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 5:戦う場所を作れ

 森の中を進み始めてから、しばらく経過した頃の事だ。

 俺は何か妙な感覚、いわゆる違和感とでも言うものを覚えていた。


 気配感知スキルにしばらく前から、俺たちに着かず離れず追ってきている何かの反応があった。

 何だかとっても嫌な感じがして、俺は森の上を見上げた。


 大木が生い茂る森の中を進む俺たちの上方は、空に向かって高く伸びる大木の枝葉が、空へ向けた視界の大部分を塞いでいる。

 そしてその切れ間から見える明るい空に、とてつもなく大きなおぞましい形状をした何かがいた。


 木々の間に僅かに見える空を横切るように、フワリと木の枝から枝へと飛び移って、それは俺たちを追いかけてきているように見えた。

 俺は前を行くイオナに、短く声を掛けた。


「イオナ、上!」

「うむ、警戒を怠るなよ」


 イオナは、まるでずっと前からそれを承知していたかのように、冷静に指示を返してくる。

 狩りとは違って、俺たちを狙っているだろう敵の出現は、俺を少しばかり慌てさせていたけど、イオナの落ち着いた一言で俺は冷静さを取り戻していた。


 例えイオナの冷静さが表面的なポーズだったとしても、リーダーがどっしりと落ち着いているのは、安心感がある。

 なるほど、リーダーとはこうした存在なのだなと俺は感心しつつ、上空に視線を戻した。


 下から見上げる黒いシルエットのそれは、丸みを帯びた巨大な腹と8本の細く長い足を持っている。

 そう、木の高さから推定してみれば、それはまるで信じられない程に巨大な、黒い蜘蛛の化け物のように見えた。


 暗い森の下から空を見上げると逆光になってしまい、その、蜘蛛独特の特徴的なシルエットしか判らない。

 しかも空を背景にして距離感も掴みにくいから、それが実際はどの程度の大きさなのかも判りにくかった。


 俺の感知スキルに引っ掛かっているのはたぶん3匹くらいだと思うけれど、いま現実に見えているのは2匹だけだった。

 それは俺が感知している範囲の中で、明確に個体を分離して数える事の出来たのが、今のところ3つだけだと言う事でしかない。


 奴らは、俺たちパーティのやや後方を、静かに上から追ってきているようだった。

 だけどすぐに、俺は自分の間違いに気付いた!


(いや、違う3匹なんかじゃない!)


 俺は、上空に気持ちを集中し過ぎていた。

 一点に気を取られ過ぎた為に、危険感知スキルの発する異なる反応に、俺は気付くのが遅れてしまっていた。


 改めて感知の触手を全方位に伸ばしてみれば、俺たちの周囲から感じられる違和感の数は、もっと多かった。

 特に、俺たちを両側から挟むように少しずつ接近してくる、別の何かの群れのような存在がヤバかった。


黒鬼蜘蛛エビルスパイダーだとしたら、接近戦は厄介な事になるかもしれないわね」


 俺がその群れについて警告を発しようとした時に、チラリと後方上空に目をやったレイナが、イオナに向かってそう言った。


(ちがうんだレイナ! ヤバイのは、そいつだけじゃない!)


 俺は今とても近くにある危機を知らせる為に、慌てて口を開こうとした。

 まだ『見切り』が発動していない事から、今すぐの危険は無いのかもしれないけど…… 。


 俺はチラリと、前を行く子供な背格好のメルとアーニャ、そして横を軽やかに走る幼女バルに視線を移した。

 だけど、俺以外の誰かが既に狙われているとすれば、まだ俺に『見切り』発動していないとしても、不思議は無い。


「コれだけのメンバーが揃っていテも厄介な相手なんでスか?」


 ヴォルコフが小走りで移動しながらも、山刀を腰に仕舞って背中のフランベルジュに右手を掛けた。


「毒液と粘糸が厄介な相手だけど、1体1ならヴォルコフが勝てない相手じゃないわね」


 落ち着いた口調で質問に答えるレイナの言葉に反応して、直ぐさまその隣を小走りに走っているアーニャが問い掛ける。


「じゃあ何で厄介なの?」


 ヴォルコフ独りでも勝てる相手が、何故厄介なのだろう?。

 つい、俺の考えが横道に逸れそうになった時、俺の頭の中でアラートが鳴り響いたかように、違和感のレベルが急上昇した。


(更に別の何かが、急接近してきている!)


