Chapter1-9:嘘
訓練場を出て俺は城の中を通っていた。
心の中では怒りが渦巻いていた。
俺はあの時、生まれて始めて人を殺したいと思った。
それほどに、アルスの発言は許せなかった。
「ルーク?」
廊下を歩いていると後ろから声がかかった。
昨日出合ったばかりなのに聞き慣れた感じがする声だった。
俺は後ろを振り向き声の主に顔を向けた。
「ナターシャ」
「ルークどうしたの?凄い怒ってる顔してる」
「いや、なんでもないよ。それより何してるの?」
「部屋から出たら皆が居なくなってたから、探してたの」
「そうなんだ。皆は訓練場とかいう場所にいるよ」
「そう。ルーク、あなたはどこへ行くの?」
「トイレだよ。すぐに俺も戻るから先に行ってたら?」
「分かったわ。トイレの場所は分かる?」
「あぁ。ちゃんと分かるよ」
「そう。じゃあ、また後でね」
「うん、また後で」
俺の返事を聞くとナターシャは訓練場へと歩いていった。
俺は城の出口へと向かって再び歩き始めた。
相変わらず広くて出口までは大分時間がかかったが辿り着けた。
俺はそのまま振り向きもせず城をあとにした。
「ナターシャごめん。嘘ついて・・・」
門をくぐる時、俺はそう呟いた。
家に着いた時はまた夜が明けて朝になっていた。
つまり、俺は2日まるまる眠らないで過ごしている。
食べる事に至っては丸4日、遠ざかっている。
でも、なぜか空腹も眠気もまったく感じなかった。
感じるのは異常なまでの怒りだった。
「畜生・・・」
一体、俺が何をしたっていうんだ?
俺はナターシャを助けたんだ。
それを、どうしてあんな風に疑われなきゃならないんだ。
仕事上、俺を疑うのはしょうがない事かもしれない。
でも、あいつの言い方は許せない。
「両親を殺されたからというのは証拠になりません」
アルスの言った言葉が脳裏に浮かび上がる。
抑えきれないほどの怒りにさらに拍車がかかる。
「畜生・・・。畜生・・・」
俺は部屋の中で長い間、そう呟いた。
第1章がやっと終わります。
次からは第2章の始まりです。
予想では第1章の倍の長さになりそうな気がします。
あくまでも予想ですが・・・。
とにかく、よろしくお願いします♪