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42:迷宮とオッドアイの美少女

 ひんやりとした室内の空気が、俺の頬をスルリと撫でながら外へと過ぎていった。

 遺跡の入り口から中に足を踏み入れてすぐ、背後で木材が擦れ合って軋むような、そんな重苦しい音が薄暗い空間に響き渡る。


 何の前触れも無く、注意を促すような掛け声一つも無く、俺の背後で門番が扉を閉じようとしているのが判った。

 前を行く連中もそれに動じた気配は無く、それが当たり前であるかのように振る舞っている。


 徐々に入り口から室内に差し込む外の灯りが細くなり、やがてドンと言うような音がして、入り口から差し込む光は途絶えた。

 ダンジョン探索用の『暗視』スキルを使うまでも無く、薄暗い中でも室内の様子は判別がつく程度の照明が設置されているようだ。


 俺が居る最初の空間は、さほど広くない。

 教室の半分くらいに思える狭い室内には、俺たち以外誰も居なかった。


 土でも木でもない石造りのような固い床は所々がひび割れていて、部分的に盛り上がっていたりするので、フラットな部分を探す方が難しそうだ。

 上や横を見渡せば、天井や壁にも同様な亀裂がいくつも走っていた。


「ん?」


 俺は天井から、何かを取り外したような痕跡を見つけた。

 そこだけが、妙に周りと違った色をしていて、汚れが少ない。


 隣にいるバルの右腕を指先で突いて、それを指し示そうとした俺はその柔らかさと弾力に驚いた。

 その、何ていうんだろう…… こう言うのを上手く表現するには、俺のボキャブラリーが乏し過ぎて適当な表現が見つからないけれど、これがいわゆる女の子の柔らかさって奴なんだなと俺は思った。


 そんな柔らかで女性的な感触は、俺の中に一つの痛い記憶を呼び起こす。

 それは、不本意な結果に終わってしまったけれど、あっちの世界に置いてきてしまった紫織の事だ。


 俺は心の中の動揺を必死で隠して、俺に向かって振り向いた可憐な美少女形態のバルに、天井にある四角い跡を指差して見せる。

 その様子を見た誰かが、俺を小馬鹿にしたような口調で言った。


「なんだ珍しい物でも見つけたのかと思えば、そんな物が珍しいのか? 上の階層にめぼしい物が残ってる訳ないだろ」


 男達の中から、冷ややかな笑い声と何も知らない俺を嘲笑うような話し声が聞こえた。

 足手まといのサイガを連れて、バルと二人だけで魔獣ひしめく森の深部まで来られた事、そしてそれなりの魔法が使える事を示したことで勝手に実力者と思っていた俺が、ド素人のような素振りを見せたのが相当に嬉しいようだ。


「ここからしばらくは探索も終わっていて、下の階層からの避難所とか休憩場所みたいなもんなんだが…… お前たちは、もしかして遺跡に入るのが初めてなのか?」


 イストから、突然そんな問いかけがあった。

 俺を見るその目は薄らと半目になっていて、いわゆる疑いの眼差しという感じだ。


「まるで、冒険者なら遺跡に入るのが当然みたいな言い方なのね」

「え?!」


 バルの発した言葉に対して、真っ先に違和感を覚えたのは他の誰でも無くて、俺だけだ。

 つい俺の口を突いて、無意識に疑問を差し挟む声が漏れていた。


 だって、『~のじゃ』とか『わしは…… 』とか言う、耳慣れた言葉を使わないバルなんて…… 普通の女の子みたいな言葉を使うバルなんて…… 

 いや、凜とした超絶美少女の姿をしたバルには、むしろ似合っていると言うか、普通というか、この姿のバルしか知らない男達には何の違和感も覚えない、普通の言葉づかいなんだろう。