「黒鬼蜘蛛は、赤鬼蜘蛛と違って群れで狩りをするのよ…… 」

「別の何かが俺たちに接近中だ! その前に両サイドから来るぞ!」


 レイナがヴォルコフの質問に答えるのと、俺が大きな声で警告を発するのは、ほぼ同時だった。

 森の中を走り抜けながらレイナが背中から剣をスルリと抜き出すと、ティグレノフとヴォルコフもそれぞれの剣を抜いた。


 ちなみに、イオナがあっちの世界で俺に試作品だと見せてくれた拳銃型の魔導具は、まだイオナから配布されていない。

 俺は、元軍人の二人には剣よりもそれを配布するべきなんじゃ無いかと思って、チラリとイオナの方を見た。


 メルとアーニャも弓を左手に握って、背中の矢筒から矢を取り出している。

 バルはと言えば、さっきまでは横をトコトコと走っていたのに、俺の警告を切っ掛けにしたのか、自然と位置取りがアーニャたちの近くになっていた。


 既に両サイドの茂みからは、ガサガサと多数の何かが俺たちと平行して駆けている物音と、複数の荒い息づかいが明確に判別できる音として聞こえていた。

 前から感じる雰囲気が、後ろからでも判るほど緊張感溢れるものへと変わったように思える。


 もう無駄口を叩いているものは、一人も居なかった。

 たぶん全員が迫り来る戦闘を予測して、ピリピリと緊張していた。


「ここで大きな剣を振るうには、立木が邪魔で場所が悪いわ!」


 レイナが、小声でイオナに告げた。

 イオナは、事も無げに答える。


「なに、無ければ作るさ」


 イオナが、そう言ってから俺の方を振り向いた。

 その顔は、何故か笑っていた。


「お、俺が?!」


 俺は走りながら、右手で自分を指差していた。

 だって、俺の魔法はまだ…… 


「時間はわしが作ってやるでな、やってみせい」


 いきなりの無茶振りに戸惑っている俺に、イオナがニヤリと笑って何事かを短く呟き、すぐにそれを終えた。

 そして前方へ走りながらも、クルリと舞うように小さく振り向きざまにロッドを振るうと、俺たちの後ろへ向かって魔法を放った。


 次の瞬間、ギャン!とでも表現したいような、まるで犬の悲鳴のような切ない鳴き声が一回だけ、俺たちのすぐ後ろから聞こえた。

 その悲鳴の主が、たぶん俺たちを襲おうとしていた群れの仲間なのは間違いないはずなのに、ちょっと胸が痛んだ。


 立木越しに俺たちの両サイドを平行して走っていた何かの群れが、その物音に反応してやや速度が落ちる。

 それとほぼ同時に、後方の茂みに何かが転倒して衝突したような鈍い音がした。


 恐らく、イオナが最後尾の何かに雷撃を喰らわせて転倒させたのだろう。

 その気になれば、間違い無く全滅させる魔法だって使えるだろうに、わざわざ回りくどい事をした理由を、俺は察した。


 きっと、こんな状況でもまだ、イオナにとっては訓練のつもりなのだ。

