71:発見と遭遇
〈カズヤ! 遅れてすまぬ。 もうじきそっちに着く〉
転移したとたん、バルからの念話が飛び込んで来た。
俺は今までの事情を簡単に話して、バルには宿で待機してくれるように頼んだ。
何処に行っていたのかを聞くのは、すべてが終わってからで良い。
〈バルか? ゴブリンの王が街を襲うと思われていて、防御のために門は閉じられているから、あまり騒ぎを起こさないようにな〉
〈居ない間にそんな事が起きていたとは…… で、カズヤたちはどうするのじゃ?〉
〈ああ、そっちの方はメルを助ける邪魔になりそうなんで、俺が片付けておいた。 まだ王都の人間は誰もそれを知らないから、騒ぎになってるだけだ〉
〈そうであったか…… ゴブリンの王も、災難じゃったようじゃな〉
バルなら心配いらないとは思うけれど、不用意に騒ぎの中に飛び込まないよう、それだけは言っておいた。
そして、改めて俺は出現ポイントの周囲を見回す。
事前にテレポートスキルの付加効果で、出現ポイントに障害物が無い事は確認済みだ。
テレポートを発動する直前に『コンポジット・アーマー』も『隠遁結界』も展開済みだから、万が一にも見つかる可能性は低いだろう。
俺たちが出現したのは、豪奢な宮殿の敷地に隣接した場所だ。
宿から『気配感知』で探知した反応の返ってこない場所は、それほど遠い訳では無かった。
俺はその無反応地帯の真ん中を狙って、宿からテレポートをしたつもりだった。
再度『気配感知』で確認してみると、どうやら無反応地帯に隣接した場所に俺たちは居るらしかった。
宮殿の高い壁際に居る俺たちの直ぐ近くを、巡回警備の騎兵が通り過ぎて行く。
見つかるはずは無いのだけれど、俺たちは息を殺して行き過ぎるのを待った。
改めて二人と自分に『ブレス』と『アクセル』のコンボを掛けて、準備は万端だ。
一気に『ブレス』の体力増強効果を利用して、高い壁を飛び越える。
着地した場所は、お金をふんだんに掛けられた事が判る、整然と整えられた広大な庭園だった。
遠くに豪奢な宮殿が見える。
俺たちはティグレノフの指示で、宮殿の裏側にある通用口へと接近した。
まだ、ここにメルが居るという確証は無いけれど、一番近くにある怪しい場所という意味では、ここしか無い。
メルが遠く国外へと連れ去られているので無ければ、ここが一番怪しい事になる。
なにしろ念話のイヤリングは、仲間との念話機能にプラスして居場所を感知出来るアイテムなのだから。
ゲームの中では、仲間を集めて自分たちのギルドを立ち上げる事が出来た。
ギルド員に対しては、通称『ギルチャ』と呼ばれるギルドチャット機能が装備されていたが、それにプラスして運営側が作ったのが念話のイヤリングだ。
ギルドマスターとして登録をすると、そのアイテムを生成するスキルが取得出来るために、一人ギルドなんて物を作って遊んでいる人も居たほどだった。
その念話のイヤリングはギルド幹部にしか配らないという人も居れば、全員に配るという人も居た。
元々がゲームの中ではギルド員以外に配布できない仕様だったが、現実世界ではその縛りは無くなっていた。
そもそもが、ギルドを立ち上げるという機能が現実世界では存在しないのだから、仕方の無い事なのだろう。
もっとも、自分一人しかメンバーが居ないソロギルドで、誰に念話のイヤリングを渡すのかと問われれば、苦笑するしか無いだろう。
実は俺も、そのソロギルドを立ち上げて遊んだ一人だった。
エクソーダスは、自由で気の合う仲間だけが集まって作ったパーティであって、上下関係のあるギルドでは無かった。
パーティリーダーを形だけ務めていたパンギャさんが、それを嫌ったのだ。
だから俺は、今でも念話のイヤリングを作成できる。
それが何にも反応を返さないなんて事は、普通なら有り得なかった。