「いや、全員って訳じゃないんだろうが、同じ危険なら狩りをするよりも金になる可能性の高い仕事をやらないってのは、俺としては有り得ないと思うがな」


「わたし、あんまりカビ臭い仕事って好きじゃ無いのよね」


 イストの疑念を気にする素振りも見せず、サラリとバルは言ってのけた。

 それは、個人的な趣味嗜好の問題だと。


 変に無理のある理屈をこねるよりも、開き直って趣味じゃ無いと言い切ってしまうのは、相手が頭の切れる奴だとしても理屈で突っ込みにくい回答なのだろう。

 美しい女性から『それは趣味じゃ無い』と感情論で言い切られたら、男には理屈で対抗する術は無いみたいだ。


 そう答えられるとは思っていなかったと見えて、イストは無意識に頭を後ろへ少し引いたように見える。

 その時、サイガを詰め込んだ麻袋のようなものが、大きく動いた。


「こんなところで揉めてないで、早く俺を出してくれよ。この中は狭くて窮屈なんだよ」


 袋の中から聞こえてきたサイガの声で、俺たちに対して疑念を抱いたであろうイストの追求は、うやむやに終わった。

 俺は、連中がサイガを袋から出す動きの中で、不自然に距離を取った位置取りでバルにこっそりと耳打ちをする。


「お前…… ロリババアの口調は、作ったキャラだったのか?」


 それは何の事だとばかりに小首を傾げて、俺の方を振り向いた美しいバルの印象的なオッドアイに見つめられて、同年代ではあっちの世界に残してきた紫織以外の女性に慣れていない俺は、意味も無くオドオドとしてしまう。

 それに気付いたバルが、薄く赤い唇に可愛く白い歯を少しだけ見せて、クスリと笑みを漏らす。


「わたしは、カズヤがロリコンじゃなくって安心したわよ」


 小声でそう言いながら、俺の耳元に顔を近づけてくる。

 反射的に逃げようとする俺の袖口を掴んだバルに、俺は簡単に引き戻された。


「この場だけじゃ、安心せい」


 俺は、やっぱり女の言う事を素直に信用することは止めようと、心に誓った。

 何が本当のバルなのか、俺にはまったく判らない。


 袋から出して貰ったサイガは、臆することもなく悪びれる事もなく、両手を伸ばして大きく伸びをしていた。

 そして、大人サイズのバルを見つけると訝しげな表情を作り、問いかけるように俺の顔を見てから、再びバルの顔に視線を戻す。


 俺は、この場で変な詮索は止めろとばかりに、サイガにだけ判るように小さく顔を左右に振る。

 その意味するところが解ったのか。それとも解っていないのか、そこまでは判らないけれど、サイガは大人サイズのバルに向かって『誰なのか?』と問いかける事はしなかった。


 それからサイガを先頭に立てて、下の階層へと俺たちは向かう。

 遠距離術者は後衛に回れという、オーソドックスなイストの指示に異議を申し立てて、俺とバルは敢えてサイガの後ろに着いた。


 彼らとしても、最も危険度が高い斥候や前衛の役割を俺とバルが志願した事で、何処かホッとしているようにも見えた。

 男達の中からバルだけでも後ろに下がれという声はあったが、余所者である俺たちが危険度の高い位置に着く事そのものに対して、彼らとしても特別に異論は無いようだ。


 イストとの約束通りに先頭を歩くサイガと、その両脇を守るように固めている俺とバル。

 俺がサイガの右側に立ち、バルは左側に位置している。


 イストたちは、俺たちから少し離れた位置から着いて来ていた。

 それは何かが起きた時に、近くに居て巻き込まれる事を恐れた位置取りなのだろう。


 サイガは小剣を腰に差して、左手に取り回しの良さそうな小型の弓を握り、右手には矢を二本握っていた。

 弓を持つ左手には木製の丸く小さな盾が、革のベルトを使って簡単には外れないように固定をされている。


 俺は素手のままで、ヒップホルスターに収めた魔導ハンドガンの感触を確かめながら、慎重にサイガから少し遅れた右位置をキープしていた。

 バルはと言えば、美少女形態になっても幼女形態の時と同じように、無造作に恐れる物も無いのか、飄々とした様子でサイガの左位置を歩いている。


「いいか! 既に探索が終わったと思われている階層にも、後から隠し部屋が見つかった先例がある。 慎重に壁の様子を確かめながら、おかしな点に気付いたら通り過ぎないで、一つずつ確認して進むんだぞ」


