13話 準備
女王が決断をした翌日、俺はアクア王女達と共に商工会を訪ねていた。俺達の話が纏まった後、真っ先にスミスさんへ連絡を入れている。スミスさんは議会の議長を務めているので、議員を全員呼び寄せると言ってくれた。
この場所でアクア王女と商人達の契約書が取り交わされる。
何故、彼等がすんなり俺の話を信じたのか? それは俺がアクア王女が持っていた短剣の絵を詳細に書き写してスミス達に見せた為だ。
俺に絵心があって本当に助かった……。
彼等の様な大商人はシュリオン以外の国でも店舗を構えている者が多い。その為に他国の要人とも接する機会も多い。
スミスさんと他数名の議員がプリースト国にも店舗を出しており、実際に王女や短剣を知っていた。なので俺の絵を見たスミスさん達は実際の王女の姿を自身の目で確認し、本物ならばと言う条件付きで話しを進めてくれたのだ。
商工会議所は中央区のど真ん中に建造されている。この会議所で商業国家シュリオンの運営が行われていた。
入場門には衛兵が設置されており、フードを被り顔を隠した俺達が普通に通ろうとすると当然止められたが、俺の名前を告げて事務局に尋ねて貰うとすぐに建物内へと通される。
そのまま職員の女性に大会議室に案内され、中に入ると12名の議員達が長テーブルに座わり俺達を待ち構えていた。
彼等は俺達が入ると鋭い視線を向けてくる。足の先から頭の先まで舐めるように見られ、一瞬身体の中まで覗き見された気分になり冷や汗をかく。
流石は国を代表する者達。俺達が来ているボロい服装だけで判断するのでは無く、本質を見極めようとしてるのだろう。
俺が促すと、アリア王女達はフードを外し素顔を見せる。何名かの男達が小さく「おぉぉ」と声を出したのが聴こえた。
「議員の皆様……私はプリースト国、第一王女アクア・プリーストです。この度は助力を頂けると聞き感謝のしようもありません」
上品に頭を下げると数名の者が立ち上がろうとしている。きっと王女が頭を下げたので止めようとしたのではないか?
「スミス商会、ブルーノ商会、ジーモン商会、ルードルフ商会の代表者様、お久しぶりです。プリースト国に居た時はお世話になりました。今回は国の窮地にご助力を頂き感謝しています」
「「姫様、どうか頭を上げて下さい!!」」
名を呼ばれた商会の代表者は席を立ち上がりアクアの元へと駆け寄って行く。この様子を見て他の代表者達も彼女が本物だと信じてくれた。
他の議員達も国のイベントの際には出席し、王女を一度や二度位は必ず見ている。スミス達は何度も会っているので記憶に新しく。すぐに本物と見抜き飛び出して行ったが、他の議員も自分の記憶と王女を重ねるのに時間は掛からない。
その後一旦、休憩を挟み俺達は別室へと連れて行かれる。議員の者達は契約の内容に付いて議論している筈だ。
「何もかもコウヘイのお陰です。商人達の力を借りる事が出来れば国を取り戻す事も夢ではありません」
別室で不意に感謝される。王女の瞳は英雄を見るようにキラキラとしていた。
「何を言っているんだよ。俺にとってこれは仕事。達成した暁には約束はちゃんと守って貰うぞ」
「勿論、解っています。けれど感謝せずにはいられないのです。たった一度、会っただけで私の言葉を信じてくれて、更にこの様な場まで用意してくれるなんて。もしやコウヘイは神が私の元へ国を取り戻す為に遣わした使徒では無いかと疑ってしまいます」
「んな、バカな話しがあるか!? もし俺が神様の使いならハーレムなんて望んだりしないだろ?」
「ハーレム……?」
「そうだよ。俺はこの仕事が終わったら、仕事をせずに毎日、美女に囲まれダラケて過ごす!! その為に今を頑張っているだけ」
「ハーレム……ですか?」
どうやらこの世界にはハーレムと言う言葉が存在しないようだ。無理に説明するのも疲れるので、適当にあしらっておく。
暫くすると、ドアがノックされ案内してくれた女性が現れる。その女性に促されて俺達は再び大会議室へと向かった。
