表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
決行前夜  作者: ウオン・バット・ウ
2/6

決行当日

 夜が明け目が覚めた時、男は明確な解決方法を思いついた気分だった。男は生きる事と死ぬ事には明確な壁があり、どちらも特別なものだと考えていたからだ。

男は考える。どうすれば死ねるんだろうか。


小学生か中学生の時。崩壊家庭で育ち、家中で怒鳴り声が響いていた時にも、一度試みた事があった。

その時は首を吊る事で、目的を成し遂げようとした。器官を絞めるのではなく、頸動脈の血の流れを止めるのだ。その知識は持っていた。

その時は、本気ではなかった。大人に変わって欲しかった。自分は、酷い環境に居るから、死にたいと思っている。そう意思表示する事によって、少しでも自分の環境を変えたかったのだ。しかし目論見は外れ、少年の行為は、怒鳴り声の原因、他人を責めるための武器をまた一つ与えただけに過ぎなかった。

あの時やった事を、もう一度本気でやろう。


男はそう考えた。食べるものは一切なかったので、台所の隅にあった、いつのものかわからない、虫のわいた、変色した砂糖のマシな部分を削って食べ、空腹を紛らわせた。もう二週間はこれしか口にしていなかった。

家の中で、ロープになりそうなものを探す。

大きい家。元々は男の実家だった家。

祖母と、叔父と、母と、男が住んでいた。男以外はもう皆亡くなっていた。

そのため、彼らが残していった服、小銭の類、そして、血圧の薬、風邪薬、糖尿の飲み薬。そういうものがタンスのどこを開けても入っていた。


ネクタイで首を括ろう。

ドレッサーを開け、ネクタイを選ぶ。センスの悪いものばかりだったが、一番気に入った色、黄色地に茶色の格子模様の入ったものを選んだ。

何がを引っ掛けられそうな所を探す。60キログラム、170センチメートルの何かを引っ掛けられそうな所を。

トイレのドアノブ。唯一それが、行えそうな場所だった。

ネクタイをキツく結ぶ。何とか、頭は入りそうだ。


ああ、思えば、くだらない人生だった。

自分の人生に何か意味はあったのだろうか?

父に見捨てられ、母にも見捨てられ、そして世界からも見捨てられた自分の肉体は、ついに自分の精神にすら見捨てられようとしている。

ただ、流れるまま、決して自分には真の意味では理解できない他人という種類のものの姿を真似して、そこに馴染もうとするだけ、そんな生命だった。


下らない懺悔はいい。腹が空いていた。早くこの空腹から開放されたかった。

なんとか、頭をネクタイに通す。醜く、大きい頭だ。後は体重を前にかけるだけ。気道が閉まると苦しいので、ネクタイと首の前面、気道の間にはタオルを入れる。首の側面を通る二つの太い血管、頸動脈の流れのみを止めるのだ。

体重を前にかけ、しばらく気を放る。

何も、音もなく死ぬのは、悲しいものだ。一度首を抜き、テレビを点けに行った。

トイレの前にまで聞こえるように音量を高くした。

そして、もう一度首を通し、目を瞑る。

人生を回想した。俺は今まで、本当に、何がしたかったんだ?


ロックスターになりたかった。陳腐な夢だ。

男はギターが弾けた。人に比べれば、別段うまくはなかった。ただ、唯一男が、誰の模倣もせず行えた事だった。

そして、ほぼ唯一、自分が行った事で、本当にやりたかった事が出来たものでもあった。


曲を作った。いくつかあったがほとんどはゴミで、一曲だけ、男の中では得心出来るような曲ができた。

母への曲だった。自分のような、出来損ないの人間が、本来生まれるべきだった人間の精子を押し出し生まれてしまったせいで、あなたの人生を台無しにし、死に至らしめ申し訳ない。そういう曲だった。

ああ、"もし"生き延びられたらあの曲を土産に、本気でミュージシャンを目指すのもいいかもしれない。

そんな、馬鹿みたいな事を考えていた時、突然後頭部に衝撃が走った。

前のめりに倒れこんだ。ドアの蝶番が外れた。木製の古い家屋にあるドアは、70kgのものを支えるようには出来ていなかった。

ドアの下に、みじめに、醜く、潰れたヒキガエルのような男が居た。


俺は今、何を考えていたんだ?

"もし"生き延びられたら?

死ぬ気じゃなかったのか?

俺は結局、ただ、あの時と同じように、周りに変わって欲しくて、自殺するふりをしたのか?

男はそう考え、自分の醜さ、浅ましさ、気持ち悪さに思わず笑い、その笑いは止まらなくなり、涙が出た。それでもまだ笑いは止まらなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