「それからな、魔物や魔獣の討伐が終わったはずの階層からも、新たな魔物や魔獣が出現する事が頻繁にあるんだ。 探索済みだからと言って、油断をするなよ」


 イストからの指示を受けた後に、他の誰かから油断をしないように釘を刺す声が聞こえる。

 そうは言っても、入り口を扉が塞いでいる上に冒険者ギルドの門番が守っているはずなのに、どうして魔物とか魔獣とか言うものが湧くのか、それについての説明は無かった。


 考えられるとすれば、下の階層から上がってくるとか、何処かで外と繋がっていて、そこから紛れ込んでくるとか、そんな事しか想い浮かばない。

 そもそもが、複数の小さな小部屋で区切られた各階層の構造は、まさしくゲームで馴染みのある地下迷宮ダンジョンそのものだ。


 探索の終わっている階層は軽く壁を探る程度で済ませ、俺たちは下の階層へと向かう。

 イストが指示するままに広くもない通路を進むと、途中に見える狭いフロアの一角に一段高くなった四角い土台と、円形の複雑な図形が描かれたフラットな床があった。


 それを遠目に見て、俺は確信した。

 ゲームでの知識から得られた答えは、これが下の階層への転送エリアだと言っている。


 動力を何から得ているのか判らないけれど、この遺跡に何度も入っているらしいイストが指示するのだから、この場所はまだ生きているのだろう。

 その時、床に向けていた俺の視界を何かが横切った。


 俺はとっさに『ファイアーボルト』を一発放ったつもりだったが、何の魔法効果も生じない。

 やはり想定していた通りに、魔法無効化のペナルティは現実のものとなっていた。


 素早く俺たちの前を横切る小さな影に、素早く反応したのは意外にも先頭のサイガだった。

 初手の魔法が発動しないことに慌てた俺が、ヒップホルスターの魔導ハンドガンに手を伸ばした時には、既に彼が手にしていた矢の一本が小さな影にヒットしていた。


 薄暗闇を通して、ギャン!と言うような小獣の短い悲鳴が聞こえる。

 その獲物に駆け寄るサイガを見て、俺とバルがそれを追いかけた。


「おい! どうした? 何があったんだ! まだ化け物が出る階層には、辿り着いてないぞ」


 後ろからイストの叫び声がして、同時に彼の仲間たちがこちらに駆け寄ってくる複数の足音も聞こえた。

 急に俺たちが駆けだしたから、少し後ろを歩いていたイストたちが訳も判らずに、追いかけて来たらしい。


「やった! こいつ、カルキンだ」


 サイガの誇らし気な叫び声を聞いて、とたんに気が抜けたような声が後ろから聞こえる。

 いわゆる、『紛らわしい真似をするな』というような、勝手な行動を取ったサイガを咎めるような、そんな愚痴が聞こえたって事だ。


「どっから入ってきたんだ? そいつは」

「やっぱり、ここはどこかで外と繋がっているみたいね」


 バルの女の子っぽいセリフが、思っていたよりも間近で聞こえた事で、慌てて振り向く俺。

 その、金と青みがかった銀のオッドアイは、俺の顔のすぐ真横にあった。


 慌てて反射的に、遠ざかろうとする俺。

 屈んでいた足がもつれて、その場に尻餅をついてしまった。


「ちょっ! お前、前触れも無くそんなに近寄るなよ。 ビックリするだろ」


 俺は、醜態を見せてしまった自分自身の狼狽を隠す為に、すこしばかり強引で無理な言い分をバルに対して言ってしまう。

 彼女に何の悪気も無い事は俺自身が一番解っているのだけれど、そんな小さな事で狼狽え、そして激しく動揺をしている自分自身が何よりも恥ずかしかったのだ。


「なんだ魔法使いの兄ちゃん、お前たちは出来てるんじゃないのか? その女慣れしていない様子からすると、まだそういう関係じゃねーんだな」


 語尾に、『(笑)』とか『w』とか付いていそうな口調で、小太りなマルコムと言う男が俺を揶揄する。

 隠す気も無い彼の言葉の意図を読み取って、内心では『こんにゃろう!』って思うけれど、あまりにも図星過ぎて何も言い返せない。


 他の連中も、俺の事をマルコムと同じように思っているのだろう。

 ニヤニヤとした嗤いが、彼らのその表情から漏れていた。


 ミゲルという魔法剣士などは、あからさまな嘲笑を顔に浮かべている。

 俺は頬から火が出るかと思う程に熱くなって、もしこの場で魔法が使えていたら、ここを火の海にして奴等を一人残らず焼き払い、後先考えずに外へとテレポートしたいと思った。


