第二話 その幼女、化け物につき
「レディ・フェリーノ、何故呼ばれたかは理解しておるか」
判決を待つ被告人のような気分だ。薄暗いドーム状の部屋の中心に立たされ、四方八方から厳しい眼差しを向けられている。周りの連中がこの世界でも指折りの名士であることは気配で察した。問題は何故そんな有力者が寄って集って裁判の真似事のような事をしているか、だ。
「呼び出すのであれば、まず要件を伝えるべきだと思いますが? 私にも都合というものがあるのです」
「女男爵、目上の者に対してそのような口ぶり、許さぬぞ」
許す許さないの問題ではない。むしろ、人を呼びつけておきながら要件を伝えなかった向こうに問題があるのは明らかだ。お偉方の名での呼び出しだったから渋々来てみれば、まるで犯罪者扱いだ。いくら爵位で上だからと言って、ここまでされて黙っているほど牙は抜かれていない。噛みつくなら毒を持つ蛇の口か、それとも強靭な顎を持つ猫の口か、或いはきちんと調理した上で人間の口で頂くか、いずれにしても腹を下しそうなのでその考えは却下だ。
「貴様の都合など知ったことではない。我々の与り知らぬところで奸計を巡らせておることは知っておるわ」
この世界の為を思い、身を粉にして走り回っていると言うのに、それを奸計と断ずるとは極めて心外だ。
この世界は危機に瀕している。それも理解できぬほどの老害に語り掛けるのはわずらわしいが、言わなければ何も変わらないのもまた事実だ。それに、何も間違ったことはしていないという絶対の自信がある。理があるのは此方であり、埃を被った旧世代の遺物共には一ミリたりとも譲るものはない。
「では、改めて申し上げましょう、大公殿下。我々の世界を支える『システム』には重大な欠陥があるのです。羽付き共はそれに気が付き、既に人間界での影響力を強めつつあります。もはや一刻の猶予もない、と以前も構造改革の願いを出したはずです」
ここに集まっている有力者たちならば、その話は耳が痛くなるほど聞いているはずだ。何を隠そうこの三つの口で夜通し説得をした者もいるのだから。
「資源協定がある。あの業突く張り共と言えども人間界で露骨な真似は出来ぬはず。そして何より我々の曽祖父よりも前から確立された世界の理―――貴様はそれを『システム』と呼んでおるようだが、これが崩壊するなど夢物語に等しい。あり得ぬ話だ」
嗚呼、やはりこの者たちにどれだけ訴えたところで何かが変わる余地など微塵もないようだ。既得権益を失う恐怖、支配者としての地位が揺るがされる事への憂慮、そして、自分たちよりも下位の者にその足元を揺るがされる事への嫌悪感、そんなものが入り混じった負の感情がこの場には漂っている。普段ならば心が満たされるような心地よい環境ではあるが、今回ばかりは別の感情の方が強い。
惨めだ。
自分が、ではない。そんな感情にしがみ付かなければならない回りの連中には同情する。今まで積み上げ、守り続けてきた自分たちの根幹に手をつけるような所業は彼らにとって誹謗中傷以上の侮辱に感じられたのだろう。
誰にだって自己を保持する上で守らねばならない最後の拠り所がある。意識的か、無意識かは置いておくにしても、今目の前で立ちはだかっているのはその拠り所を守ろうと言う防衛反応と取ることもできるわけだ。とはいえ、身の破滅を齎す恐れがある『システム』ならば、修正する必要がある。それも「お前が死ぬ」、「私が死ぬ」という小さな問題ではなく、「世界が滅びる」という可能性を秘めた案件なのだ。この警鐘に耳を貸さないというのは恐ろしく面倒くさがりな自殺願望者か、オストリッチ症候群に違いない。穴に頭を突っ込み、見て見ぬふりをするのは勝手だが、それに巻き込まれては堪らない。
