森で出会った赤毛の少女
目が覚めたとき、僕の目の前には緑が広がっていました。
神様に感動されて異世界転生の権利を得て晴れて新たな人生となった僕ですが。
「どこですかここ・・・・?」
早くも迷子です。
神様、贅沢はいいませんのでせめて道とか人の形跡がある場所に送ってくださいよ。どう見たってここ樹林ですよね。それも人里から遥かに離れて居そうな。
なんで寄りにもよってこんな場所に、しかも僕は食料は勿論のこと武器の類も持っていない、こんな場所で野生の獣にでも襲われたらどうなることか。
「はぁ~。とりあえず、人の形跡でも探そうかな。道でもあれば御の字だよね。」
こんな鬱葱とした深い森で人に会えると思うほど僕もお気楽思考ではない。
それにここであっけなく死んだらさすがに神様ももう一度転生とかはしてはくれないだろう。
死んだらっていえばあの神様簡単には死ななないように加護を与えるって言ってような。
「加護かぁ、魔法の存在する世界って言ってたし、ファンタジー的に考えれば能力とかかな。でもどうやって使ったらいいんだろう。こう手に意識を集中してなんか出す感じかな。」
こうして手に意識を集中させていると昔子供の頃にカメハメ波の練習をしていたときを思い出す。結衣と一緒に手を前に突き出して「か~め~は~め~はぁー!」とかやってたなぁ~。
「か~め~は~め~はぁー!」
しかし、何も起こらない。
いや、ポケモンのコイキングじゃないんだから。そんな「はねる」みたいなこと言っても仕方ないでしょうに。
「う~ん、使い方的なものがあるのだとするとやっぱり人に会って教わるしかないのかな。能力の使い方とか魔法の使い方を。もしも呪文とか詠唱の類が必要ならどのみち今は使えないよね。」
ますます、ギャラドスに進化する前のコイキングの心境だ。
僕だってファンタジーの世界に来た以上魔法の一つでも早く使ってみたい。火でも水でもいいから出ればいいのに。
夢中になってやみくもに手をつきだす。
あれ?なんか心なしか息苦しいような。
一瞬、僕は呼吸ができなくなったように感じた。しかし、ものの数秒で元に戻り不通に息ができるようになっていた。
「・・・まさか、今のが僕の能力とかじゃないよね。一瞬呼吸困難になる能力とかかなり使い道が限られるよ。なんというか地味だし。」
というか僕今自分の能力で窒息しかけたのかいろんな意味でショックだな。
まぁいいや、やみくもに使ったって所謂魔力的なものが枯渇するだけだろうしやっぱり早いところ人と接触しよう。話はそれからだ。
地味だったとはいえ人生初の魔法成功に僕は少なからずテンションが上がっていた。
1時間後
「森から出れねぇええ!!!」
その結果、森の中を無駄にうろつく羽目になった体力的にもきついが方向がわからず。複雑に入り組んだ木々をよけながら歩くためまっずぐ進んでいるかどうかも怪しい。正しい方向に進んでいるかわからないのは精神的にもくるものがある。
「あ~どうしようかな。せめて泉でもあればいいのに。」
歩き続けて喉が渇いた。水が飲みたい、果実でも水分は摂取できるかもしれないけどこの辺りの木々は果実をつけていないようだ。仮に何らかの果実があったとしてもそれが地球と同じものとは限らない、適当に食べて毒に出も当たったら大変だ。そういう意味だと儚い希望すら抱かせないというのはありがたいのかな。
「もうだめだ~歩けない。万年文化部の僕にこの長時間の徒歩はキツイ。」
適当な木の根を見つけてそこに腰掛ける。
異世界転生で舞い上がっていたけど前途多難なスタートだ。
おっ!この森じっとしてると風が心地いいな。
およそ10分ほど木の根に腰掛けて森林の涼しい風の心地よさを堪能していると。
「きゃあああああ!!!」
静かな森に不釣り合いな少女の悲鳴が聞こえた。声の大きさから言ってそんな遠くはない、人に会えると思ったが冷静に考えたらその少女は悲鳴を上げているということはそれに相対する状況に置かれていることになる。
「でもどのみち、ほっとくわけにもいかないよな。」
僕は素早く立ち上がって少女の悲鳴を頼りに走り出す。
ーーーーーーーーーー
