寒い日の過ごし方
そろそろ寒さも今月限り?
寒い日の過ごし方
「へーへっへっくしゅん!!」
魔王は轟々と燃え上がる暖炉のある部屋で盛大なくしゃみした。
いくら暖炉の前とは言え、外は凍えるような吹雪が吹き荒れていてその寒さが部屋の外から肌に痛いほど伝わる。暖炉の火が当たっている部分以外は冷気や寒気にさらされて、なかなか体が温まらない。
人知超えた魔王ということ寒さを凌ぐ魔法を勿論心得ているが、
「何でも魔法や能力で解決するのは退屈でつまらない」という方針らしく、滅多に使わない。
また
「寒さを感じるのは冬を肌で感じる風物詩のようなものだ。夏は暑さを体で感じてこそ
夏が来たと感じるのであって、冬は寒さで到来を感じる。まぁ…凍傷になりかけるようなひどさなら別だがな」という訳のわからぬ持論を展開していた。
これが並の人間だったら、やや困った理論に呆れてモノも言えないだろう。
とにかくやや唐変木な魔王は寒さに少々凍えながらもゆったりくつろいでいた。
「それにしても、今日は大荒れだそうだな。こんなに吹雪いている中出歩いていれば、
私でも遭難して凍え死んでしまうだろう。」
やや首をかしげながら今日の過ごし方を思案した。この荒れた天気を自身の力で操って、
好天にするのは容易い。だが自然の摂理を意図的に操作してはいつかその代償が帰ってくるだろう。
そのような例がいくつも見てきた魔王は自然の摂理に干渉を加えることの恐ろしさを知っていた。
「何でも不思議な力で解決するべきものではないのだ。それに頼りきってしまったらいつか私は敗れてしまうだろうな」
人知れず寂しさに呟く。暖炉を見つめる瞳は血のように紅く、彼の憂いを現すかのように
瞳の奥ではちらちら暖炉の炎が揺れていた。腰の辺りまで届く漆黒の髪に彼は自分の表情を隠した。
私は人魔恐れる闇の世界の王。頂点に立つものはいつかその座から引きずり下ろされる可能性があることを知っっていた。力に溺れ物の見極めるのを忘れてしまったら、無残な最期を迎えるだろう。
それに気づき魔王はふっと笑みをこぼした。やや面白みと不敵に挑むような目で
「命は惜しくないが…。やりたいこと見てみたいことたくさんある。だからそうそう簡単に
渡すつもりない。…さて今日のような寒い過ごし方だがいかが致すか?」
と再び思案に暮れた。
暖炉の薪の一つが燃え尽きた頃
「ちょうどいいところに…」
やや意地の悪い笑みを浮かべながら魔王さまは部屋の扉を見やる。
バーン!と激しい扉を開ける音が部屋に鳴り響いて勇者が現れた。
「魔王!今日こそは必ず!・・・おい」「よく来たな!」「なっ!?」
威勢堂々と勇者としての名乗りを上げようとするが、魔王が期待満ちた顔でかけより、
失敗に終わった。普通敵を純粋に歓迎する者はそうそうおるまい。
呆然とする勇者に魔王はこう期待満ちた顔でのたまった。
「勇者よ。外は非常に寒かっただろう。あいにく寒くて家にいて屈でな、ぜひ相手してくれ」
その言葉に勇者は「何言ってんだ?このどっかのネジが外れているとしか思えないアホ魔王は…」と一瞬氷結してしまった。それはそう。彼らは勇者と魔王であって、天地がひっくり返っても仲良く寒い日を過ごすとはありえないのである。
勿論勇者はそのことを魔王に指摘した。しかし魔王は不思議そうな顔で反論した。
「頭の固いやつだな。そんなに固い頭だと老けてしまうぞ。魔王は必ずしも勇者に倒されるものではないだろう。…だが戦うのもいい寒い日の過ごし方だな。戦っている時に、寒いことを忘れてしまうから。さすが我が宿敵だ。なかなかいい発案だ」