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「アクア王女。これが今回、貴方と契約する内容です。しっかりと読んで理解して下さい。後で知らない、また反故された場合。我々としてもそれなりの対応をさせて頂く事になりますので……」
悪徳会社と交わす契約書には何処か小さな場所に空いてが有利になる事が書かれている。王女達は契約書をゆっくりと読み上げ、解らない所はスミス達に質問しながら最後には納得し署名を行った。
俺も隣から見ていたが互いに利益があり、俺が提案した通りの内容に近い。条件的に言えば王女の方が利益が多いのでは? と思える程優遇されていた。
議会と王女が2つの契約書にサインを行い。一枚づつを互いが持ち合い契約が無事終了する。
契約が終わったからと言って、これでサヨナラでは無く。
ここからが俺の仕事。
俺は事前に作っていた必要資材や予算を書いた書類を12名の議員へと配る。その後、一つづ項目の説明しながら議会から必要な金を引き出す。
幾つか内容を上げると。
最初の運転資金、俺達が自由に傭兵を雇ったり隠れさせたりする為の金。
武器や防具などの支給。
プリースト国内での潜伏場所の提供。
いざ、戦いになった場合の支援。
相手も海千山千の強者達で納得させるまで時間は掛かったが、どうにか承認を得る事に成功する。
これで資金は確保でき、数日中に軍資金が手に入る。
けれどそれまでの間、何もしない訳では無い。俺は宿に戻ると、直ぐさま次の準備にとりかかった。
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「何だって!! アリアの病気の薬をずっと提供してくれるだって!? それはどう言う事なんだ」
ペドロは大声を上げた。俺が真っ先に訪れたのはゼロ番地にあるペドロが住む家。
「まぁ、厳密に言えばずっとじゃない。お前達が一緒に働いてくれている間だけどな」
「コウヘイは、俺に仕事をくれるって言うのか?」
「ペドロだけじゃない。サラや他にもしっかりとした子供達がいるなら、皆にやって貰いたい仕事がある。薬以外にもちゃんとした給金は出すつもりだ。だけど失敗すれば怪我をするだけじゃすまないかもしれない」
「内容は!? 仕事の内容を言ってくれ。できるだけ子供達には悪い事をして貰いたくはない。サラは勝手にやり始めたが、他の子供にはやらせていない」
それはペドロの親心なのだろう。ゼロ番地に住んでいる者で真当な仕事をしている者は少ない。全員が何かしら犯罪をしている。だが俺がペドロ達に頼むのは悪い事ではない。
「お前達の仕事は、俺と共にプリースト国に行って貰い、情報を得て報告して貰いたいんだ。街人や兵士達が何を話しているのか? 詳しく俺に聞かせてくれ」
「兵士や、街人の話をコウヘイに伝えるだけでいいのか?」
「あぁ、けれど情報を得ている事を悟られたら駄目だ。捕まっても吐いてはいけない。それが守れる者が条件となる」
俺がやろうとしているのは、マーケティングだった。今後、王女には街や村を回って有志を集めて貰う。その為に何処から回れば良いのか? 効率良い廻り方などを決める為の下準備と言える。
「それなら、俺を入れて4人だな。他の子供はまだ幼すぎる。サラと歳が近い者で行く方がいい」
「それじゃ、頼めるか?」
「あぁ、是非やらせてくれ。薬が手に入り、給金も貰える。しかも仕事が情報を得るだけって言う、美味しい仕事を他の者に取られる訳いかないからな!!」
俺がペドロ達に頼んだのには理由がある。
ゼロ番地に住む子供達は危険に敏感なのだ。なので迂闊な行動はしない筈。そして何よりも機転が効く。
それは危険なゼロ番地に住んでいる為に自然と身についた能力なのかもしれない。
次に子供だと疑われ辛いと言うのも大きな理由だ。子供が近くで遊んでいても、大人たちは気にはしないだろう。
これで諜報舞台は手に入れた。情報を集める事はこの作戦で大きな意味を持つ。
カレンには腕利きの傭兵を20名集めて貰っている最中。傭兵が集まれば、いよいよプリースト国へ潜入を開始する。