どうして・・・・。
なぜ、私がこんなことになっているの。
簡単な採取クエストだった、森に入って指定の薬草を採取するだけの報酬も低く難易度も低い駆け出し冒険者にふさわしいクエストのはずだった。
なのに今私は5体のオークに囲まれている。
オークは猪の顔をした魔物であり危険度が高いわけでもないが、私は先日冒険者になったばかりの身でゴブリンとの戦闘経験すらない、そんな私がオークの群れに囲まれたらなすすべなんてない。
オークたちは片手に松明を持ち、片手にはさび付いた鉄の剣を握って私を大木へと追い詰めている。オークたちは男の冒険者は殺した後持ち物を持っていく習性があるためあの装備もその一つなのだろう。
そして女性冒険者は気絶させて捕まえた後子孫を残すために孕ませる。
目の前の悪臭を漂わせる醜悪な魔物に私は思わず悲鳴を上げた。
「きゃあああああ!!!」
こんなところに誰かいるわけがない。私は薬草が思ったように見つからずかなり森の深いところまで入ってしまっていたからだ。
でもだからと言って悲鳴を上げずにはいられなかった。こんなところで死にたくない。こんな連中に初めてを奪われるなんて絶対に嫌だ。
しかし、私の悲鳴に誰かが駆けつけけることはなく、私の両手はオークによって押さえつけられてしまった。
もうここまでなんだ。私は現実から目を背けるように目を閉じた。
「うおおお!お前らその子を離せぇえええ!!!」
突然、横から男の子の大声が聞こえ私は反射的に目を開き、目の前の光景にあっけにとられた。
ーーーーーーーーーー
・・・なんか、すごいところに出くわしちゃったな。あれってたぶんオークだよな、RPGとかで出てくる雑魚敵の、となるとあの女の子は今からそういうことされるんだよな。
オークは赤毛の後ろに三つ編みを下げた少女の全身を舐めるように見ている。
これは見てみたい気もするが助けないと、とりあえず問題はあの子を押えてるオークだな。僕のさっきの能力が相手を窒息させる能力だと仮定して有効範囲がわからないとあの子を巻き込みかねない。オークがあの子を人質に取ることも考えられる。
よし、オークををまずは離れさせよう。
「うおおお!お前らその子を離せぇえええ!!!」
一気に駆け出して、オークの顔面に横から飛び蹴りを入れる。
いやぁ、健康体っていいよね。前世の僕はリンチの後遺症で激しい運動はやめろって言われてたけど、今の体にはそんな制約ないわけだから思い切り暴れられる。大体僕って昔は活発な方だったんだよね。体動かすの嫌いじゃなかったし。
「グガアアア!!!」
目の前の女の子しか見えていなかったのか予期せぬ飛び蹴りをもろに食らったオークは数Ⅿほど吹っ飛んだ。
しかし、雑魚的とはいえそこは魔物。貧弱な僕の蹴りでは大したダメージを受けた様子はなくすぐさま起き上がる。
だが、距離は稼げた。
「あの・・・君は・・・・?」
オークから解放された少女が不思議そうに僕を見上げる。遠くから見ても思ったけどこの子すごくかわいい文句なしの美少女といえる。しかも僕より年上っぽい。
まぁ自己紹介は後にしないと、僕だってオークを倒せる自信がない。なにせ能力が窒息しかけるだけだから。
「話はあとで、とりあえずあいつらの注意を引き付けるから君は逃げて。」
だがオークどもの注意を引き付けることはできる。そのすきにこの子が逃げてくれればあとは僕が逃げるだけのこと。
これでもかけっこには自信がある持久力がないけど。
まぁ何はともあれ。
「なんかよくわからない能力ぅーーー!!!」
オークに片手を向けてさっきみたいに意識を集中させる。
ボォンッ!!!!
すると太鼓を強くしたような爆発音と共に1体のオークの持っている松明が爆発した。
「はれ?」
おー今何が起こった。僕の目にはオークの松明が爆発したように見えたぞ。
爆発に巻き込まれたオークは上半身が吹き飛んでるし。
なんかすごいけど、なにこれ?僕の能力って窒息しかける能力じゃないの。
「グルアアアア!!!」
呆気にとられる僕に向かってオークの一体が剣を掲げて走ってくる。
「えいっ。」
ボォンッ!!!!