建物の裏口にある使用人の通用口らしい扉の前まで来て、俺たちは扉の両脇で息を殺す。
人の出てくる気配がしたのだ。
ガチャリとドアのロックが内側から外され、ギイと音を立てて通用口の扉が開く。
出てきたのはエプロンドレス姿のメイド二人だった。
「それにしても、地下の倉庫が立ち入り禁止になって不便で仕方ないわ。 おかげで、毎朝毎晩と、裏の倉庫に食材を取りに行かなければならないんだからね」
「そうよね。 いつもは纏めて数日分の食材を入れておけるから、手間が省けて良かったのにね。 早く壊れた場所の修理をして欲しいわ」
「ちょっと! 外に出る時は、ちゃんと鍵を閉めないとエメリア様に叱られるわよ」
「大丈夫よ、少しくらい。 一々閉めるのも面倒くさいし、どうせすぐに戻るんだから…… それに、この敷地の中じゃ魔法も魔導具も使えないのよ。 わざわざ忍び込む奴なんて、居ない居ない」
二人のメイドたちは、左の二の腕に薄い麻袋のような手提げバッグを下げて、ぺちゃくちゃと話しながら、遠ざかっていった。
ドアの扉は閉められていたが、その鍵は締められていなかった。
なるほど、セキュリティと言うのは内部の人間の無警戒さから崩壊するのだなと、俺は思った。
まあ、お陰で俺たちが労せずに忍び込めるんだから、感謝しないといけないとも思ってはいたが……
この屋敷の主は、もっと口の固いメイドを採用すべきだなと思いながら、俺たちは屋敷に侵入した。
その際には『クレンリネス』で軍用ブーツの底を奇麗にクリーニングしておいたから、床に土の足跡が残る心配は無い。
俺たちは地下室への出入り口を探して、廊下を歩いた。
しかし広すぎて中々見つからないので、俺たちは強硬手段に出る事にした。
どうせ『隠遁結界』を纏っているのだから、顔バレする心配も無いのだ。
そんな心配よりも、メルの存在とその無事を確かめることが優先だった。
偶々通りすがった執事のような身なりの男を捕まえて、掃除用具を収納してある部屋に口を押さえて引きづり込む。
そしてティグレノフが後ろから男の首に特大の軍用ナイフを当てて、耳元で囁いた。
「地下室は、どこだ? 大人しく話せば、命は取らない」
涙目でコクコクと頷く男は、首に当てられたナイフのひんやりとした感触を味わって、思わず息を呑んだ。
つまり、話さないとこの場で殺すという意味を、すぐに理解した事になる。
俺は二人の手際の良さを目の当たりにして、半ば呆れ顔になっていたと思う。
ちょっと間抜けで人の善い元ロシア軍人くらいの感覚だったけど、やはり本職がマジになると迫力が違う。
この場に居るのは、レイナにしごかれてヒィヒィ言っている二人じゃ無かった。
大事な仲間のアーニャに瀕死の怪我を負わせられて怒っている、二人のプロだった。
二人は地下への出入り口を聞き出すと、ティグレノフが男の延髄に野太い手刀を叩きつけて昏倒させる。
そして、手際よくアイテムバッグから取りだした粘着テープで、手足と口をグルグル巻きにして掃除用具室へと置いて行く。
一瞬の迷いも無い慣れたその手際の良さに、俺は再び舌を巻いた。
たぶん、あの男は明日の朝まで目覚めないんじゃ無いだろうか。
「凄いな。 手際が良過ぎだよ、二人とも」
俺は二人を称えて、そんな事を口にした。
しかし、二人は口を揃えて当たり前のようにそれを否定した。
「カズヤが居なければ、首の骨を捻って殺していたところだ」
「死人は、目を覚まして騒いだりしないからな」
淡々と当然の事のように語る二人に、俺は若干の戦慄を覚える。
この二人、いつもの陽気なお兄さんたちじゃ無い!
いつの間にか、カタコトの日本語まで流暢に話すようになっていた。
って事は、今までは間抜けな外人を装っていたって事なんだろうか?
