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17話 閑話 買い物へ行こう!!

 昨日は王女の捜索で、疲れ果てた上に遅い時間まで起きる羽目になった。なので折角の休日は心行くまま睡眠を貪り尽くすつもりでいた筈だったのに……。


 俺の小さな願望は、芯の通った威勢の良い声で壊されてしまう。


「さぁ朝だぞ。起きろ!! 今日は買い物に出かけるぞ!!」


 深層意識に薄っすらと聴こえてくる声を鬱陶しく思いながら、シーツを頭から被り必死でスルーを決める。けれどそれは無駄な抵抗の様で、突然俺の身体が空中に持ち上げられた。

 何度も体験したこの状況。乗り続けたアトラクションと同じで驚きも無くなってくる。


 俺は抵抗する事を諦め、大きくため息を吐いた。


 目の前には何時もの軽装では無く、ワンピースを着たカレンの姿。

 カレンはご機嫌で満遍な笑みを俺に向けている。衣装が変わっただけで、カレンは見違える位に綺麗になっていた。スタイルも良く元から高い素材を持っているだけに、どんな衣装でも似合うのだろう。

 もし最初に出会ったのがこの姿なら、俺は間違いなく一目惚れをしていた筈だ。


 本当はここで皮肉の一つも言いたい所だが、グゥの根も出ないので仕方なく手を上げて降参のポーズをとる。叩き起こされて目が覚めてしまったので、ここは大人の行動を取る事としよう。


「カレン、おはよう。それで一体何の用だ?」


「うむ。今日は一緒に買物に行くぞ!!」


「行くぞとは何だよ。俺の意見は関係ないのか?」


「心配するな。きっと楽しいぞ。昨日、カトレイアに言われたんだ。もっと2人の時間を大切にしろって。だから私は買い物に行く事に決めた!! 何か買いたい物は無いのか?」


「俺に拒否権は無いのか?」


「無いな。逃げたら捕まえて引っ張っていくだけだぞ。さぁ観念しろ」


 ニコニコと笑顔で言われたら怒るに怒れない。それにカレンには色々世話になっている事だ。丁度、買いたい物も在ったのを思い出し、それならばと買い物に出かける事を了承した。


----------------------------


 カレンは着慣れていない洋服に戸惑っていた。鎧ばかり身に付けていた為だろう。装備の軽さの余り歩く速さが異常に上がっている。俺の方は一緒に歩き出しても置いてけぼりをくっている。今もカレンは俺の数m先で待っていた。

 

「お前、歩くの早すぎだっての!!」


「すまない。早く歩くつもりはないんだが、どうも身軽くてな。ふむ、これはどうしたらいいのか?」


「そんなに力が余っているんなら、俺を引っ張って行ってくれよ」


 そう言うと、俺は右手をカレンに差し伸べる。手を握って引っ張ってくれるなら楽ちんだと言う安易な発想だ。


「てっ手を繋ぐのか!? 多くの人が見ているのに!?」


 カレンは手を繋ぐだけなのだが、少女の様に顔を朱色に染め出した。そんなに恥ずかしがられてはこっちまで恥ずかしくなってしまう。このまま乙女モードに入られると鬱陶しいので、俺の方からカレンの手を握る。


 剣をずっと握っている筈のカレンの手は不思議と柔らかく、手の平には薄っすらと汗をかいていた。

 少しだけドキッとしてしまったが、俺は23歳で今までに2、3人程度だが、女性と付き合った事もある。


 こんな事でトキメイてたまるか!!


「さぁ、行こうぜ。力が有り余っているなら引っ張ってくれよ」


「あぁ、任せろ!!」


 嬉しそうなカレンに引っ張って貰いながら、目的の場所へと向う。今日のカレンは何時もより2割増で綺麗で、すれ違った男性達が振り返っていた。


 カレンに引っ張られて歩いている俺を彼等は俺をどう言う風に見ているのだろうか?


 そんな時に聞き覚えのある声が聴こえた。


「コーヘイにいちゃん。何処行くのさ?」


 声は背後から聞こえ、振り返るとサラが俺の後を追って小走りで近づいてきた。


「あぁ、サラか! これからカレンと買い物に行くんだよ」


「買い物かぁ~いいなぁ。ねぇアタシも連れてってよ!!」


 俺がいいぞ! と声を出そうとした時、カレンが慌てて止に入ってきた。


「駄目だぞ。絶対に駄目だ。今日は私と約束をしている。サラは別の日にしてくれ」


「えー!! 何だよ。カレンねえちゃんのケチんぼー」


 サラは頬を膨らませて拗ねていた。


 サラとカレンは意外と仲が良い。2人で話している姿も何度か見かけていた。カレンはサラを妹の様に可愛がっているみたいで、サラが最初に抱いていた。怖いと言う感情は今は無くなっている。