「お前・・・本当に相変わらずだな。まぁいいや。心置きなく戦えるなら。いざ尋常に!」
とほほ・・・とあきれながらもすらりと剣を抜き構機構える。だが、次の魔王の言葉で
おもいっきりずっこけた。
「何で勝負をしようかな。おや、外は晴れて雪が積もっている。雪合戦といこうぞ」
「何で勇者と魔王が雪合戦という生ぬるい遊びで戦うのかよ?力をぶつけ合わせてこそ、オレたちの戦いではないのではないのか?」
「本気で我らがやりあっては、この地が半壊するではないか。お前が来るたびに城の修理馬鹿にならないんだぞ。魔力も費用も」
どこからか請求書の束を勇者顔面に突きつける。そこに書かれている額は到底一生
遊んで暮らしているような額で、勇者にとっては度肝を抜かれるような額であった。
叩き殺したいのを抑えつつ、勇者は抗議する。
「お前がおとなしく成敗されておけばいい話ではないか」
「やすやすおまえごとき間抜け勇者に敗れてたまるのものか・・・。とにかくやるぞ」
「貴様に言われたくないわ」
愚痴愚痴喧嘩しながら外に出ていった。
外に出ればピリッと肌を刺すような寒さが染み入った。
お互いがどれだけ手を伸ばしてもてを出せない距離で向かい合った。
各々が雪玉を作り手にし、お互いに投げつけ始めた。
お互い手に収まりきれない雪玉をせっせと作って貯めては、一つ一つ投げ始めた。
「それ!なかなか動きが俊敏だな。だがこの玉はよけられるかな?」
雪玉を真っ直ぐに投げると見せかけて、やや角度をつけて雪玉を投げつける。
それに勇者は避けそこねて当たり、倒れくずれた。
それを見て数歩近づきながら魔王は意地悪げに微笑んだ。
「うわっ!」
「奇策は戦略の一手だぞ、勇者よ。うわっ!」
勇者が倒れたと思われる辺りから雪玉が飛んできて顔面に直撃し、雪に足を取られて滑って倒れた。勇者はほうぼうの体で起き上がってにやっと笑う。
「油断は禁物だぞ。魔王」
手元には雪玉1個分の跡が付いていた。どうやら隠し持っていて、そのまま地面に倒れる同時に投げつけたらしい。(実際は滑って倒れ崩れる瞬間たまたま手から離れた雪玉が当たったというまぐれだが)
魔王はやっとこさ起き上がりながら目に戦意と楽しみを漲らせながら、こう告げた。
「さすが勇者よ。そうこなくてはな!こちらとて容赦なくやらせてもらう」
こうして勇者と魔王の平和な死闘が半日ほど続いた。少々えげつない手や汚い手を使ったり、お互いを翻弄して寒い雪の日を2人は楽しんだ。お互い体力や気力をこれでもかと使い切った後、暖炉で暖まった部屋で熱いココアを飲んだ。
苦味が好きな魔王はミルクを少なめにし、逆に甘味が好きな勇者はミルクを多めに飲んだ。
それを魔王は「お前、甘いものが好きなんて女々しいな」とからかうと、勇者は
「そう言うお前も渋みが好みとは年寄り臭い」とやり返した・
それに魔王はふんとふてくされたように鼻を鳴らし、勇者は肩をすくめた。
「温まるな・・・・。」
ココアを飲みながら魔王はぽつりとつぶやいた。
「そうだな」
しみじみと勇者も同意する。
冬は凍てつくような寒さには辟易するが、温かいココアを飲むことでその温かさを体の芯から感じられるのだ。温かさの重みが一段と感じられる季節が冬だと魔王は感じた。
寒い時にはこうやって友と温まるのも悪くないな
口にこそ決してしないが魔王は苦笑いしながらココアをすすっていた。