73:カトレナ
和也たちが王宮を去った後、見送るライオネルに一人の黒衣騎士が近付く。
そして、フェイスマスクごとヘルメットを外して、何事かを囁いた。
小さく頷くライオネル。
そのヘルメットを外した男の肌は浅黒く、そして長く特徴的に先端が尖った耳をしていた。
彼はダークエルフ種で、和也とは面識のある男だった。
「まさにバランスブレイカー…… 神人の考える世界の調和を崩しかねない、規格外の男ですね」
「ああ、まさか一人であの大規模な魔海嘯を軽々と止めるとは、いまだに信じ難い」
「神の光にも消されること無く、ああしてピンピンしてますからね。 まさしく規格外の存在です」
「くれぐれも敵にだけは、回したくないな」
「知ってますか? 謁見の間だけでなく、王城全体の魔法阻害結界が破壊されていたそうですよ」
「なんとも修理を考えると頭が痛い事だな、それは」
「御意…… 」
「して、プロメテの事だがな…… 」
二人の声は、更に小さくなった。
和也たちの乗った馬車は、すでに王城の敷地から街中へと向かっていた。
農業が主体であるイース村の朝は早い。
和也たちがヤムトリアへ向かう時に同行したイース村のカトレナと弟のリンは、日課の木の実採集と山菜採りに出かけていた。
このところ急に魔獣の姿を見なくなったおかげで、毎日の採集活動も順調だった。
今日は村の外れから、かつて使われていたと言う旧街道にそって森へと入って行く。
旧街道は元々が道路として使われていただけあって、森の他の部分より歩きやすい。
魔獣の姿を見ない事による安心感からか、カトレナはいつもより深く森へと入っていった。
突然、深い森が切れて視界が開けた。
そこにあるはずの森が、広範囲にわたって消えていたのだった。
草も木も無い、広大な土地に茫然とするカトレナとリン。
一歩前に足を踏み出した彼女の足に、何かが引っ掛かる。
カトレナに蹴飛ばされた形になったそれは、朝の光を浴びてキラキラと輝きながら地面を転がった。
思わず、それを拾ってみるカトレナ。
その奇麗な石には、見覚えがあった。
それは、猟師の叔父さんに見せて貰った魔石と同じ物だった。
「姉ちゃん、あちこちに奇麗な石が埋まってるよ」
弟の声で我に返ると、確かに辺り一面に魔石を思われる色とりどりの奇麗な宝石が地面から顔を出しているのだ。
急いで拾ってみると、それも色違いの魔石だった。
一生懸命周囲の魔石を拾うけれど、取り切れるものでは無い。
腰の袋一杯に取っても足りず、背中のカゴにも一杯に沢山の魔石を放り込んだ。
これ以上は重くて採りきれないと判断した処で、カトレナは村に戻ることにした。
一刻も早く村のみんなにこの事を知らせなければ、そう考えたのだ。
カトレナの採取した魔石は大小様々で、彼女の家の年収に換算して数十年分になる量だった。
そのお陰で、カトレナは王都の学校に通うことになるのだが、それはまた別の話である。
第五章も、すべて書き溜めてから一気に投稿する予定です。
またしばらく時間が空きますが、お待ちいただければと思います。