「しかしだな。今日はコウヘイと2人で……」


「あー解った。カレンねえちゃんは、コーヘイにいちゃんを襲うつもりなんだー」


「違う。違うぞ!! 私はそんな事はしない。むしろ襲って欲しいなんて……」


 コイツらは俺が目の前にいるのに、何を話しているんだ? 昨日の女子会にもしかしてサラもいたのだろうか? やけに話が合ってやがる。


「まぁ、いいじゃないか? また買い物には付き合ってやるから。今日は3人でいこうぜ」


「うぅー。……解った」


 渋っていたカレンも最後は頷き、今回は3人で買い物をする事となった。

 いざ3人で移動してみると、カレンとサラは姉妹の様に仲睦まじく喋りながら歩いている。


 そうこうしている間に目的の店に着く。ここはスミスさんが経営している何でも置いている店。正にデパートに近い店舗で食料品や衣類、更には日用品から武器まで取り扱っている。この街一番の商店と言っても過言では無い。


 俺はこの店である品を購入するつもりだった。


 店に入るなり、店員さんを見つけて。目的の品がある場所を聞き出す。それは衣服が揃っている一角に陳列されていた。


「ん? コウヘイはマスクを買うのか?」


 俺が並んでいるフェイスマスクを眺めていると、カレンがそう尋ねてくる。


「あぁ、これからは人目に尽きやすくなるからな。顔がバレるのは宜しくない。本当はお前たち傭兵にも着けて貰いたいんだがな」


「うーん。視界が悪くなるのは遠慮したい。せめて布で口元を隠す程度でなければ、戦いに支障がでるかもしれないな」


「やっぱりそうかー!! なら仕方ない。俺の分だけ買っておくとするか」


 俺は一つのマスクを選んだ。顔の上半分を隠す白いハーフマスクである。俺が買い物を済ませてた時、サラの姿が見当たらない事に気付く。


「アイツ何処行ったんだ?」


「サラなら、衣服売り場に居た気がしたが?」


 俺達が衣服が置いているブースに向うと、サラがジッと一着の服を眺めていた。手に取る訳でもなく、ただ見つめるだけ。


「それ買わないのか?」


「ひやっ!! 何だ、にいちゃんか!? ビックリさせないでよ」


「あぁ、悪かったな。ちゃんと給金も渡しているだろ? 買えない服じゃないと思うが?」


「アタシは今持っている服だけでいいよ。給金はエイミ姉ちゃん達に送るから。姉ちゃん達もこれでアタシも稼げるって解るはずさ」


 サラはそう言うとニシシと笑みを浮かべた。けれどこれはどう見ても強がっているだけだろう。


「そうか、なら俺が買ってやるよ。以前、女の傭兵に殺されかけた所を逃してくれた礼がまだだったかったからな」


「おい。それは誰の事を言っている? もしかして私の事では無いだろうな!!」


 横からカレンの鋭い視線が突き刺さる。お前以外に誰が俺を追いかけ回すって言うんだ!!


 そのままサラが見つめていた服を手に取ると、俺は店員へと渡し購入を済ませた。


「ほら、遠慮するな!!」


「えっ……でも」


「良いって言ってるだろ? お前も女の子なんだから、もう少し着飾らないとな」


 俺はそう言いながら服を無理やり渡して頭を撫でてやる。どうやら俺には少女の頭を撫でる性癖でもあるのかもしれない。

 サラは気持ちよさそうに目を細めて受け入れていた。


「うぅぅぅ。羨ましいぞ。羨ましいぞ!!」


 そんな様子を間近で見ていたカレンが駄々をこねはじめる。コイツは本当に20歳なのだろうか?

 恨めしそうに俺を見つめ続けるので、俺はカレンにも何か買ってやる事にした。


「そうだな、お前にはこれだ」


 俺が買った品は銀細工で作られたネックレス。何時も鎧を来て剣を振るうカレンには身につけるアクセサリーの方がいいだろうと言う判断だ。


「大事にするぞ。絶対に外さない。これは家宝に決めた!!」


 カレンは嬉しそうにはしゃいでいる。けれどそれを見て俺の心は複雑な思いが渦巻いていた。


 カレンが俺に好意を持ってくれているのは解っているが、それはスキルの力が影響した為。今はスキルに掛かって居ないが、きっとこれはカレンの本当の気持ちじゃない。


 本当に俺のスキルは本当にクソったれだ!!


 無性に腹がたったが、目の前で互いのプレゼントを自慢し合う2人を見ていると、そんな気持ちも薄れていく。


 こんなザラついた気持ちじゃ、明日からの戦いはやっていけない。全ては国を取り戻した後にゆっくりと解決させて行けばいい。

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