 その余裕がどこから来るものなのか判らないけど、この程度で俺たちが全滅することは無いと思えばこそなのだろう。


 後方からは倒れた何かがあった場所に向かって、すかさず何かが上から落ちてきた。

 それは木の枝がバキバキと折れるような重い音と、木の葉がザザザと擦れる擦過音に続いて、ドサドサッ、ドサッと言うような鈍く湿った音が三つ続けて聞こえてきた事で判る。


 それと間を置かずに、犬の発する断末魔の濁った悲鳴のような、痛々しくも胸を打つ大きな鳴き声がした。

 全員がそれにピクリと反応しているくせに、それでも無言で走っている。


「犬好きには、耐えられない鳴き声だね」


 少し間を空けてアーニャが呟き、メルが頷いた。

 ティグレノフとヴォルコフも、それに同意して小さく頷く。


 後ろで何が起こっているのか判らないけど、イオナに倒された最後尾の何かが、恐らく上から落ちてきた別の何かに襲われたのだろう。

 俺たちの両サイドを走っていた何かの群れが、その断末魔の鳴き声に反応して急停止すると、急いで後方へと引き返し始めたのが判る。


「和也、今じゃ!」


 イオナの指示で俺たちは一斉に立ち止まり、アーニャとメルを背にして守るようなポジション取りで、それぞれが得意な武器を構えていた。

 俺は見様見真似で、イオナがこちらの世界に来て最初に使ったような木属性魔法を使ってみる事にした。


 片膝を突いて腰を落とし、地面に両手をつける。

 俺は心の中で、この世界に来てすぐにイオナが使った魔法をイメージした。

 木属性魔法で周囲の木々を動かして、みんなが戦えるだけの空間スペースを作るのだ。


 俺は少しでも早く結果を出そうと少し焦ってしまい、ゲームで言うところのレベル1相当になる程の魔力を、よく考えずに急いで放出した。

 しかし最低レベルと言っても、こっちの世界では膨大な魔力量になってしまう事を俺は忘れていた。


 間髪入れず、急速に周囲の大木が反応した。

 俺を中心にして、バキバキと枝を打ち鳴らしながら周囲の木々が、どんどんと遠ざかって行く。


 周囲にあったはずの木々は、止まらずに遠ざかって行った。

 そう、遙か彼方へと…… 


「えっと…… 」


 こちらの世界に来てから毎日練習していた、魔力のコントロールを忘れていた事に気付いたのは、周囲に広大な空き地が出来てからだった。

 下手をすれば、その直径が1kmは楽にありそうな何も無い広い空間が、俺たちの周囲に出来上がっていた。


 今までのレベル1の魔力量をバスケットボールに例えるなら、ハンドボール大に、そして野球のボールサイズからビー玉サイズまで、果てはパチンコ玉や6mmBB弾サイズにとどまらず薬の顆粒レベルまでと、微細な魔力コントロールを練習してきたはずだった。