先ほどと同じことをすると再び強い爆発音と共にオークの松明が爆発し上半身が吹き飛ぶ、勢いのままオークの下半身は僕の横をすり抜けて倒れこむ。
そして擦れ違いざまにオークの体がわずかに濡れていることに気が付いた。
「そうか、水素爆鳴気だ。」
さっきの特徴的な爆発音に聞き覚えがあると思ったら水の電気分解の実験でやった水素の爆発音とよく似ているのだ。そしてオークの体が濡れているのは空気中の酸素と反応して水が生成されたから。
そうか、僕がさっき窒息しかけたのは周囲に水素を大量に発生させ過ぎたからだ。水素は空気よりも比重が軽いから溜まることなく上昇する、だから息苦しさを感じたのは一瞬だったんだ。
「いける!この能力なら!」
続けざまにオークの松明を爆発させていく、瞬く間に5体のオークの下半身が地面に転がる。
「うおお!とりあえず勝った!」
初めての戦闘の勝利は本当にうれしかった。
「・・・すごい、こんな魔法初めてみた。」
やばい、後ろの女の子の存在を一瞬忘れてた。とりあえず怪我はないみたいだな、逃げなかったから足でも切られてたのかと思ったら見とれてただけっぽいな。
「えっとぉ、その大丈夫?」
しかし、僕より年上とはいえ18かそこらの少女がオークに襲われたのだ。精神的なショックもあるだろう。出来るだけ怖がらせないように注意しながら話かける。
「あ、その、ありがとうございました。」
「あ、うん、まぁどういたしまして。」
結衣以外の女子と話したのはほぼ1年ぶりだ。そしてその相手はかなりの美少女だ。これは緊張する。
「私、フレメア・ヴァルフェルノって言います。どこの高名な冒険者の方かは存じませんか本当にありがとうございました。」
改めてフレメアと名乗った少女は深々とお辞儀する。せっかくだしこの子に街まで案内してもらいたいがさてどうしよう、高名な冒険者だと思っているみたいだけどこれは否定した方がいいよなもしもギルド的な場所があったら確認されて終わりだし、となると・・・。
「えっと僕は下顎学って言います。それでフレメアさん僕いま道に迷っていてもしよかったら近くの町までの道を教えていただけますか?」
「マナブ様ですね。はい喜んでご案内します。」
特に怪しんだ様子はなさそうかな。呼ばれた時に自然に反応するために本名名乗ったけど問題ないだろうし。
フレメアの先導の元わずか30分ほどで僕は森を抜けることができた。やはり真っ直ぐ進めていなかったのだろう。
そして、森を抜けてすぐ目の前に壁に囲まれた町のようなものが見えた。
「あれが私の住んでいる「ラムゼーの町」です。」
「綺麗な町だな、それにかなり大きい。」
町の外観は中世のヨーロッパ風で煉瓦造りが多い、赤レンガの屋根がなんともおしゃれな感じだ。それにかなり大規模な町にも思える。外周を囲うように建てられた壁の端がこの位置から見えない。
ラムゼーの町には特に問題なく入ることができた、門番でもいるかと思ったら普通に入れて拍子抜けだったが結果オーライだろう。
町中は外から見たよりもずっと綺麗な建物がたくさんあった。入った場所は商業地区だったのか活気にあふれた市場のように見える。市場と言っても地球のそれとは違い魚介類の姿は見えない、肉類と果実や野菜が中心だ。
そこかしこから客を寄せるための店主の掛け声が響き渡る。
「賑やかな町でいいところだね。」
「この町はこの辺り周辺でもかなり大きい部類ですから。私はこの後ギルド支部に報告に行きますけどマナブ様はどうしますか?」
フレアの指さす方向には赤い旗のはためく大きな建物が見える。あれがギルドと呼ばれる場所らしい。
やはりこの世界にはギルドがあるようだ。となると当面の生活資金を稼ぐ意味でも登録すべきだろう。
「僕も一緒に行ってもいいかな?ギルドに登録したいんだ。」
「それなら、私が教えてあげます。」
フレメアはエッヘンと胸を張る。突き出されてわかったがこの子は胸が中々大きい。
「あのさフレメア・・・。」
「フレアとお呼びください!」
「・・・じゃあ、フレア。」
「なんでしょう?」
「フレアって僕より年上に見えるけどもしそうなら敬語は使わなくていいよ。ちなみに僕は14歳だよ。」
「私は17歳なので本当ですね。しかし仮にも命の恩人にため口というのも。」
「僕は気にしないし、何と言うか敬語だと違和感があるんで。」
「わかった。じゃあマナブ行こうか。」