世の中には「豚も空を飛ぶかもしれない」なんて言い方もあるらしいが、要はどんな事でも起こり得るのだ。「あり得ない」と決めつけて考えることを止めることは簡単だが、それではこの先生き残れないのは自明の理だ。
それに、多少なりとも郷土愛のような感情は存在する。生まれ育ったこの世界が失われるのは可能であれば避けたい。もちろん、無理ならとっとと安全な場所に逃げるつもりだが、故郷というのはそう簡単に手に入る代物でないのも確かだ。生まれ育った土地には何の価値もない、と言われればそれまでだが、どうせなら残しておきたいものだ。
「貴様が何を考えようとそれは自由だ。だが、今貴様が画策していることは反逆ではないのかね?」
反逆、目の前のくたばりぞこないは言うに事を欠いてその感情を反逆とほざいた。やはり、救いようのない白痴のように思える。周りの連中はといえば、得意げに裁判長を気取る大公の言葉に頷いたり、此方に暴言を吐いたり、いずれにしても支配者がすべき行動ではない。上に立つ者は何時だってそれに相応しい言動を心がけろ、なんて今時最下層の悪魔でも知っていそうなことだろうに。
だが、それを口に出すわけにはいかない。曲がりなりにも相手は上司であり、最高権力を司る者たちだ。喧嘩なら受けて立つのが伝統だが、わざわざ面倒事を引き起こす必要もない。何より、氷漬けにでもされては為すべきこともできなくなる。
「反逆、という表現には異議を申し立てます。私はこれまで、この世界の安定的発展に寄与してきたという自負があります」
「我が眷属たちから仕事を奪うことが発展と申すか!」
傍聴席で誰かが立ち上がり、喚き散らす。
誰だか知らないが、その苦情は今までに数百と受け取っているし、その度に誠心誠意説明もしてきた。今更そんなことで唾をまき散らされても困るというものだ。
「お言葉ですが、現在我々は社会構造変革の時機にあるのです。これを逃せば、もはや羽付き共を相手に戦争をすることもままならなくなる恐れがあります。戦争好きの方々も困るのでは? 私はこの世界の常備軍創設の為、本来眷属がやらなくとも良い仕事を無人化しているまでです。重箱の隅を突き回し、全体を俯瞰できぬ者に支配者としての資格がありましょうか」
おっと、あまりにバカバカしい叫びに本音が漏れてしまった。
案の定、周りがどよめき、罵詈雑言を投げつけてくる者が立ち上がる。しかし、蛇の目と猫の目で睨みつけてやると、面白いようにその言葉が尻すぼみしていく。蛙じゃあるまいし、睨まれた程度で黙るなど、随分と腑抜けたものだ。
(いや、それも致し方のない事か)
何しろ、彼らが最後に血を血で洗う戦争をしたのはどれほど前だろうか。羽付きとの資源協定は、自ら剣を持ち、世界を守る事を誓った名士たちからその爪と牙が何のために在ったのかを忘れさせる遠因となった。今では自分たちで剣を持つことすらせず、人間界での代理戦争に明け暮れる日々は彼らから鋭い眼を奪っていった。
大公が見るに見かねて皆を制し、場を鎮静化させる。どうしたものか、と頭を抱えているのが逆光の向こうにも見て取れる。
「……つまり、態度を改める気はないと?」
「無論です。ご理解いただけるまで、いくらでも説得に参りましょう。この三つ首が捥げようとも、あの『システム』との心中は御免です」
「その呼び名を止めよ!」
ギシリ、と空気が軋む。大公の顔が大きく歪み、赤黒い目が此方を見据える。なんだ、まだ牙は抜かれていないじゃないか。久しく見ていなかった怒りの感情を痛いほどに感じることができたのは喜ばしいことだが、何やら雲行きが怪しい。
「貴様の妄言に付き合うのもこれが最後である。既に我々は結論に至っておる」
はて、その結論に至る議論の過程に関与した記憶がこれっぽっちもないのだが、気のせいだろうか。