 今回作りたかった接近戦闘用の空き地は、直径10mもあれば充分だったはずだったのに、今ここに出現したのは、見渡す限り何も無い広大な空き地だ。


「…… 」

「…… 」

「…… 」


 頭痛がするかのように、イオナがロッドを握っていない方の右手を頭に当てた姿勢で、黙って下を向いた。

 レイナは呆れたように、地面に軽く突き刺した剣の柄に両手を乗せて俺を見ている。

 ヴォルコフとティグレノフは顔を見合わせ、アーニャとメルはキョトンとした顔をして、広大な空き地が出来た空間を見回していた。


「ふむ、ここに立派な村を作れそうじゃの」


 僅かな沈黙の後で、イオナがようやく言葉を発した。

 他の全員も、その言葉に小さく頷いている。


「それよりも障害物が無くなって、敵の数と正体がハッキリしたようじゃぞ」


 俺たちの後ろを向いていたバルだけが、この場で一人冷静だった。

 その声に全員がハッとして、バルの指し示している方に顔を向けた。


「何なの、あれは!」


 アーニャが驚いたのも無理は無い。

 俺たちの50m程後方には、体高が3m以上はありそうな巨大な黒い蜘蛛がいた。


 大きな腹を含めた胴体の全長は恐らく3m~4m程あるだろうか、棘のような体毛の生えた細長い足まで含めれば、その横幅はもっとありそうだ。

 ロングサイズのワンボックスカー程ある巨体に、街灯の支柱のような太さの長い足が生えていると考えれば、少しは判りやすいかも知れない。


 ちなみに俺は、あっちの世界でも蜘蛛とゴキブリが大嫌いだった。

 だから、こんな化け物は一刻も早く、そして一片も残さず抹殺してしまいたいくらいに、それをおぞましいと感じてしまう。


 駐車場を3面~4面くらいは楽に占めそうな、多数の真っ赤な目を爛々と光らせた黒い大蜘蛛が3匹、何故か1カ所に集まっていた。

 その足下には、白銀色の長い体毛をした軽乗用車サイズのバカでかい犬?、あるいは狼のような化け物が力無く倒れてるのが見える。


 黒い大蜘蛛たちの周囲を、倒れた化け物より少し大き目で、2m程の体長で白銀色のふさふさとした体毛をもった、犬というか狼のような同じ化け物が取り囲んでいる。

 そして、その中に一際大きな体躯の個体が一匹だけ居るのが見えた。


「あれが群れのボスのようじゃな」

白銀狼ぎんろうなんて見るのは、久しぶりねイオナ」


「うむ… なにせ、こっちの世界は72年ぶりじゃからの」


 ノンビリと話をしているのはイオナとレイナだけで、それ以外ではバルを除く全員が異様な光景に度肝を抜かれていた。

 バルは興味深そうに、おぞましいそれを眺めている。


 狩りと訓練で、ある程度は判っていたはずなのに、生き物のサイズが元いた世界とは桁違いに大きい事には、まだ慣れない。

 その上、そんな常識外れの生き物が、すぐ間近に群れで存在しているという光景を目の当たりにして、度肝を抜かれない訳が無いだろう。


 こんなのを相手にして本当に訓練になるのだろうかという不安と疑問が、俺の心に浮かんでは消える。

 今まで、訓練と食料補給のために何度も狩りにも出かけたけれど、こんな状態で森に棲む捕食者である此奴らの集団と接近遭遇する事は、幸運にも無かったのだ。


 それはただ、運が良かっただけなのかもしれないけど…… 


 レイナに白銀狼と呼ばれたその獣は、俺の知っている普通の獣には無い特徴を持っていた。

 奴らは3匹の大蜘蛛をグルリと取り囲むように展開して、凶悪な長い牙を剥き出して威嚇をしている。


 ボスが一声大きく吼えると、それまで鼻面に深い皺を寄せて威嚇していた白銀狼たちの逞しい肩から禍々しい黒金色の大鎌が二つ、大きく左右に飛び出した。

 そしてそれを翼のように広げて、集団で大蜘蛛に斬りかかる素振りを見せている。


 大蜘蛛も数で押されている事が判るのか、三匹が背中合わせに集まって周囲に粘りつく太い糸を吐き出し、うかつに白銀狼が飛び込めないように威嚇している。

 最初は標的だったはずの、俺たちの事は既に奴等の眼中には無いらしい。


 大蜘蛛の下に横たわっている白銀狼は、ぐったりして動かない。

 イオナは、「毒か消化液を注入されたのじゃろう」と、呟くように言っていた。


 3匹の大蜘蛛に対して、白銀狼の群れは15匹を超えている。

 だから、勝負は時間の問題だろうと俺は思った。


 事実、大蜘蛛は一塊になって防御姿勢を取っている。

 だけど白銀狼の群れも毒のある糸に絡め取られるのを恐れてか、彼らの武器を使った攻撃が当たる距離に近づけずにいた。


 中々つかない決着に痺れを切らせたのか、粘りつく太い糸を警戒して突っ込めない配下の白銀狼たちに苛ついたのか、ボスらしき一際大きな一頭が、突如!空に向かって長く高く吼えた。


