地方を治めるブルク卿の屋敷がある。
王女がグロックの街を逃げ出して2日後、ブルク卿の屋敷にグロックの街から一枚の報告書が届いていた。
その報告書を一人の男が一目し、吸っていた煙草で火を付けて燃やしていた。男の姿を一言で言うならカエルが一番近いだろう。恰幅の良い体格と脂の乗った顔、肉の食い過ぎで顔にはふきでものが多く出来ている。男は声を張り上げ一人の兵士を呼び寄せる。
「ゲブゥ。本物かどうかは知らんが、王女が現れたようだな。面倒くさいが、本物ならば……使い道もあるだろう。お前は直ぐに組織を結成し、コイツ達を捕らえろ。王女以外は全員殺しても構わん」
「はっ!!」
再び一人となった部屋で男は、気味悪い声で笑う。
「ゲッゲッゲ。もし本物ならば、ワシがこの国の王となる切り札になるやもしれん。これは運が回ってきたぞ」
この男はブルク卿と呼ばれる男でこの地方を治めている。欲が深く、マクレーン卿のクーデターにいの一番に参加した男でもあった。クーデター後は領民に重い税を掛け、生活を苦しめている張本人である。