「あった!」
ティグレノフが小声で囁き、後ろの俺たちを手で制して止める。
目の前には、先程の男が言った地下室への入り口があった。
扉の両脇に二人が別れて、中の様子を伺っている。
俺は、なんとなく二人から少し離れて立つ。
ヤバいよ、この二人完全に本気モードだよ。
いや、俺が本気じゃ無いって意味じゃ無いけど、この二人の前だと精神的に気圧されてしまう気がするって意味だ。
何て言うか、俺もメルの救助中にアーニャに大怪我をさせた奴が居たら、そいつをぶち殺してやろうと思って来たんだけど、この二人の本気度を前にすると引け目を感じてしまうのだ。
あれだ! 肝試しとかお化け屋敷で連れが極端に怯えちゃったりすると、自分一人なら自分だって怯えて震えているはずなのに、妙に怖くなくなっちゃう気持ちに似ているかもしれない。
中の様子を伺っていたティグレノフがヴォルコフに頷くと、ヴォルコフがそれに無言で応えた。
二人の目が合って、一気にドアが引き開けられた。
間髪入れずに二人が小銃を構えて、室内へと静かにそして素早く突入する。
もちろん、物音一つ立ててはいない。
俺も、少し遅れて中に入り、後ろ手でドアを閉めた。
室内には短い廊下があり、その先は階段になっているようだ。
足音を殺して、階段を降りて行く。
どうやっているのか二人の足音はしないのに、俺が階段のステップに足を乗せる度に、ギイと小さく軋む音がした。
降りきった場所は、広い部屋になっていた。
倉庫として使われているのだろう、様々な道具類が置かれている。
昼だと言うのに薄暗い地下の室内でも、ダンジョン探索用に取得した『暗視』スキルのお陰で苦労は無い。
ヴォルコフとティグレノフは、いつの間にか分厚いゴーグルのような物を装着していた。
窓が無い部屋の中はひんやりと湿っていて、淀んだ空気はどこかカビ臭い気がする。
「ただの地下室だな」
「そのようだ」
ヴォルコフが小声で呟き、ティグレノフが頷いて同意を示す。
ティグレノフが左手で指示をすると、ヴォルコフが直ぐさま背後を警戒する態勢を取る。
周囲を警戒する二人の手には、小銃が握られていた。
俺も、『気配感知』を軽く全方位展開してメルの気配を探る。
しかし、何の反応も返ってこない。
それよりも、スキルが発動したという感覚も無かった。
なるほど、魔法阻害効果のある結界内だと言う事らしい。
そういう事ならば、『スキル』の効果時間が残っている内にメルを見つけて連れ出したいところだ。
果たして、ここにメルは居るのだろうか?
ここは、あくまでメイドたちのお喋りから怪しいと睨んだ場所に過ぎない。
魔法を阻害する結界の範囲内には、この屋敷の敷地すべてが含まれていそうだった。
ここに居なければ、残り時間内に手当たり次第に探して行くか、また誰か事情をしていそうな使用人を脅して、女の子が監禁されていないか聞き出さなければならないだろう。
「奥に、もう一つドアがあるぞ」
ヴォルコフが出入り口を見つけたようだ、周囲を探索していたティグレノフが戻ってきた。
俺も、その場所へと近付く。
ヴォルコフの指差す場所に、ドアノブがあった。
ティグレノフが頷いて、ノブに手を掛ける。
ノブを回しかけて止め、ヴォルコフに視線を送る。
恐らく鍵が掛かっているのだろう。
ここは銃で鍵ごとドアノブを撃ち抜いて強行突入でもするのかと思って見ていると、ティグレノフはニヤリと長い犬歯を見せて笑った。
ヴォルコフも、それに応えて長い犬歯を見せながら、ティグレノフを促すように顎を少し前に突き出す。
ティグレノフが軍用ナイフを取りだして、ドアの蝶番に突っ込んで捻ると同時に、ドアノブを力任せに引いた。
メリリというドアのたわむ音がして、木製のドアが蝶番ごと引き抜かれる。
