12話 反撃の狼煙
約束の朝。俺は何時もより早く目が覚める。社会人になり大きなプロジェクトを初めて任された時と同じだ。
それは決して不安から眠れなかった訳では無い。ゴールを目指して突き進むスタート地点に立った事でワクワクが止まらないからだ。更に今回、無事ゴール出来れば美女付きのハーレムが待っている。それを考えただけで、メラメラとヤル気が溢れてくる。
この3日間、俺は毎日スミスさんの所へと通い。2人で様々な事を話し合った。ジョセフさんに連れられてスミスさんと初めて会い話を聞いた時、絡まっている紐が自然と解ける様に、俺は国を取り戻す為のルートが見えた気がする。
敵の情報が全く無い時点で何を言っているんだと思われるかも知れない。
けれど俺が描く方法は【中毒】のスキルが必須の裏技! 戦いが発生すれば得意分野の人に任せるつもりだ。
俺は3日を費やして自分が日本で培った知識を詰め込んだ一つの計画書を作り上げた。
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約束の日、俺はカレンを連れて約束の場所へと向かっていた。簡単な説明はしているがカレンはどう思っているのだろう? 俺的にはカレンが参加してくれる事を望むばかりだ。
「約束の場所はここだな」
中央区の南にある宿屋の一室、ドアをノックすると中から聞いた事がある声が聴こえる。
「誰だ!?」
「俺だよ。約束通りカレンを連れてきたぞ」
するとドアが開かれ、中には4人のメンバーが集まっていた。
「カレン様、この度は態々お越し頂き感謝致します」
銀髪のお姫様が一礼してくる。カレンも一礼を返すと本題へと移る。
「用件は彼から聞いている。私を雇いたいと言うのは貴方でいいのか?」
「はい……是非、私達の為にその武勇をお貸し頂きたい」
「その答えを出す前に、貴方の口から依頼内容を聞かせてくれ。彼から簡単な説明は受けているが、食い違いが在れば後で困る事になる」
皇女は俺と話した内容をもう一度カレンへと話す。
カレンは腕を組みフムフムと素直に聞き入っている。猪突猛進タイプのカレンもちゃんと人の話を聞くんだと初めてしった。
「……と言う事で、カレン様には我々が隣国へ行く間の護衛をお願いします。もしその後も我々にご協力頂けるなら引き続き雇いたいと考えています」
「なるほど。それで依頼料はどの位頂ける? 依頼内容を聞く限りでは任務期間は長期になりそうなのだが」
「生憎、現金は余り持ち合わせていません。なので依頼料はこれで代用出来ないでしょうか?」
アリアは自分が身に付けているネックレスを外すとテーブルの上に置いた。短剣同様に綺羅びやかな装飾が施された一品で売ればどの位になるか想像がつかない。
「これは中々の一品……報酬としては十分。けれど……」
カレンはそこまで言うと、俺の方を見る。どうやら俺の意見が欲しいのだろう。
タイミング的には申し分ない。俺はカバンから作り上げた企画書をテーブルの上に置いた。
「ちょっと良いか? 俺から提案がある。これを見てくれ」
一同は俺が作った事業計画書を見つめる。
「これは一体……」
「俺もアンタが国を取り戻す手助けをしようと思う。そしてその案がこの紙に書かれているって訳だ。一度見てくれ」
「貴方様も私達に手を貸して頂けるのですか? それは助かります今は一人でも多くの力が必要なので……」
「話しはその紙の内容を読んでからだ。勿論タダって訳じゃない報酬はちゃんと貰うつもりだからな。報酬内容は毎月決まった金額を俺が死ぬまで貰うって事でどうだ?」
「決まった金額? ちなみにお幾ら位でしょうか?」
「そうだな。そんなに多くは貰うつもりは無いが、俺も遊んで暮らしたいし……そうだな国の大臣とかが貰っている給料と同じ額を毎月貰えればいいかな? それとアンタの国で家を一軒貰いたい」
「死ぬまで払い続ける……もしそれで国が取り戻せるのならば」
4人は近くに寄り添い、俺が制作した計画書に目を通す。
「おい、これはどう言う事なんだ!? 他国に渡らず我々が説得して国民に反乱させるだと!?」
最初に声を張り上げたのは、カレンにやられた男。
「あぁ、いい案だろ? もし他国に助力を求めて国を取り返した場合、アンタ達の国は属国になりかねない。ならば自分達だけでケリを付ける方がいい。けれどアンタ達には兵力が無い。なら国民に助けて貰えばいいじゃないか! 確かに国民にも多くの被害が出るだろうが、聞けば国民は今も悪政に苦しんでいる。そんな状態ならきっとお姫様が説得すれば力を貸してくれるだろうぜ」
「現実味がなさ過ぎる。姫が戦えと声を上げた程度で、戦争も知らない国民が戦う筈ないだろう!! それに武器はどうする? 食料は!? 武装した兵士相手に素手や畑で使う農器具で戦えと言うのか?」
俺の計画書には姫が国に在る村や町を廻り、国民に戦う様に訴えると書いている。
