レポート34ーアイの紅茶ー
帝都西武へとたどり着くと、そこは空き地のたまり場だった。だが決して、荒野とかそういうわけではなく、プレイヤーがオーダーメイドにて店を建てられる場所である。
そのため、いくつかの一階が店で二階が休憩所や家のような機能をするであろう建物が数件立っている。
アイはその中のひとつに近づいて、近くに浮かんでいたパネルを操作する。
「なんですか。それ?」
ユミは荷車を近くまで引いてきて覗きこむ。
「作ってもらってて、ここで支払いの手続きをすると場所の権利と建物の権利が私のものになるシステム」
「うまいこと出来てるんだな~」
「これで……よしっと! ありがとうね。なんならちょっと上がってってよ」
荷入れや細々とした倉庫への素材の搬入などの手伝いをしたあと、ユミはアイに誘われて二階に上があった。そこは、まさにリビングだった。
「ちょっと待っててね~。って言ってもお茶くらいしか出せないけど」
「お茶だせるんですか?」
「出せるよ~。一応、ゲームだけど味覚もあるしね。あと、知り合いが陶器アイテム作りにハマっちゃったみたいでもらったコップとかの使いみちがね。だから、お茶だけちょっとスキル覚えたの。紅茶大丈夫?」
「大丈夫です」
少し待つと、綺麗な白のティーカップで紅茶がでてくる。
ユミは一口いただくとその味は口の中に広がった。
マスターのような王道な味付けではないけれど、けっこう好みだ――ユミはそう思ったのだ。
「だ、大丈夫かな」
「はい! 美味しいです」
「よかった~……実は人に出すのは初めてで。リアルの友達とかだとなんか気恥ずかしいしさ~」
「わかりますそれ。なんかリアルの奴にゲーム内でこういうのって恥ずかしいんですよね」
「そうなの! じつはランちゃんっていう銀髪のキャラの友達がいるんだけど、なんか気恥ずかしくて」
「ほほう、どんな人なんですか?」
「えっと、すごい元気いっぱいで猪突猛進? でも人に対しての気遣いは無意識なのかすごいする感じの子。私の親友かな」
「へぇ~」
ユミの頭のなかには自分の妹の蘭子が思い浮かんだが、まさかそんなことはあるわけがないと自己完結する。
「いつか時間があったら紹介するね」
「ぜひ。あ、じゃあ俺もこのゲーム誘ってくれたやつ紹介しますよ。ある意味俺たちを出会わせてくれたやつなんで。かなり武器消耗激しいタイプの戦士系ですし」
「ほほう、それはぜひとも紹介してもらい、お得意さんになってもらわなきゃね」
そんなたわいない話をふたりは片方がログアウトする時間までしていた。