11話 岐路
確か3ヶ月位前、隣の国で色々あったのを聴いた事がある……けれど。
「全く信用できんな! まずアンタ、本当に第1王女様なのか? 言うだけで信用されるなら、この世界はお姫様で溢れかえっているぞ」
「証拠ならございます。この短剣を見てください。これは王家に伝わる王族の証」
俺に見せたのは金銀や宝石を散りばめた豪華な短剣で、刀身には紋章が刻まれている。
「んな物を見せられても、それが本物かどうかこっちには判断できない。それにだ、アンタ達は何故4人だけでこんな犯罪者が集まる場所に隠れているんだ? 普通なら他の貴族の元に身を寄せて力を蓄えたり、それが無理でも懇意にしていた他国に助力を求めたりするのが普通だと思うがな」
「嘘ではありません」
「本当に正直に話しているのか」
「本当です!!」
いつもの様にスキルを使い銀髪の女性が本当の事を言っているのかを確かめてみる。すると彼女の顔に【正直に話している】と文字が現れる。
と言う事は彼女は本当にお姫様なのだろう。
お姫様がどうやったら信じて貰えるか悩んでいると、黙って話を聴いていた赤紙の女性が話に加わってくる。
「経緯は私が説明致しましょう。我々も最初は味方だった筈の貴族の所に身を隠そうとしておりましたが、実はマクレーン卿と裏で繋がっていたのです。捕まる寸前の所を命からがら中立国であるこのシュリオンへ逃げてきました。今後、我々と懇意にしている国に渡るにしても、他国を迂回していくより自国を通る方が確実に速い。なので国を取り戻す為には、このシュリオンで自国を無事に渡りきるだけの力を手に入れなければならないと言う訳です」
話がデカ過ぎて手に負えない。
確かに大義名分はお姫様にある。ならばもう少しだけ話しを聞いてみてもいいがどうにも乗り気がしない。
「それで強い力が必要って言う訳か」
「そうです。今の私達には他国に助力を求める以外の道は存在しません。今のままでは何も出来ません」
「そりゃ、そうだろう、たった4人だけではな。まぁカレンには俺から伝えておいてやる。けれど彼女が依頼を受けるかどうかは約束出来ないぞ。連絡を入れる場所は此処でいいのか?」
「いえ、ここはもう引き払う予定ですので3日後この紙に書かれている場所で落ち合いましょう」
赤紙の女性から渡された紙には地図が書いてあり、印がつけられていた。
「解った……ここにいけばいいんだな。時間は?」
「時間は夕暮れの鐘がなる時」
「もし当日。カレンが来なくても俺を責めるなよ」
俺はそう告げると彼らのアジトから出て行く。背後を気にしながら歩いていたが、付けられている様子もない。
「ありゃ。駄目だな。「他国に行くとしても」と言ってやがった、行き当たりばったりで国なんて取り戻せる訳がない」
一応は約束なので、カレンには伝えるが後は彼女の判断に任せて、俺はタッチしないと決める。
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宿に帰ってみると、俺が日頃から使っている小屋の前に一人の老人の姿を見つける。老人はスーツを着込み背筋がピンッと伸びていた。彼は俺を見るなり一礼し挨拶を始める。
「お初にお目にかかります。私はジョセフと申します。失礼ですが、コーヘイ様で宜しいでしょうか?」
「まぁ、正確に言えばコウヘイだけど……それでジョセフさんでしたっけ俺に用事でも?」
「失礼しましたコウヘイ様ですね。実は昨日コウヘイ様がお助けになられました。ソフィア様の件で旦那様が是非にお礼がしたいと……。お時間が在るようでしたら、是非私と一緒に来ては頂けないでしょうか?」
どうやら彼はソフィアのお父さんに言われて、俺を連れに来た執事だろう。
ソフィアと言えば、昨日助けたクルクルヘアーの女の子。予想はしていたが、金持ちか偉い人の娘で間違いない様だ。逆にあの偉そうな性格で普通の家の子だとしたら、どんな教育を受けているのか見せて貰いたい。
これは好都合。わらしべ作戦を1段階……いや一気に5段階位は進められそうな予感がする。当然俺は二つ返事でついて行く事を了解した。
