Chapter1-8:疑い
「白い炎」
俺より3倍の速さで動いているアルスが魔法を放った。
俺はそれを避けようと右に動いたが体がついてこなかった。
「くっ・・・」
あれ?くらったけど別にそこまできつくない。
炎のくせに熱さも余り感じないし、これなら動ける。
とにかく、距離を詰めて攻撃しよう。
「あれ?」
俺は勢い良く動き出そうとしたがさっきよりも体はついてこなかった。
空腹とか疲れとかの問題じゃないぐらいに体が重い。
「どうですか?これが白い炎の力。」
「身体能力を下げる技って事か」
「そういうことです」
「ちっ」
お腹がすいてなきゃ余裕で避けられたのに。
それにしても、厄介な技だ。
これじゃ、他の攻撃も避けられない。
「降参しますか?もう結果は見えていますよ」
「・・・・・」
降参しても構わないがなんだか悔しい。
こういう闘いじゃほとんど負けたことがないのに。
「アルスよ。はやく止めをさすんだ。このさい命をうばってしまってもよいぞ」
あの糞王。いちいち変なこと言うんじゃねぇよ。
「さぁ、どうします?あと3秒だけ待ちますよ」
「3秒もいらねぇよ。生憎、逃げたりするのは好きじゃないから」
嘘だけど。
「そうですか。それでは、いかせて貰います。後悔しないでくださいね」
「お前こそ後悔するなよ」
「面白い事を言うんですね。それなら、上級魔法で相手をしましょう」
「・・・・・・。え?」
「待ったなんてなしですよ。もう止めるつもりはないですから」
上級魔法って。そんなのありかよ。
こんな所で使うなよ。本気で俺を殺す気じゃん。
っていうか、何で使えるんだよ。
「裁きの雷」
言葉と共に俺の真上から俺めがけて大きな雷が落ちてきた。
魔法をかけられてほとんど動けない俺には避けるのは無理だ。
俺は半ば命すらも諦めて目を閉じた。
その瞬間、激しい音が訓練場全体に響き渡った。
でも、俺の体自体には何の痛みもなかった。
「あれ、はずれたのか?」
俺はそんな事を呟きながら恐る恐る目を開いてみた。
俺の足元の床は落ちた雷のせいで大きな穴が開いている。
穴の周りはもう元がなんだったのか分からないぐらい焦げている。
なんていうか、命拾いしたみたい。
「わざと外しました。狙ったら死んじゃいますから」
そんなの最初から使うなよ・・・。
「でも、これで分かったんじゃないですか?」
「え?」
「私と君の実力の差のことです」
「・・・・・」
「私はこれでもアルレイン四聖の1人ですから」
アルレイン四聖・・・。
どうりで、こんなに強い魔法を使えるわけか。
俺みたいな田舎者でもその言葉は聞いたことあるからな。
「で、結局は自慢がしたいだけなの?」
「いえ、そういう訳ではありません。ただ、私はあなたに早めにこの城を去ってもらいたいのです」
「・・・・・・・」
こいつも王様同様に俺を嫌ってるわけね。
「言っておきますが、あなたが嫌いだとかそういう訳ではありません」
「・・・・・」
「私はあなたを疑っているのです」
「え?俺を疑ってる?」
「はい。私はあなたがナターシャ様を襲った一味と関係があるのではないかと思っています」
「何言ってるんだ。俺はナターシャをここまで送り届けたんだぞ」
「ここへ侵入する為にナターシャ様を助けてのかもしれません」
「でも、俺はたまたま逃げてきたナターシャの依頼を受けただけだ」
「本当にたまたまなのでしょうか?」
「え?」
「調査の結果ではあなたが1人で営んでいるなんでも屋は始めて2ヶ月らしいですね」
「それが、どうかしたのか?」
「実はシナリオだったんじゃないでしょうか?」
「シナリオ。何、訳の分からない事を言ってるんだ?」
「お嬢様を誘拐しわざと逃げ出せるようにし、逃げ出したら誘導するかのようにあなたの店へ導きあなたがお嬢様を助ける」
「俺は相手の一味とも戦ったんだぞ」
「それは演技にすぎないのでは?敵がまったく追ってこないというのもおかしな話ですし」
「あんた、本気でそう思ってるのかよ」
「本気でないとこんないい加減なことは言いませんよ」
「仮に俺が敵だとして侵入して何の利益があるんだよ?」
「そんなの分かりませんよ。なぜなら、利益になしそうなことはたくさんあるのですから」
「・・・・・・・・・」
「だから、私は一刻も早くあなたにこの場所を去っていただきたい」
「・・・・・・・。あんた、ナターシャを誘拐したのが誰だか分かってるのか?」
「勿論です。ヴィシュラート一族です」
「俺の両親はヴィシュラートの乱で犠牲になったんだ。そんな俺がどうしてあいつらの仲間になるんだ?」
「人間、何があるかなんて分かりません。両親を殺されたからというのは証拠にはなりません」
「・・・・・・・。分かったよ」
「分かってくれましたか」
「あぁ、あんたの望み通りここを出て行くよ。居たくもないしな」
俺はそう言うと、訓練場の入り口へ向かって歩き始めた。
帰ることになったら聞こえてくるだろうと思った王様の罵声も今はなかった。
それほどに、この場の空気は重いのだろう・・・。
こんなところ来るべきじゃなかった・・・。