「あーら! 純情そうに見えるけど、けっこうカズヤってあっちは凄いのよ」


 そう言って、バルが俺の左腕を自分の胸元に引き寄せる。

 人間業とも思えないバルの力で、俺は抵抗する事も出来ずにピッタリとバルに密着してしまった。


「ちょっ! バル、おいバルさん! お前、自分が何をやってんのか判ってんのか? てか、当たってる、当たってるっての」


 密着した体勢のままで、俺の顎の下辺りにあるバルの形の良い右の耳元に、俺は慌てて囁く。

 さほど力を入れているようには見えないのに、俺の体はピクリとも動かせない。


 て言うか、俺の左腕は完璧にバルの豊かな胸の谷間に挟まれていて、その柔らかいような、それでいて弾き返すように弾力があるような、不思議な感触で目眩がしそうだ。

 俺の頭に、再び夢で見た夏祭りの水風船と結び目のコリッとした感触が蘇ってしまい、慌ててそれを打ち消した。


「ちっ! 場所をわきまえやがれ」

「なんだよ、結局出来てるんじゃねーか」

「ゴリラ獣人みたいな顔の癖に、生意気だぜ」


 気が付けば、先程までとは正反対な声が聞こえていた。

 馬鹿にされていたと思ったら、実はバルと一緒に居る事に嫉妬をされているのだと気付いて、俺は少し心に余裕が生まれて楽になる。


 それでも、美少女形態のバルと密着したままなのは、心臓に良くない。

 俺はバルに、そろそろ離して欲しいと囁いた。


 バルはニヤリと笑って、ようやく俺を解放した。

 そう、手を離してくれたという生やさしいレベルじゃなくって、まさしく拘束から解放されたのだと、俺は感じていた。


「それじゃ、先に進みましょ」


 そう言うと、バルは転送場所と思われるような円形の図形――たぶん、転移魔法陣の方へと独りで歩き出した。

 一瞬、何か地雷を踏んでしまったのかと自分の言動を振り返るけれど、俺には何も判らない。


 俺はバルを追いかけるその足で、サイガの横を通り過ぎる時に彼の背を軽く押して、先へ進む事を促す。

 そんな俺に向かって、サイガが無邪気に問いかけてきた。


「なあ、兄ちゃん。 あのチビっ子は何処へ置いてきたんだ? あの綺麗な姉ちゃんは、いったい何処から来たんだ?」


「それは後で説明するから、とりあえず先に進もうぜ」


 俺は曖昧に言葉を濁すと、サイガに先へ進むように言った。

 サイガの疑問はもっともだけれど、騒ぎにさせずにそれを彼に説明するのは、とても難し過ぎる…… 


 一足先に転移魔法陣と思われる円の中央に立ったバルの姿が、一瞬で掻き消すように居なくなった。

 慌てて、俺もサイガとその後を追う。


 軽い視界の暗転があった後に、俺とサイガは今までと同じ魔法陣の中に居ることに気付く。

 転送失敗なのかと俺は一瞬焦るけれど、俺の目の前にはイストたちでは無く、美少女形態のバルが居た。


 なるほど、同じ魔法陣だから錯覚を起こしたのかと納得した俺は、魔法陣の外へ出る。

 間を置かずに、後ろでブンと唸るような音がしたかと思えば、振り向いた俺の目に魔法陣の中に出現して来たイストたちが見えた。


「おい、お前ら。 勝手に行動するな! どんな化け物が待ち伏せしているか、行ってみないと判らないんだからな」


 イストは、血相を変えてそう主張する。

 確かにその通りだと納得した俺は、それ以降全員が揃うのを待ってから、転移魔法陣に飛び乗ることにした。


 そうやって、俺たちはいくつもの転移を繰り返した。

 途中で出会った冒険者たちは数少なくて、先に入った冒険者達は未踏の階層を目指して、競争のように先を争っているのだとイストが説明をしてくれた。


 何故イストは、その競争に加わらないのかと問うた俺に、彼はこう答えた。