警鐘を妄言と吐き捨てた大公は眼鏡をかけて手元の書類に手をかけた。その眼鏡だって、誰のおかげで実現できたと思っているのか。支配者たちが「資源」と言い放ったものから情報を引き出し、この世界でも有益な物を広く普及させるのが私の仕事の一つだ。よもや、これまでの功績では未だ説得力に欠けるというのか。
ならば、もっと、もっと多くの偉勲と地位を手に入れてみせ――――――。
「レディ・フェリーノ。貴様には理の環に落ちてもらろう。そして、二度とこの地には戻れぬと知れ」
「なん、ですって……?」
それは死刑よりも重い罰、本来であればこの世界に害をなした大罪人にのみ適用が認められたものだ。そんなものを爵位を持つ相手に、しかも罪を犯したわけでもない私に適用するというのか。
「爵位と権能を剥奪。世界の理に従い、人間界に転生せよ」
「お、お待ちください。弁明の機会を頂きたい。そうすれば、その結論が早計であることが証明――――――」
「言ったはずだ。既に決した、と。転生までのわずかばかりの時間、悔恨に充てるがよい」
待て待て、納得がいかない。そういう極めて重要な事は事前に知らせておいてもらわねば困る。いや、違う。そもそもなぜその結論に至ったというのだ。世界を救うために言葉を発すれば、それを反逆とするというのか。横暴ここに極まれりだ。そこまで脳に皺が寄ったか、老いぼれ共は。
両脇を屈強な衛士に固められ、異議を申し立てる機会すら与えられず退廷を命じられる。噛みつこうとするが、それは織り込み済みだったようで手際よく荒縄で口を塞がれる。
おい待て、蛇と猫の頭は繊細なんだ。もうちょっと丁寧に扱え。
☆☆☆
女男爵の名を奪われたかつての部下が引きずられるように連行されていく。最後の最後まで、もがき、反論の機会を与えてくれるよう叫んでいた。周りの者はそれを無様と嘲り、笑っていたが、最後の審判を下した大公だけは笑う気にもなれなかった。
優秀な部下だった。いや、優秀すぎると言っても過言ではない。
この世界の今ある姿、それに最も貢献した一人であり、最も敵を作ってしまった三つ首の悪魔。どれほど抵抗したところで、蛇の毒が彼女の敵を殺すことはなく、猫の牙が縄を食いちぎることはない。世界を動かす力はたった一人の悪魔ごときが立ち向かえるものではないのだ。
見世物が終わると、爵位を持った名士たちは今見た光景を忘れぬうちに知らしめようと立ち上がり、この場を後にしていく。誰一人として彼女に同情する者はいない。彼女に敵意を持っていた者はもちろん、彼女と交流があった者も圧力に屈した。
彼女はそれほどの物に喧嘩を売ったのだ。それを自覚することはもはやないだろう。三つ首なのだから耳が六つあるというのに、言われたことを理解できた素振りは一度もなかった。いや、彼女からしたら理解していないのは我々なのだろう。あいつのことだ、今頃相当な悪態をついているだろう。なまじ頭が良いせいで、他の連中が思いつきもしないような罵詈雑言を使っているに違いない。
「……大公殿下」
そこに、書類の束を抱えた小悪魔がやってくる。手に持っていた書類の中から、本件に関する最終的な命令書と合意書を取り出し、大公の前に置く。
手抜かりはないはずだが、と思いながらも念のため一通り読み直し、大公は長く伸びた人差し指の爪で署名する。書類に焼き付くように自らの名を記し、もう一枚の書類にも同じようにサインをしていく。
「羽付き共には手を出させるなよ」
「ハッ、監視のため上級悪魔数名を人間界に派遣致します」
「関係各所への通達も怠るな。間違ってもあいつが再びこの地に舞い戻るようなことは避けねばならん。それと、転生先については手筈通りにな」
そう、これは罰なのだ。
間違っても悠々自適な生活を送られるわけにはいかない。自らの過去の行いを顧み、反省し、悔い改めるようでなければ罰の意味がないのだ。あそこまで芯が強い者に反省を促すのに生半可なやり方が通用しない事は分かり切っている。だから限界まで精神を摩耗させ、どうしようもなくなり、彼女の方から助けを求めるくらいの罰が必要だった。