 ビリビリと空気を振るわせる大きな遠吠えの声は、思わず俺たちが耳を塞いでしまった程に強烈な咆吼だった。

 その声を聞いた途端、俺の体が痺れて自由に動かせなくなる。


 他の仲間になんとか視線を向けると、みんな同じように苦しそうな顔をして動きが鈍い。

 すぐに俺は『超回復』が発動して正常に戻るけど、他の全員はその場に立っていられず、剣や弓を地面に突き立てて必死で体を支えていた。


「あの遠吠えには、状態異常効果があるのか?!」


 俺はゲームの状態異常を想い出しながら、独りごちた。

 これはまさに、麻痺効果のある遠吠えじゃないか。


 俺たちの中でも群を抜く巨体で筋肉の塊のようなティグレノフは、まだ必死の形相で戦闘態勢を保っているけど、背が高い割に細マッチョなヴォルコフは、見るからに苦しそうだ。

 これがゲームの世界なら、STR-VIT特化型のティグレノフはDEX-AGI特化型のヴォルコフよりも状態異常耐性があるって事になるけど、現実でもそんな感じだ。


 すかさず、俺は全員に定石通り『キュア』を掛ける。

 たちまち、俺の解毒魔法の効果で体の自由が戻り、深く息を吐き出したそれぞれが、すぐさま自分の武器を握り直し始める。


 突然、ずっと黙って居たバルが口を開いた。

 そういえば、何故かこいつだけは状態異常に掛かっていなかった事に、俺は気付いた。


「あれも、恐らく若手の訓練じゃな」

「ふむ、そのようじゃの」

「そうね」


 それに麻痺から回復したイオナが応え、同様にレイナが頷く。

 なんで三人とも、こんな状況でも冷静なんだよ。


 あそこで『キュア』を掛けなければマジでヤバかっただろと、ちょっと不安に思う俺がいた。

 まあ、精神的なダメージがいつまでも後を引くようなリーダーたちじゃ、困るけど。


「そういえば、戦ってるのは回りで見ている個体に比べて、ちょっと体が小さいわね」

「体の線も、どことなく細い感じがするね」


 ダメージの欠片も無く立ち直ったアーニャの感想に、メルが同意した。

 まさか俺以外はみんな冷静だって事なのかと、俺はロシアン獣人の二人を見る。


「なるほどね…… 」


 ヴォルコフとティグレノフもすっかり落ち着いていて、バルたちの見解に頷いていた。

 そうですか、冷静じゃ無かったのは俺だけでしたか…… 


 あらためて白銀狼たちを見てみれば、ボスらしき一際大きな一頭とその周囲を固めている数頭に比べて、大蜘蛛を取り囲んでいる10頭程の銀狼はちょっとだけ体も小さく見える。

 恐らくみんなが言う通り、まだかなり若い個体なのだろう。


 考えて見れば一際大きな奴が群れのボスなのは一目瞭然だけれど、あっちの世界の知識で考えれば、その周りの数頭はハーレムのメスなのだろうと思えた。

 戦っている若手に注意を向けている(たぶん)メスたちに比べると、ボスらしき一頭だけは俺たちに対しても、チラチラと油断無く注意を向けていた。


 そのボスらしき大きな銀狼は、大蜘蛛と俺たちが同時に視界に入る位置取りをしていて、油断無く両方を気にしている。

 なるほど、これが仲間を守るべきボスの役割なんだなと、敵ながら俺も納得せざるを得ない行動だった。


「和也兄ちゃん、あれ見て!」

「イオナ!!」


 メルが白銀狼たちの後方を指差して叫び、同時にレイナがイオナに向かって小さく警告の声を発した。

 2人が指し示す広い空き地の外周あたりから、黒い何かの集団が地面を覆い尽くすように、こちらに向けて迫って来ていた。


 それは、群れで狩りをするという黒鬼蜘蛛らしき集団だった

 やつらは、俺たちの目の前で銀狼と戦っている三匹だけでは無かったのだ。


「恐らく、あの三匹は監視役の斥候なんじゃろう」


 イオナが短く、そう言い放った。

 先ほど取り戻した筈の冷静さと余裕が嘘だったかのように、全員に緊張が走る…… 


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