まあ、『ブレス』の肉体強化が有効なんだから、驚く事じゃない。
取り外したドアを脇に立て掛けて、俺たちはその中に足を踏み入れた。
「メル!」
一二畳ほどある広い室内には、奥にメルが手足を縛られて倒れている以外に、誰も居なかった。
ティグレノフとヴォルコフは拍子抜けしたような表情を見せると、中の様子を伺ってすぐに入ろうとはしない。
たぶん、罠の可能性を考えているのだろう。
歯医者が使うような、棒の先に角度のついた鏡が取り付けられた器具をドアの向こう側に突き出し、中の様子を伺っている。
ヴォルコフが、俺に合図をくれた。
罠の可能性は、今のところ無さそうだ。
俺は促されるように、二人がドアの近くで見守る中をメルに駆け寄る。
手足の戒めを外し、メルを膝の上に抱きかかえた。
俺はメルの頬を軽く叩き、意識を戻させようとした。
小さく意気が漏れるような音がして、メルが身じろぎをする。
その時、俺の手の中に居る少女から弱々しい声が聞こえた。
「危ないから、逃げて下さい…… 無関係な市民を巻き込む訳にはいきません」
メルは俺の腕の中で体を起こそうと、弱々しく身じろぎをしていた。
きっと何かの夢でも見ているのだろう。
突然パチリと瞳を開いたメルと目が合った。
メルは唐突に俺に向かって頭を下げると、こう言った。
「どうか、私にそのお力をお貸し下さい」
そこまで言った処で、ハッと我に返ったようにメルは周囲を見回す。
そうして、再び俺を見てメルは言った。
「わたしは夢を見ていたようです…… 」
どうやら、メルに俺が見えるという事は、俺の掛けた各種『スキル』の有効時間が切れたようだ。
ここからは、姿を隠して楽に脱出する訳には行かない。
「取りあえず、今はここを出よう。 歩けるか?」
俺は、メルにそう訊ねる。
状況を把握したらしいメルがコクリと頷き、俺の肩を頼りに立ち上がった。
その時、メルが閉じ込められて居た部屋の入り口あたりから、小さく足音が聞こえる。
俺たちは、思わず身構えた。
スキルの効果が切れた今は、身を隠す場所も無い。
ヴォルコフとティグレノフが互いに目で合図を交わすと、壊れたドアの両脇に張り付いて、ドアの向こう側から身を隠した。
俺は、メルを後ろに隠して囮になるために、あえて屈んだ姿勢のまま隠れない事にした。
たぶん、この方がヴォルコフとティグレノフにとっても都合が良いだろうと考えたんだけど、二人が小さく頷いてくれたので正解だったようだ。
メルが捕らわれていた部屋の一つ手前にある倉庫らしき部屋の扉が、ギイという音と共に引き開けられた。
扉を開けた女性が、食事が乗せられていると思われるトレイを片手に持ったまま、奥の部屋に居る俺を見つけて息を呑むのが判る。
「何者! ここをシャロン王妃様の離宮と知った上での進入か?」
俺はドアの両脇に隠れているヴォルコフとティグレノフへと視線を動かさないように意識しながら、その女性を睨んだ。
この使用人風の女性がメルの誘拐に関係しているのか、それとも偶々倉庫へ来た無関係の使用人なのか、まだ判別がつかないからだ。
「この部屋に居た娘を、何処にやったの? 大人しく話せば命までは取らないから、お言いなさい!」
その一言で、この女がメル誘拐の関係者だと判った。
俺の背中に隠れて居るメルの姿が、あの位置からは見えないのだろう。
女は視線を俺から離さないままで、ゆっくりと食器の乗ったトレイを床に置く。
そして、懐から短剣を取り出して俺に向けて構える。
その女はまだ手前の部屋に居て、この部屋の入り口まで近寄っては来ない。
たぶん、タイミングが悪い事に食事を持って来たところで、俺と顔を合わせてしまったんだろう。
「お前が、アーニャを…… いや、この娘と一緒に居た金髪で巻き毛の女の子を襲ったのか?」
