レポート29ー全てにおいて初歩は忍耐であるー
「…………」
ユミは光のない目で焚き火の上にフライパンを置いて調理をしていた。
その横にあるのは『ダークマター』という料理の失敗作の山。その異様さのせいなのかAIであるはずのモンスターも全くと言っていいほど寄ってこない。
「丸焼きを~あと~どんだけ~やれば~いいのか~」
自作の謎の歌を歌い出してしまう始末である。
***
「あ゛ぁ゛―!!」
昼から初めて既に夕方になるが未だに料理技能を手に入れられていなかった。
ユミは諦めてログインしているマスターにメッセージを送った。
『リアルで料理をしているならば下処理を入れてみると幾分かやりやすいぞ』
すぐに返信が返ってくる。
「包丁で切り込みでも入れろってことかな……包丁?」
その日はダークマターを他に3ダース作り上げてログアウトした。
翌日、夏休み最終日前日になった。
「こんにちは~」
「いらっしゃい~。ってユミちゃん、どうしたの?」
ユミはアイの店に訪れていた。
「包丁的なものってないですかね」
「一応包丁も短剣とフレーバーカテゴリであるけどご入用かな?」
「料理技能を取ろうとしてて」
「そういうこと、それならすぐ作るから待ってて」
「はい、ありがとうございます」
……思ったよりあっさりと手に入りそうでよかった。
ユミは内心包丁がなかったら剣などで代用しようとすら考えていた。
10分前後で包丁は出来上がった。
「ほい」
「おぉ……包丁だ。あ、値段は」
「う~ん、それすっごい低コストだしいいよ。あれならアップデートで需要とかでそうだし食べさせてくれたら嬉しいなってことで」
「わかりました。では料理の修行がんばります!」
「楽しみにしてるね~」
ユミは再びダンジョンに戻り包丁をつかって料理への挑戦を再びスタートした。
***
「や、やっとできた……夏休み明日で終わりなのに何してんだろう俺とか思った時もあったけどきたぁ!!」
手元のパネルを見ながらユミはそう叫んだ。そこには【料理 Lv1】の文字。
「ていうか思ったよりこのゲーム味覚反映率高くてビビった」
幾つか成功したものを食べて見るとリアルに近い味を感じることができたようだ。
「今日はもうやりきったから落ちよう」
ユミはこの日、満足感と疲労感とともにログアウトした。