幸い、人間界は絶賛「刈り入れ時」だ。しばらくはあの者がゆっくり穏やかな生活を送るなんてことはあり得ない。それ以降も、力を失った相手であればいくらでもやり様はある。
しかし、あれほど優秀な部下を廃人にするのももったいない話だ。
いかに敵が多いとはいえ、しっかりとした後ろ盾を確保し、ぐうの音も出ない正規の手続きに従って彼女は「為すべきこと」を実行した。このご時世、その行動力は抜きんでており、たとえ上位の者が反対しようと何のその、三つ首で前と左右から説得されれば否でも応でも首を縦に振りたくなる心情は理解できる。あれは実際にされた者にしか分からない恐ろしさがある。
それに、彼女自身が言っていたように、これまでに彼女がこの世界に齎した数々の新技術、概念、価値観は事実として世界の発展に繋がっている。それを否定する者はおそらくいないだろう。
(この眼鏡とやらも、人間界の物であったな)
人間よりも高次の存在だと鼻を高くしておきながら、その実技術や文化では大きく水をあけられているのが現実だった。力があったからこそ、上を目指そうという意識が希薄で、それが長い停滞を招き寄せる結果となった。そこに一石を投じたのが他でもないレディ・フェリーノ、彼女であった。
原料を精製し、純度の高い燃料に仕上げる工程が改善されたことにより、一体どれだけの悪魔が最底辺の労働から解放されただろうか。朝から晩まで続く攪拌の仕事は無人化され、管理者や保守点検の者を除けば作業工程に割かれる人員はゼロになった。そして、より知識と経験が求められる別の仕事に労働力を割り当てることができるようになった。
他にも、事務的な仕事はその多くが無人化の一途をたどった。この世界の様相も様変わりして、ある意味では住みやすく、別の意味では住みにくくなった。いつの世も革新には抵抗が付き物、彼女は自らの正しさを過信するあまり、それに考えが至らなかったのだろう。今回の一件は、そんな敵意にとっては降って湧いた朗報だったに違いない。
「これでしばらくはここも静かになるといいが」
その分、人間界が騒がしくなられても困る。今回の一件に対する処罰が果たして適切だったのか、大公は自分のサインを見つめながらも確たる自信を持てずにいた。
「死」が単なる通過点に過ぎないこの世界では大罪人と言えどもそう簡単に殺せない。むしろ、殺してしまっては罰にならないという考えの方が主流だ。だからこそ、力を奪い、人間界への島流しに決したわけであるが、この決断がどう転ぶか、いや、どちらに転んだとしても碌なことにならない、そんな気もする。
(羽付きに奪われては困るし、戻られても困る。かといって人間界でのんびりされても困る。これほど扱いに困る大罪人がこれまでいただろうか)
いっそのこと、辺境の地に彼女専用の牢獄を作り、永遠に閉じ込めてしまった方が良かったかもしれない。けれど、相手は爵位を持つ悪魔だ。当然、彼女を慕う部下がいる。この世界に留め置けば、必ずや彼らが動く。この世界にいないからこそ、彼らは拠り所を失い、彼らにとって理不尽ともいえる理由で追放されたといっても助けに行くこともできない。あとは時間をかけてゆっくりと、じっくりと、新たな主が誰であるかを教え込めばいい。
とはいえ、もはや終わったことだ。書類にサインもした。これ以上この件で何かが動く様な事はないし、認めもしない。
全ては決した。
レディ・フェリーノは反逆罪で追放。
今日の議事録には短くそう書かれる事だろう。
☆☆☆
気が付けば、赤黒い空ではなく、灰色の空が頭上に広がっていた。人間界というのは青い空に白い雲が漂うそれなりに美しい世界だと聞いていたが、そんなこともないようだ。
誰かが私を見下ろしている。