 それは、命が惜しいからだと。


 真っ先に未踏の階層へ辿り着けば、それだけ金になる遺物を発見する事もできる。

 だけど、誰も辿り着いていないだけに誰からも討伐をされていない区画は、魔獣や化け物の巣窟になっている事が多いそうだ。


 だから、ある程度討伐が進んで転移エリアの周辺だけでも、安全が確保された頃にイストたちは出かけるのだと言っていた。

 危険を顧みずに未踏の階層を目指すのは、中級でもシルバーのような不死身と呼ばれるような特殊な能力を持った実力者たちが主で、それ以上のランクのパーティも多いらしかった。


 シルバーの話題が出たついでに、彼について聞いてみたら、面白い話が聞けた。

 彼が不死身と言われる所以は、パーティが全滅するような戦いを何度も繰り返しているけれど、彼だけはケロリとして帰ってくるからで、別名を『死神シルバー』とも呼ばれているそうだ。


 彼について行く冒険者たちは、シルバーが酒場で話す金になる武勇伝につられた、一攫千金を夢見る生活破綻者が多いのだと、イストは吐き捨てるように言っていた。

 打算的で冷酷な奴だと思っていたイストだけれど、そういう話を聞くと少しはまともなんだなと、妙に関心をしてしまった。


 そんな雑談を繰り返しているうちに何層目かの転移魔法陣に到達した俺たちは、今までと同じようにタイミングを合わせて魔法陣に乗ろうとしたが、イストがそれを止める。

 何があるのかと振り向いた俺たち三人に向かって、イストが冷酷に告げた。


「ここからは、お前たちが先に行くんだ。 俺たちは少しタイミングをズラして行く」


 なるほど、そろそろ未踏の階層が近いのだろう。

 俺は、確認のために自分自身に『ブレス』を掛けてみるけれど、まだ何の反応も無い。


 もうそろそろペナルティが終わるはずだけれど、正確にそれが何分後なのかは判らない。

 あのスキルを使う時に、時計を合わせておくべきだったと少し後悔をした。


 俺は、ヒップホルスターの魔導ハンドガンに右手を添えて、それが有る事を確認してからバルたちと一緒に魔法陣に飛び乗る。

 僅かな暗転の後に、何も無い部屋が視界に入ってきた。


 今までの階層に比べると、照明の数が明らかに少ない。

 ぶっちゃけて言えば、薄暗かった。


 俺はハンドガンを抜いて、右手に握る。

 イオナから教わった通りに安全装置を解除して、スライドを左手で止まるまで引く。


 実銃じゃ無いんだから、そこまで凝る必要も無いと思うんだけど、そこはイオナの趣味が入っているから、仕方ない。

 一応イオナから受けた説明では、コッキングをする事で魔石のセットされた弾倉と発射機構の魔導装置が、魔力的に繋がるのだそうだ。


 イストたちは、まだ転移して来ない。

 左手をそっと右手のグリップに添えた俺の耳に、バルの呟く声が入ってきた。


「血の臭いがするわ」


 いや、イストたちが居ない場所では、ロリババア口調でお願いしますよ、バルさん。

 同年代でオッドアイの金髪美少女が、普通の女の子っぽい口調で話すと、リアルに動揺するんだって、俺が。


 しかも、ピッチリした迷彩服は、ダイナマイトなボディラインが丸わかりなんすから…… 

 俺は、魔法が使えるように戻ったら、真っ先にバルの服を緩めに直そうと心に誓った。


「カズヤ! おぬしは、わしの言った事を聞いておるのか?」

「兄ちゃん、なに狼狽えてるんだよ。 さっきから、ずっと変だぞ」


 二人からそんな言葉を浴びせられて、俺は自分が既に冷静さを欠いていることに気付いた。

 それもこれも、みんな美少女モードのバルが悪いんだ。


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