Chapter2-5:再会
城の中をエレインの後に続き、歩いていると、ほとんどの人間が俺を見て驚いていた。
ったく、俺は見世物ではないというのに・・・。
「エレイン、俺やっぱり帰っていいかな?」
「駄目です。ナターシャ様に会ってもらいます」
「だよね・・・。はぁ・・・」
「皆の視線が気になるのですか?」
「そんなところ」
「心を無にすればいいんですよ」
「なるほど」
出来たらやってる・・・。
「到着しましたよ。心の準備は出来ていますか?」
「出来てないって言ったら帰れるの?」
「ルークさんは拷問か何かを望んでいるのですか?」
「ごめんなさい」
なんか、いきなり怖くなってるんだけど・・・。
「それで、心の準備の方はよろしいでしょうか?」
「あ、うん。一応、大丈夫」
「分かりました」
そう言うと、エレインはナターシャの部屋のドアをノックする。
ノックから3秒ほどして小さな声が帰ってきた。
「何ですか?」
「ナターシャ様。エレインですがお客様をお連れしました」
「お客様?そんな話は聞いてないわ」
「突然の訪問だったためお伝えする事ができませんでした」
別に訪問したわけじゃないけど・・・。
あれって誘拐とよんだ方が正しい気がするし。
「今は誰にも会いたくないわ」
「そんなこと言わずに、一目見るだけでもいいので」
「・・・。着替えるから少し待ってもらえる?」
「分かりました」
ナターシャに対してそう返事するとエレインは俺のほうを向いた。
そして、小さい声で俺に話しかけた。
「ルークさんと別れてから3週間、この調子です」
「あんまり信じられないな。俺みたいな奴と別れたぐらいでそんな風になるなんて」
「実際なっているのです。でも、これで元に戻ってくれるでしょう」
「そうかなぁ?」
「そうです。ナターシャ様はルークさんの事をとても気に入られてますから」
「そうなんだ」
「えぇ、とても気に入られてます」
なんか、さっきから「とても」って所を強調してる気がするけど・・・。
きっと気のせいだよな。
「今、開けるわ」
突然、ドアの反対側からそんな声が聞こえた。
どうやら、ナターシャの準備が終わったようだ。
ガチャ
そんな音がしてドアが開く。
ドアを挟んで反対側には3週間前より大分やつれたナターシャがいた。
ナターシャは最初、元気のない顔をしていたが俺に気付くと驚いた顔になりそれから目に涙を浮かべた。
「ルーク」
ナターシャは俺の名前を呼ぶと俺の胸に飛び込んできた。
俺は突然の出来事で何も出来ずただ驚いていた。
「ルーク、ルーク・・・」
俺の胸の中でナターシャは何度も俺の名前を呼んでいた。
俺は恥ずかしかったけど、止めることも出来ずその言葉を聞いていた。
「ナターシャ様、ルークさんもお困りです。1度話したらどうでしょうか?」
3分ほどそのままだっただろうか。
ずっと側にいたエレインがそう提案してくれた。
少しばかり遅いが、触れないでおこう。
「分かったわ。ごめんなさい、ルーク」
「いや、別に気にしてないよ」
やっとのことで俺から離れた離れたナターシャは涙で顔をくしゃくしゃにしていた。
初めて会った時のイメージからは随分かけ離れている。
それが、面白かったのかは分からないけど俺は笑った。
「どうしたの?突然、笑って」
まだ少しの涙を浮かべながらナターシャはそう聞いてきた。
「なんていうか、ナターシャの顔が面白くて」
俺の言葉にナターシャは顔を赤くして両手で顔を覆った。
う〜ん。そこまでされるほど、変なことは言ってないけど。
「ルークさん。それはナターシャ様の顔を馬鹿にしているのですか?」
「は?」
「もしも、そうなら残念ですがあなたには死んでもらいます」
「いやいや、違うから。なんとなくそう思っただけだって」
「本当ですか?」
「本当。馬鹿になんかしてないって」
「それならいいのですが」
ふぅ。たった1つの発言で命の危険に晒されようとは。
もう訳が分からないところまできてしまっている。
「それより、これからおふたりはどうするのですか?」
エレインがいう2人というのは当たり前だが俺とナターシャの事だ。
「どうするって言われてもなぁ」
「ルーク。私と少し話さない?いろいろ話したいことがあるの」
「分かった。俺はそれでいいよ」
「ありがとう」
「じゃあ、私はこれで失礼します。その前に最後にナターシャ様に伝えておく事があります」
「何かしら?」
「さきほどシェイン様がこちらへいらっしゃいました」
「シェインが?どうしたのかしら?」
「いつも通りナターシャ様に会いに来たのでしょう」
エレインの言葉を聞いてナターシャはちらっとこっちに視線を向けた。
俺は何の事だか分からなかったので気のせいだと思うことにした。
「今はどこにいるの?」
「今は王様に挨拶に行っています。後々、ナターシャ様の部屋におこしになると思います」
「そう。ありがとう、エレイン」
「いいえ。それでは、失礼します」
エレインはそう言うと歩いてきた廊下を戻っていった。
俺とナターシャの間には言葉がなくなり少し気まずい空気が流れた。
俺はどうにかしようと思い、なんとか話題を見つけた。
「ナターシャはシェインと仲がいいの?」
許婚になってるぐらいなのだろうから、良いだろうと思いながらも聞いてみた。
「え、ルークはシェインの事を知ってるの」
「一応ね。シェインに無理矢理ここに連れてこられたからさ」
「そう。仲は良い方だと思うわ。同じ年頃の友達って少ないから」
「そういえばシェインもそんなこと言ってたな」
「そんな事も聞いたの?」
「うん。多分、結構いろんなこと聞かされたと思う」
「そう。あの、えっと・・・。許婚のことも聞いたの?」
「聞いたよ。なんか嬉しそうに話してたよ」
「そう・・・」
「どうかしたの?ナターシャ」
「なんでもないわ。ルーク、許婚のこと聞いてどう思ったの?」
「どう思ったって言われても。まぁ、シェインだったら結婚しても悪くはないんじゃない?いい奴だと思うし」
「そっか・・・」
「ナターシャ、やっぱりどうかしてない?」
「大丈夫よ。それより、ルーク部屋に入りましょう。立ち話は疲れちゃうわ」
「それもそうだね」
俺はそう返事するとナターシャに続いて部屋に入った。