Chapter1-2:出発
俺はナターシャを待たせ急いで準備を整えた。
といっても、服を着替え数少ない荷物も揃えるだけだ。
10分あれば終わってしまう。
「ナターシャさん、お待たせしました」
「あら、早いのね」
「えぇ、特に荷物はないですし」
「そぅ。それより私、あなたの名前を聞いてないわ」
「あれ、そうでしたっけ?」
「えぇ」
そういえば言ってなかった気もする。
「俺の名前はルーク。ルーク・レイフッド」
「ルークって呼んでもいいのかしら?」
「何と呼んでもらっても構いませんよ」
「じゃあルークって呼ばせてもらうわね。あと、私のことはナターシャでいいわ」
「でも・・・」
「いいの。さん付けで呼ばれると少し変な感じがするの」
「分かりました。ナターシャと呼ばせてもらいます」
「あと、敬語もやめてもらえる?」
「はぁ・・・。まぁ、構いませんが」
「じゃあ、お願い」
「分かりまし、じゃなくて分かった」
「ありがとう」
王女様を呼び捨て、しかも敬語を使わないで良いとは。
なんとなくいきなり身分が高くなった気持ちになるな。
「じゃあ、そろそろ行こうか。敵さんが来る前に」
「そうね」
俺達はなんでも屋を出てまずは周りを見渡した。
ナターシャの話では敵さんはナターシャの逃走に気付いてるらしいからな。
用心することに越したことはないわけだ。
「そういえば、ナターシャが捕らえられてた場所はここからどのくらいなの?」
「おそらく3kmぐらいしか離れていない場所よ」
「そこから、ここまでは走ってきたの?」
「いいえ、瞬間移動を使ったの」
瞬間移動。
自分が1度行った場所があるところに一瞬で移動する魔法。
単純な魔法に見えて以外にそうではなく中級魔法とされている魔法だ。
「へぇ。っていうかそれは使えば簡単に戻れるじゃん」
「それは無理なの。私の魔力じゃ範囲は5km以内になっちゃうのよ」
「じゃあ、それを何度も繰り返せば」
「そんなに多くの魔力を持ち合わせてはいないの」
「そうなんだ。てっきり中級魔法が使えるから魔力も高いと思ってたけど」
「この魔法は中級魔法の中では簡単な方だから」
「そうなんだ。でも凄いな、中級魔法覚えてるなんて」
「あなたは覚えてないの?」
「うん。俺が持ってるのは初級魔法ばかり」
「以外ね。なんでも屋をやってるから結構強いんだと思ってたけど」
「育ったところが孤児院だったからさ。なかなか、魔法石が手に入らないんだ」
魔法石。
いわゆる、忍者が術を覚える時に使う巻物的な存在の石だ。
石の一つ一つに魔法の力が篭っていてそれを引き出して自分の力に出来る。
もちろん、術者の能力しだいでは引き出せないものもある。
上級魔法にいたっては身につけることのできる人のほうが少ないだろう。
ちなみに俺は今まで初級魔法のしか見たことがない。
「そうなの。今はどれぐらいの魔法を使えるの?」
「5つ。戦闘に役に立つのは3つほどだけど。ナターシャは」
「私はさっきのを含めて8つ。残りは全部初級魔法だけど」
「へぇ。2人で13個か。敵に遭遇してもなんとかなりそうだね」
「そうかもしれないわね」
「よし、自分達の力も確認したところで今度こそ出発しようか」
「えぇ」
「じゃあ、まずはこれ。神速」
これで普段の5倍ほどのスピードで走れるだろう。
「じゃあ、行こうナターシャ」
「えぇ」
俺達はナターシャの返事を合図に走り出した。
思い切りではないが魔法のおかげで大分早く走れる。
敵に遭遇さえしなければ明日の昼頃にはつくだろう。
まぁ、人生そんなに甘くいくものじゃないだろうけど。