ああ、本当にこの子可愛い。笑った笑顔がすごく可愛い。
「フレアは本当にかわいいね。」
「なっ!」
思わず口を次いで出てしまった。それぐらいフレアの笑顔は眩しかった。燃えるような綺麗な赤毛の三つ編み、屈託なく明るい笑顔はみているこっちまで元気になってくる。
しかし、フレアには突然のことで驚きで空いた口が塞がらないのか金魚みたいにパクパクしている。
「そ、そんな・・・いきなり・・・・でも・・・学となら・・・わ、私ったら・・・そんな・・・はしたない・・・。」
フレアは真っ赤になってブツブツと独り言をつぶやいているが何を言っているのかが今一つよく聞こえない。
「おい、てめぇ。フレメア・ヴァルフェルノだな。」
ギルドの目の前で僕たちは冒険者風の男3人に囲まれた。同じ冒険者でもフレアとは装備のレベルが違う。手に持った剣も盾もただの鉄製ではない輝きがある。
「誰だ、お前ら。」
あからさまにただならぬ雰囲気を醸し出している3人に対して僕はフレアをかばうように前に出る。剣こそ構えてはいないがこの雰囲気は僕には覚えがある明確な殺気いじめを受けていたときずっと感じていたもの。こいつらはフレアを殺すつもりだ。
「お前こそ誰だか知らねえが、そこをどけ。俺たちはそこのお嬢様に用がある。」
「断る、武装した複数の男に女の子を渡せるわけないだろ。」
「けっお前こそ大した武器も持っていねえくせに何ができるってんだよ。」
男の一人が前に出る。
「待ってください、あなた達の目的は私でしょう。学は関係ありません手を出さないでください。」
「フレア?!何言ってんだよ。」
「いいの、これは私の問題だから。」
僕を押しのけようとするフレアの目はあの時の、結衣をかばって死んだときの僕の目と同じだった。覚悟を決めて自分の罪を背負った人間の目だ。
「そうだ、フレメア様。あんたが大人しく俺たちに殺されてくれるならそいつに手は出さねぇよ。」
「あんたには父親の罪を償ってもらわねえといけねえんだ。」
事情は分からないが、こいつらのやろうとしていることは僕を追い詰めようとしていた連中と同じか。
だからと言って退くわけにはいかない。こいつらはこっちを殺しに来るだろうが状況が読めないこの段階で僕がこいつらを殺すわけにはいかない。ひとまずここは何とかして逃げることに集中しよう。
「理由は知らないけど、なんかお前らには僕の嫌いな人間の香りがする。だから退かない。」
「生意気な奴だ。俺たちは全員Bクラスの冒険者だ。お前みたいな戦闘を知らないガキとは格が違ううてことを教えてやるよ。」
一人の男がそういうと剣を抜いた。町中で悲鳴が上がる、今まではただ言い争いの反中だったが明確にここで殺し合いが起きそうなことを見物人もわかったのだろう。
しかし、どこにでもいるもんだよなこういう自分の力を過信した奴って。
「おらぁ!」
頭上から剣が振り下ろされる。
タイミングを見計らってバックステップでかわし、フレアを抱えて距離を取る。
今度は少し強めで行こう。3人の男の距離はせいぜい1mずつ、この男の剣で見物人は大分離れてる。
「水素爆鳴気!」
両手で剣を振り下ろそうとしている男に向かって水素を送りこむ。
「ちっ避けやがったか!」
キンッ
そして、水素が充満した空間で金属製の剣が石畳の路上に振り下ろされる。つまり両者の間に一瞬だけ火花がちる。
ボォンッ!!!!
一人の男を中心に爆発による衝撃波と熱が巻き上がる。周囲に粉塵が舞い上がり、視界が奪われる。
視界の隅にわずかに光るものが見えた。
「危ない!!!」
その形がナイフだと気が付いたときには僕はフレアを庇って倒れこんでいた。
背中に鋭い痛みが走るがそんなことを気にしている場合でもない。
この粉塵に紛れて逃げた方がよさそうだ、これだけの爆発なら警備隊的なものが駆けつけてもおかしくない。
「学?!大丈夫?刺されたの!」
「大丈夫だよ・・・フレアそれより早くここから逃げた方がいい・・・どこか身を隠せる場所はない?」
「それなら私の家に。私が背負うから落ちないようにしっかり掴まっていてね。」
フレアは僕を背負うと粉塵に紛れて路地裏へと逃げ込んだ。
しっかり掴まれとはいわれたが痛みで意識が朦朧としている僕には手に触れたものを何とかつかむのが精いっぱいだった。
「ひゃっ!」
とっさにつかんだそれはとっても柔らかかった。