人間だ。いや、それは分かっている。ボロボロの服に泥だらけの顔、これは血だろうか。周りには似たような恰好をした男たちが慌ただしく走り回っている。おかしい、私の知る人間界はもうちょっとマシな文明レベルの建物に住んでいたように思うが、なぜか狭い視界に映るのはテントばかりだ。それに、男たちは皆武器を携えている。
よし、分かった。冷静になろう。私は故郷を追放された。そして人間界に転生させられた。と言うことは人間の母親から今まさに生まれたといったところか。この息苦しさにも似た不愉快な気分は生まれたての証か。なるほど、これまでに人間界に追放された大罪人たちも同じ気分を味わってきたのか。
まったくもって不愉快極まりない。人を資源ごみのようにリサイクルしてくれやがった。おまけにこんな貧弱な体を与えてくれたと言うのだから、嬉しさに感極まって殴り込みに行きたくなる。
「衛生兵。どうしたのだ、その子は」
視界に新たな人影が現れた。
随分立派な口ひげを生やした男は今まさに私を抱きかかえている男―――衛生兵といったか、彼と私を交互に見ながら状況の説明を求めている。
「ハッ、先ほどの戦闘に巻き込まれたご婦人の、お子さんです。その、敵国の者とは言え、放っておけず……」
なるほど、今ので大筋の状況が理解できた。さすが軍人、分かりやすい説明をどうもありがとう。
薄々気がついてはいたが、ここは戦場のすぐ近くだ。一般人を巻き込んだ戦闘ということは、市街戦でもしたのかもしれない。その戦闘のさ中、私を身籠った女を敵国の兵士が匿ったか、助けたかしたのだ。
ということはすぐ近くにわざわざ悪魔の子を孕み、生んでくれた運の悪い女がいるはずだが。
「もしや、そこのご婦人が……」
む、なぜ見せない。おそらく私の背後にその女がいるのだろう。一応、何の義理もないが礼の一つくらいは言っておかねばならないのだが、衛生兵は私を少し汚れた白いタオルで包んで視界を閉ざしてしまう。
まあ、口ごもった今の態度で大方の見当はついたが。
何にせよ、面倒なことになったのは確かだ。しかし、やるべきことは明白だ。
あの世界の蛆虫共をこの足で踏み潰さなければ気が収まらない。正しいことを正しいと言えない世界なんて、クソくらえだ。そのためにはまず、この体と世界の事を良く知らねばなるまい。何しろ、人間界はこれが初めてだ。仕事でだって来たくないと思っていた場所の一つだったが、これからはそうも言っていられない。
ならば、折角だ。この世界のやり方で、この世界の正規な手続きに従い、誰もが文句を言わない方法でやってやるとしよう。
この世界に地獄を作ってやる。泣いて許しを請うても、決して抜け出すことの出来ない地獄を作り上げてやる。あの世界が救われる事を拒絶するなら、他の世界だけでも救って見せよう。その時になって助けを求めても、私が縋りつくその手首を斬り落としてやる。
嗚呼、その時が待ち遠しい。
絶望に染まった顔を見るのは、いつの時代、どこの世界でも共通の娯楽となりえよう。
総員傾注せよ。
今後後書きは補足説明の場とさせてもらう。
如何せん、アクレイギアの花言葉を送りたくなる駄作者だ。その都度、注釈を入れたいくらいであるが、話が停滞することは私の望むところではない。
故に、この場を借りることにしたわけである。
そうは言っても、毎度毎度説明を入れる気はない。そもそも、何故私があの虚け者の尻拭いをせねばならぬのか、小一時間問い詰めたいところだ。神なんぞいないことは今時犬畜生でも知っていることだが、世界の支配者を気取る輩ならどこにでもいるということか。まったく、忌々しい限りである。
…気を取り直して。
今回の補足は唯一つだ。よかったな、足りないお頭でも分かるよう簡潔に説明してやろう。
この物語は、あの魯鈍漢共の首を跳ねて地面に並べ、片端から顔面を蹴りつけるまで続くということだ。