「武器の事は心配ないさ。もう既に手は打ってある。もう少し先を読んでみろ? 出資者の名前が書いてあるだろ? 今回、俺の作戦を実行するなら条件付きで彼等が金を出してくれる。だから武器も食料も尽きる事はない」
「この先だと……?」
彼等は先を読み進めている内に言葉を失う。
「シュリオン商工会? すみません、これは一体どう言う事なんですか!? シュリオン商工会と言えば商業国家の商人達が集まって作った連合会。彼等が我々に軍資金を提供してくれると!?」
赤髪の女性も驚きの声をだす。それもそうだろう。シュリオン商工会と言えば、商業国家シュリオンだと言っても過言ではない。この国には王など存在しない。各地域から代表者が選挙で選ばれ共同で運営を行う。共同国家で、その代表者は軒並み商工会の重鎮ばかりであった。
「あぁ、ちょっとツテが在ってな。俺の計画を話してみたら結構乗り気になってくれた。それでもし出資を受けるのなら、彼等の支援を受けて国を取り戻した暁には商業国家シュリオンとプリースト国の間で取り決めた商品の関税を無くす事が条件だ」
「商品の関税を無くす!?」
「あぁ、でも心配しないでくれ全部の商品じゃなく。飽く迄、両国で話し合い取り決めた一部の商品の関税だけ。幸いな事にシュリオンは商業国家と呼ばれるだけあり様々な物資が流通しているが、自国生産品は少ない。逆にプリースト国は広大な肥えた土地を持ち農業国として名を馳せている。だからだ住み分けは十分できる」
これは俺が日本にいた時にニュースで話題になったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を参考にした物。簡単に言えば自国の売りたい商品の関税を無くして互いに流通を拡大しようぜ!と言う仕組みである。
互いにメリットとデメリットが在るが、流通を拡大させると言う点に置いては効果は大きい。更に国民は安くその商品を買える様になるのでメリットの方が大きいかもしれない。
幾ら俺がスミスさんと知り合いだと言っても出資を引き出す事は難しい。けれど互いに利益がある方法を提示すれば話も変わる。彼等も善人と言う訳でも無くれっきとした商人達だ。
なのでちゃんと利益が在る事を示さなければ行けない。けれど一度納得したならば尽力を惜しまず強力してくれると思っている。
「それでは我らの国の商人達が頷かないでしょう」
「赤髪の姉ちゃん、それは違うぞ。これは互いにチャンスなんだよ。今まで自国だけで営んでいた商売を国外まで広げるチャンス。さぁどうする? あんた達が言っている様に他国に助力を求めに走るのか? 自分達の力で国を取り戻すのか!?」
暫しの沈黙が流れる。それだけ考えているのだろう。けれど重い空気の中、決意を込めた力強い声が俺の耳へと届く。
「解りました。私はやはり、自分達の力で国を取り戻したい! 全ての条件を飲みましょう!!」
「姫様。宜しいのですか!?」
「えぇ、リリィ。私は決めました。私は彼の提案に乗ってみようと思います。皆も力を貸してくれますか?」
「ハッ!! アリア様の指示に従います」
3人は姫の前で片膝を付き、頭を垂れる。
「よし、話は決まったな」
何とか作戦が実行できそうで俺もホッと胸を撫で下ろす。
「それにしても貴方は一体何者なのですか?」
アリア王女が聞いてきた。本当の事を言うなら、俺は日本でサラリーマンをやっていた者。けれどそれを言っても信じて貰えない。だから適当に答えておく。
「俺は単なる怠け者さ。楽して暮らしたいから、この仕事で一生分の金を稼ぐだけだよ」
俺はそう言うと、隣で見ていたカレンに視線をむけた。
「当然、カレンも依頼を受けてくれるんだろ?」
カレンの事だ。何も聞かなくても手伝ってくれそうな気はしている。
「いいや。私はこの依頼を受けるつもりはない」
それは驚く返答であった。既に俺の中ではカレンを計画に組み込んでいた。なのでカレンが参加しない事は大きい。けれど無理に参加させるつもりも無かった。参加しないなら再度計画を練り直すしか無い。
「もし契約を受ければ、私は彼女の指示に従って動く訳になる? そうなるとコウヘイを守りたい時に守れないかもしれないからな。だから私は自主的にこの戦いに身を投じるとしよう」
格好良い。何て格好良い奴なんだ!! もし俺が女だったら惚れている所だ。
「お前……戦いは年単位になるかも知れないけど大丈夫なのか?」
「あぁ、ずっと貯めていた金は在るし、もし一文無しになったとしてもコウヘイが私を養ってくれるんだろ?」
少し頬を赤らめている。たまに見せる仕草が可愛らしいのが憎らしい。
「あはは、そう言う事か……まぁ仕方ない。そうなった時は考えてやるよ」
問題は全て解決した。後は更に敵の情報を手に入れて作戦を完璧に仕上げるだけだ。
こうして俺達の反撃の狼煙は上がる。