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八話

 手を引かれるままに、雑木林だか森だか山だかの中を駆ける。

 駆けるというか小走りというか。

 どうしてもこの体ではリオンの速さについていくのが辛くて厳しい。

 それに見た目重視のお人形が履くような靴だから余計に辛い。


 かなり長い時間を走り続けた気がするけれど、まだそれほどあのアジトからは離れていないんだろう。

 真っ暗で頼りになるのは月明かりだけ。

 道も舗装されているわけではないし、躓きそうになってはリオンにうまい事フォロ―してもらう事を繰り返す。てかもう無理。限界。


「り、リオン、まっ……て」

「ルナティナ嬢、辛いかもしれないけれど、まだそんなには離れては」

「ち、違う。あれ、作って。は、はあ、氷の刃」


 走りすぎて、口の中に鉄の味が広がる。

 急に立ち止まったからか足がじんじんしてきたし、今座り込んでしまったら立ち上がれなくなる自信しかない。というか、あんまり休憩とかいれずに走った方がまだ距離は稼げるのかな。ぐずぐずしてたら足に根が生えて動けなくなってしまう。


「リオン、早く! 私に刃を!」

「え? だから、あ、はい」


 片手を催促するようにリオンの方に出して、目線は自分のドレスへと向ける。

 私の髪の色によく栄えるからと、乳母が選んだ赤を基調としたレースだらけのドレス。そのドレスをもう片方の手で鷲掴みにする。


「わ、足が。あ、はい。どうぞ!」

「ありがとう」


 なんだか上ずった声で後ろ向きに手渡されたけど、気にせずに受け取って思い切りよくドレスに刃をいれる。

 出来ればハサミの方が良いんだけどな。でもリオンの作りが良いのか、氷の刃はよく切れる。


 足首まで隠れてしまうドレスなんて、こんな場では邪魔以外の何物でもない。

 膝より少しだけ上の位置。思いきってざくざくと切って行く。

 それでもってぽいっとちょっとだけヒールのある、ドレスとお揃いの靴を脱ぎ棄ててじくじくとつま先やら踵やらが痛くて悲鳴を上げる足に布切れと化したドレスの残骸をぐるぐると巻きつけて即席の靴を作る。うん。良い感じ。あとは切れ端で髪を結べばオッケー。


「あれ? こうして……こう……あれ?」

「あの、ルナティナ嬢。もう終わりましってルナティナ嬢!?」


 あーとかうーとか唸るリオン。

 暗くてよく見えないけど、若干顔を赤くさせてる気がする。

 さっきまでは息切れすらしてなかったのに。

 やっぱりリオンだって子どもなんだし、疲れてるのを我慢してたのかな。


「これでさっきよりは走れると思うの。でね、出来れば髪を結びたいんだけど、出来なくって。」


 切れ端を渡したら、リオンは格好がとかもごもご呟きながらも視線は私の足に降りて行って急に年相応の慌てた男の子の顔から真面目な顔になる。

 うん。切り替え早くて怖いよ。

 でもそんな真面目な顔も一瞬で、ふっと笑って髪を結んでくれた。

 鏡がないから確認出来ないけれど、ポニーテールっぽく結んでくれたんじゃないかな。うん。これで髪がまとわりついたりとか、ドレスの裾が邪魔で転んだりとかはなくなったから、結構走りやすくなったはず。


「ありがとう。さあ、走ろう」


 手をずいっとリオンに差し出す。

 引っ張ってもらわないとリオンをすぐ見失ってしまうし、ついて行くのも難しいからね。


「ルナティナ嬢……君は」

「なあに? ね、早く逃げようよ。いつ帰ってくるかわからないし、遠くに逃げなきゃ」

「リオン・エイタット・ダクルートス」

「うん?」

「僕は父方の性を継いで騎士になる。だからリオン・ダクルートスで覚えて。僕の名前をあげる。絶対、守るから!」


 少しだけ緊張して上ずった声で伝えられる。

 リオンの表情は暗くてよく見えない。


「さあ」


 私が差し出した手は取らずに、リオンもまた手を差し出してくる。

 何かのスイッチが入ったのかな。

 いまいち状況を良く理解出来なかったけれど、私は深く考えずに自分の手を引っ込めてリオンの手を取った。


「行きましょう、ルナティナ様」

「わ」


 返事を返す前に取った手を握られ走り出される。

 さっきよりも気持ち速く感じるスピードに、思考をまとめるゆとりもなく足を動かすだけで精一杯だ。


 そのうち、すぐにまた口の中に鉄の味が広がってきて苦しくなる。

 さらにリオンの背中から目を離さずに足を動かすだけに全てが持っていかれて、思考能力がどんどん落ちてくる。


 どれだけ走っただろうか。

 十分。三十分。一時間。

 いやいや。

 流石に一時間は体力的に無理だろう。

 けど、それだけ長く感じる時間をリオンに引っ張れて走る。

 景色もかわらない。ゴールも見えない。

 逃げだしてる今、敵は気付いているのか、まだ気付いていないのか。

 もう止まろうよ。走らなくても良いんじゃないの。ちょっと歩いたって大丈夫じゃないの。

 甘い考えが頭の中を過ぎるけど、そんな思いを伝えようにも口が渇きすぎて言葉にならない。


「は、は。もう少しです。助けがもうすぐ駆けつけてくれるはずです。それま、危ない!」


 焦ったリオンの声。

 それと一緒にドンって音がして、視界が真っ白に染まった。



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