VS生徒会
キレやすい現代の若者……ではありませんが、色んな意味でギリギリでやってるんです、主人公
「それでは、まいりましょうか?」
疑問形の体裁を取った命令形、偉い人たちと関わるとこういう言い回しが多いんだよな、嫌だねぇ……。
実質有無を言わせぬ状態で生徒会室へと連行されていく俺。
インナースペースのBGMは「ドナドナ」である。「葬送行進曲」までは行ってないのが救い……か?
俺の教室まで迎えに来たのは、会長の後輩で中学時代もコンビを組んでいたとの話が広まっている牧村彩里、俺らの一個下の一年生だが、外見では上級生に見える。
170センチ台後半の長身でしかも姿勢がいい。
よくよく構成パーツを見るとそんなに美人ではないのに、その姿勢の美しさと内面が現れた表情の凛々しさで近寄り難いタイプの美人に見えるという俺からすると会長以上に圧迫される存在だ。
些細な、普通なら隙とも言え無い様な気の緩みを見ただけでギャップ萌えしてしまいそうなほど凛々しいのである。
そんな相手を華麗にスルーしてエスケープするなんて真似は俺には到底不可能だ。
唯々諾々と従うしかないのである。
手を滑らせて倒れてきたのにぶつかっただけでこっちが死にそうな、圧殺感のあるハルバードを抱えてた完全武装のあっちの衛兵なんかよりも怖いのだ。
会長が寄ってきた時の様な「うずき」が無いのが唯一の救いである。
自分には縁の無い世界だと思ってたからあまり意識しなかったけど、ウチの高校の生徒会って漫画とかラノベの生徒会っぽいよな?
生徒会室に入った俺は、そこに勢ぞろいした現・生徒会役員共を特定の誰かに焦点を合わせないように見ながらそう思った。
チートスペックの会長に、次期会長と目される書記の牧村、この2人に加えて自己資産が30億円を超えている(その他に両親名義「ということになっている」資産をあわせると120億円強とか、秒単位で数百万円資産が増えてるとかどこのギャグマンガだよと言いたくなる)マネーゲームの申し子、会計の坂崎緑、黒一点にして異様なまでに存在感が薄い副会長の笛吹均という面子。うん、やっぱ、この現実世界、秘密結社とか、忍者とか、魔術師とか、妖怪とか普通にいそうだな?
俺のこれまでの人生ではこうした面々に接点が無かったから感じなかったが、これ、普通の生徒会の面子じゃねえよな?
ノンフィクションの生徒会役員ってどんなに頑張っても「ああ、そう言えばそんな人も居た……かも?」程度の認知度しかないのが普通じゃね?
狙ってキャラ立てようとしても「痛い人」扱いで終わりだろ。
半分現実逃避を兼ねながら考察を続ける俺の後ろで「ガチャリ」とカギが閉まる音がした。
俺を生徒会室まで連れてきた牧村がそのままドアのカギを閉めたのは分かる。
でも、なんでカギを閉める必要があるんだぜ?
「生徒会へようこそ、麻生くん。それにしても実に象徴的な名前よね。麻生左門、麻生は『まおう』とも読めるし、左門も『summon』と音が同じよね。生まれながらに『魔王召喚』の定めにあったってことかしら?」
……な……んだと……。
なんでこの会長さんの口から「魔王」なんて言葉が出てくるんだ?
こんなところに俺はいられるか!
俺は教室に帰らせてもらう!
ドアへと振り返った俺が目にしたものは……あのー、牧村さん?
なんで抜き身の日本刀なんか持ってやがりますんでしょうか?
いや、そりゃ似合ってますけどね?
銃刀法違反ですよね、思いっきり?
ていうか、なんで高校に日本刀持ってきてんのよ、この人?
洒落でもオモチャでもないよね?
振り返る、何故か知らないけど凄く嬉しそうな笑顔の生徒会長。
前を見る、なんの気負いも無くごく自然に日本刀を構える牧村。
いやいやいや、これはないだろう?
いつからこの高校は学園バトル漫画の舞台になったんだ?
「ジャキッ」との音に振り向くと坂崎が銃を構えている。
うん、構えているだけでなく、俺を狙ってる。
レーザーサイトが付いてたら俺の額に赤い点がくっきりと見えただろう。
影の薄い副会長は何故か消えている。
もしかしてニンジャ? ニンジャなの?
動こうとすると首にクナイを当てて脅してくるんだろ、きっと!
慈悲は無いな、間違いなく。
なんで、俺がこんな目に合わなきゃならんの?
厨二病偽装してまで守った日常を訳の分からない他人に踏みにじられてたまるか!
「ムカつくなぁ、なんで、初対面にほぼ近い人間に知った様な口をきかれなきゃいけないわけ? 人を殺せるものを人に向けるってのは殺される覚悟あるってことだよな?」
短絡的になるべきでは無いとは分かってはいるが、厨二病偽装を日常的に行わざるを得ない俺のストレスは常に表面張力でギリギリのラインだ。
普通の人から見れば「些細なこと(まあ、銃や刀を突きつけられてる時点で現状が些細だとは非日常系ギャグマンガでもない限り言えないと思うが)」でも俺にとっては容易に心のバランスを崩す出来事だ。
それにこんなことを平気でしてくるんだ、きっと人間離れした力を持っているに違いない。
少しくらい「無茶」をしても平気だよな?
まずは指輪で自分の重さを5000分の1にする。
約60キロだから12グラムになるな。
ついで、ポケットから出したビー玉の重さを5000万倍に。
4.4グラム×5000万で220トン。
床までの高さが1メートルちょっとで22万ニュートンだ。
ちょっとした破壊行為は出来そうじゃないか?
「ちょっと待った、ストップストップ! ちょっと悪ふざけが過ぎたかな? かな?(普通の子って聞いてたのに、あっさり人を殺す気になってるわよね、やばいやばい)……って、ちょ、彩里ちゃんもストーップ!!」
俺の手からビー玉が落ちると同時に咄嗟に上げた左手に衝撃が走る。
ヒラヒラと白い包帯が広がり、パラリと制服の左袖がバナナの皮の様に切れ目から広がって垂れ下がる。
床から衝撃が走り皆が体勢を崩す。
予想に反して床は崩れなかったが、減らした体重のまま飛び上がり、着地と同時に体重を1000倍に上げ、ドアに寄りかかる。
重さで壊れるドアに目もくれず、体重を元に戻し全力ダッシュ……しようとしたが目の前には副会長が変わらぬ表情のまま立っていた。
「凄いね、ちょっとした砲撃なら耐えられる作りなんだけどな、生徒会室」ごくごく普通の調子で話しかけてくる彼に気が抜ける。
狙ってやってるなら凄いよな。
一回、気が抜けると再度張り詰めるまでタイムラグが出るからな。
「それが魔王を封じた左手ね。」
頼むから近付かないでくれ、マジでうずくんだから!
視線に晒される俺の左手は、刀を受けた筈なのに傷一つ無い……というと語弊があるか、ゆで卵の殻を固いところに叩き付けた時の様にひび割れてるんだからな。
ごくごく普通の皮膚が殻の部分、ひび割れから見えている卵なら白身の部分が紫地に赤い線が走るという「いかにも」な異形。
「8分の1だけどな……。」
俺はため息と共に返答を吐き出した。
もっと穏やかな話し合いになる筈が^^;