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案内された場所は町から少し離れた場所で、宮殿の様に大きな敷地と豪華な建物が並んでいた。執事のジョセフに話を聞くと、ソフィアの父親はシュリオンでもっとも力のある商人の一人だと言う。
「コウヘイ殿。今回はソフィアを助けて頂き、本当にありがとうございます。実は貴方と一緒に【不死身のカレン】様にも使いを出していたのですが、今日は誰にも会いたく無いと断られてしましましてな」
商人と聞いていたので、太っちょのプクプク太ったおっさんをイメージしていたが、実際に会ってみるとお洒落でダンディーな姿をしているナイスガイだった。
「スミスさん。今日は仕方ないと思いますよ。カレンにも色々あるんで」
アイツまだ泣いていたのかよ!? それなりに傷ついているのかと少し心配になる。
「なるほど、あの高名なカレン殿と懇意にされていらっしゃる様で、羨ましい限りですな。ソフィアもすぐに支度が出来ると思いますので、夕食はもう少しお待ち下さい」
「それにしても、ソフィアさんが何故ゴロツキ共に浚われる事になったんですか? 護衛も無しで町に出ていたとか?」
「いえ、護衛は当然付けていました。けれど町に出たとき娘が癇癪を起こしたみたいで、一人で勝手に飛び出したと聞いております。すぐに捜索隊を組織したのですが、何処にも見当たらず。途方にくれていました。妻を早くから亡くしており、私もソフィアを甘やかして育ててしまって……」
親に甘やかされ典型的な我侭娘に育ったという訳だ。
ソフィアが姿を見せないと、食事会は始まらないらしい。父親が商人ならそれなりに情報を持っているだろう。時間つぶしに昼間のお姫様の事を聞いてみる事にする。
「スミスさんに教えて貰いたいんですが、3ヶ月前に隣の国で一騒動在った様ですね」
「あぁ、プリースト国の事ですか、貴族が反乱を起こし国を乗っ取った。国王や女王、そして王女も行方不明と聞いています」
「それで乗っ取った後の国はどうなっていますか?」
「私も知り合いの店舗に商品を降ろしているんですが、かなりの悪政を引いていると聞いています。重い税で国民達も飢えていると……あの国は肥えた広大な土地があるので魅力的では御座いますが、このまま悪政が続けば長くは持たないでしょう」
成程、これは一考の余地が出てきた。スミスさんに貸しを作ったのでスキルを使い居候ハーレムでも良いのだが、これは本当のハーレムも夢では無くなったかもしれない。
もし銀髪の女性が本物だったとして、マリーダ卿とやらが本当の悪党なら、国民達も救って貰いたいと願っているはず。そんな状況下に置いて俺のスキル高い効果を示すに違いない。
まだまだ続く長い人生で人の世話になりヒモ生活を続けるより、やはり自身の力で手に入れた贅沢の方が何倍も良いに決っている
ならば一回で一生分の仕事をやり遂げればいい。疲れるのはこの一回だけ。それならば……。
新しい情報を得て急にやる気が満ちて来ていた。けれどこれは簡単な事業ではない。失敗は一度として許されず。策を巡らせ、完璧な計画を練る必要があるだろう。
そんな事を考えていると、ドレス姿のソフィアが部屋に入ってきた。ペコリと頭を下げて挨拶をしいる。父親の前で猫を被っているのが丸わかりで少し笑えた。
大きなテーブルに俺とスミスさんとソフィアが座り食事会が始まった。出て来る料理は全てが一流で俺が食べた事のない高級食材ばかり使用されている。
舌鼓を打ち、満足気に料理を食べているとスミスさんが話しかけてきた。
「コウヘイ様、2度目になりますがソフィアを助けて頂き有難うございます。これは少しばかりの感謝の気持ちです。どうかお受け取り下さい」
ジョセフさんがお盆の上に袋を載せて持ってきた。多分お金が入っているのだろう。スミスさんが手に取ると重みで袋の重心がグッと下がるのが解る。
「いえ、それは受け取るつもりは御座いません」
「そんな事は言わないで下さい。最愛のソフィアを助けて頂いたお礼を受け取って頂けなければ、私の気が晴れません」
「それならば、一つ俺の話を聞いて貰えませんか?」
「話ですか? 取り敢えず話して下さい。私に出来る事ならお力になりますが……」
「これは互いに利益が出る話しだと思っています……」
覚悟を決めた俺は一大事業のプレゼンテーションを開始する。