魔族というのは上位種になると人に化ける事が出来るとライオネルから聞いていたので、念のために問いかけてみた。
どちらにしろ、まともに答えるとは思っていないけれど、何らかの反応は帰ってくるだろう。
「何の事を言っているの? ここに居た子は神の定めた運命に逆らい、あまつさえ事もあろうか国王陛下をたぶらかそうとした罪人よ。 」
「どういう事ですか? 私がライオネル王をたぶらかすだなどと、そんな事はあり得ません!」
女の言いように反応して、メルが俺の後ろから顔を出して反論した。
それを確認すると、女はゆっくりと警戒しながらも前に進んでくる
「その娘を、大人しく渡しなさい!」
何か話が噛み合わない違和感を覚えながら、俺はメルを背中に隠す。
スキルが切れて生身の今は刺されたらヤバイだろうなとか、そんな事を考えながら俺はメルを庇いながらも壁際へと後ずさる。
もちろん、女を前に誘うためだ。
チラと、ドアの内側に待機しているヴォルコフとティグレノフの方へ視線が流れそうになるのを、必死で堪えた。
女が俺たちの居る部屋の壊れたドアの手前まで来たところで、ヴォルコフが入り口から室内に飛び出していた女のナイフを、小銃で叩き落とす。
すかさずティグレノフが女の手を掴んで部屋の中に引きずり込み床に顔を押しつけると、女の右肘を自分の右膝の内側で挟み込み、肩と肘を一瞬で極めて捩り上げた。
ヴォルコフはドアの横に隠れた位置から動かないまま、小銃を女の頭に向けている。
ティグレノフの持つ小銃の銃口は、直接女の頭に押しつけられていた。
「この子を掠った実行部隊は、どこに居る」
「知らぬ! 私は頼まれて食事を持って来ただけのメイドだ。 お前たちは何者だ? 何故この屋敷に入ることが出来たのだ」
どう見ても、ただの気が強いだけのメイドさんの態度じゃ無いし、この状況で俺たちの素性を訊ねるなんてのは、それなりの覚悟が出来てる立場の人間なんだろう。
俺はメルから離れて、女に近付く。
俺は浴びせられた殺気に気圧されて、反射的に一歩だけ後ずさった。
その時初めて、俺は第三者がこのフロアに存在する事に気付いた。
「おやおや、エメリアさんともあろう方が捕まるなどとは、あなた方は並の盗賊では無さそうですね。 まだまだ、その人は役に立ってもらわないとならないんでね、離してもらいましょうか」
更にゾクリとするような殺気が俺を襲う。
スキルが知らせる危険とは別種の、生物としての生存本能が教える生身の危険感知なのだと、俺はそう察した。
それは直接俺に向けられたものでは無く、無秩序に周囲へ向けて撒き散らされた悪意に他ならない。
俺は、二の腕に鳥肌が立つのを感じた。
いつの間にか、手前の部屋の入り口に三人の男が立っていた。
その真ん中に居る年配の老人が、その殺気の主だった。
反射的に、ティグレノフが銃口をその男に向ける。
しかし、男は不敵に笑っただけで避ける素振りさえ見せない。
「無駄です。 この敷地内では魔導具さえ無効化される強力な結界が張られていますから。 魔力を馬鹿食いするから、案外と結界を維持し続けるのには手間が掛かるんですよ、生活に必要な魔導具を使うためには、必要とする部屋ごとやフロアごとに、逆位相の結界を張る必要がありますしね」
ずいぶんと大層な自信だ。
目の前に居るティグレノフの巨体を見ても、怯えた素振りがまったく見えない。
魔法が無効化されるエリア内であるのなら、単純な武器の技量と腕力や体力が勝負を決めるはずなのだ。
どうみてもこの男は小柄な老人だし、後ろに控えている二人の男も痩せ型で武器を帯びているようにも見えない。
「お前がメル誘拐の首謀者なのか?」
俺は、そう訊ねた。




