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十話

残酷描写あり。

グロ注意です。


「貴方様の嫁ぎ先が決まりましたよ……出立は一週間後。それまで離宮でゆっくり旅支度を整えたら良ろしいかと……すぐに全てのしがらみから解放されますよ」


 ゆらゆら。ふわふわ。

 水の中を漂っているかのような、地に足のつかない不思議な感覚。

 自分の声によく似た誰かの絶叫が聞こえた気がしたけれど、よくわからない。

 だって、とてもふわふわしていて……上手く思考がまとまらない。

 私、何してたっけ? そうだ。タナトスと友だちになろうって押し切って……それから、それから、なんやかんやでお泊りされることになって……だから、これは、夢?


 ああ、これは夢だ。

 夢だと理解した瞬間、ぼんやりしていた景色が霧散していって、随分とクリアな視界になっていく。ヘブンバル国で三年過ごしていたせいか、所々おぼろげな記憶の箇所もある自国の城。そこの一室のソファに私は腰かけていた。


 自国の夢を見るだなんて、そんなに帰りたいと思っていたんだろうか。まあ、まだ幼い身からしたらそれだけ自国どころか親元から離れるってストレスだよなあとか考えたりして、いつの間にか隣に立っていた先生を見てピタリ、と固まってしまった。


 やっぱりこれは夢だからか、私がわたわたおろおろしてしまっても、先生は不審に思ったりはしないらしい。なかなか見る事のない類いの壊れた笑顔を浮かべる先生に薬湯を渡されて、私は素直にそれを飲む。そして、右腕を差し出して……注射を打たれる。

 腕にはたくさんの注射跡があって、不思議に思ったけれど、これは私の体ではないし夢だからと特に疑問に思う事はなかった。


「さあ女王陛下? ええ、貴方には朱がとても似合う……そう、貴方はそうやって笑っていれば良いのです」


 それから、そっと顎を持ちあげられて紅をひかれて……いる? あれ。先生ってお化粧とか出来たっけ。てかこれ、なんかどっかで見たような記憶があるぞ?


 ぼんやりと先生の目に映るくるくるの薄紅色の髪の少女を見つめる。まあ、クルシュなんだけどさあ。髪と同じ可愛らしい色合いの薄紅の目はなんだか死んでるみたいにどんよりとしているのが気になるけれど、とりあえず夢の中の私はクルシュだった。それもとっても可憐な美少女に成長したクルシュ。あ、これ多分、ゲームのクルシュだ。つまりこれは、ゲームをプレイしてた頃の私の記憶?


「処罰せよ」


 そんな事を思っていたら、ぱちりと画面が切り替わるみたいに玉座の間に替わる。そして自分の口……と言ってもクルシュだけれど、ふんわりと愛される為だけに存在するような、そんな砂糖菓子みたいな見た目からは想像出来ない冷淡な声が出た事に驚く。

 瞼を閉じてまた開けば、優しくまた眠りなさいと先生に囁かれた。


「私の愛しい愛しい女王陛下。全ては貴方の為だけに」


 生温かい何かが唇に触れて、ぷつんとまた視界が切り替わる。

 辺りを見回そうにもこの体は私の意思では動かせないらしい。そこに確かにいるのに、映像を見ているような不思議な感覚。まあ、夢なんだけどさあ……夢だからこそ、叫ばなくて済んだ。夢だからこそ、突然広がった真っ赤な世界に驚きつつもまだ冷静でいられた。


「これは……え? 赤? え……?」


 ぽたぽた。ぼたぼた。

 広がる。

 広がって、広がって、ぐらりと崩れ落ちて、べしゃんと潰れて、ぴしゃりと飛び散って。

 真っ赤な真っ赤な……大輪の花。


「タナトス? え? え?」


 立ち上がれば、私の、いや、クルシュの体がぐらりと傾いた。

 けれどもそのまま崩れ落ちることなく、座り慣れた玉座に体は沈む。

 玉座? 

 座り慣れた?

 これは、ルナティナを廃して玉座についたエンディング後の話?


「おや、女王陛下?」


 女王?

 陛下?

 うん。やっぱりこれは、私……いや、ゲームでのルナティナが退場したあとの話だ。


「せん、せ……?」


 クルシュの口からは、子鳥が囀るような可憐な声が震えて紡ぎだされる。

 玉座から見下ろす世界は、真っ赤。

 赤、赤、赤。

 赤に彩られて……錆びた鉄の臭いに包まれる。


「ああ、いけませんね、まだ完璧ではないらしい。ほら、笑いなさい。いつものように。何も怯える必要などないのですから」


 クルシュを見つめる新緑の目は、変わらず優しいまま。

 それでも、その奥に確かに狂気の色を見つけた、気がした。


「せん、せ、これは」


 今度こそ立ち上がる事に成功して、下へ降りれば……べちゃりと、何かを踏んだ。

 べちゃり、べちゃ、べちゃ……べちゃり。

 生ぬるく広がるそれの正体に、自分の口とクルシュの口から信じられないくらいか細い声が出て崩れ落ちる。

 先生は、それをただただ残念そうに見つめて……溜息を一つ吐いた。


 先生が、溜息を吐く。

 どうしてかそれがとても恐ろしく感じて、私は逃げようとクルシュと同じように私の騎士の名を呼んで……。そして、唐突に理解した。ああ、これはシフィ先生のバッドエンドの内容だ、と。


「え? リオン、真っ赤……?」


 広がるのは真っ赤な世界。

 沈むのは私の騎士。


「え? え? なんで?」


 バッドエンドなのだと、もう救いは残されていないのだと知らないクルシュは、ただただ混乱して辺りを見回す。見回したって無駄だ。もう、誰も助けてくれるような人は存在しないのだから。


「まだ足りない……私がお育てした陛下はこんなことで動揺する貴方ではない。陛下、貴方にはまだ教育が必要なようですねえ」


 それは、幼き頃に何度も見た表情。

 ちょっとやんちゃをしてしまったり、失敗をしてしまった時の、子どもを叱る先生のそれ。

 いつの間にか先生が手にしていた注射器が、この結末を知っているからこそ余計に恐ろしくて、目を逸らしたいのに逸らせなくて……やさしく腕を取られたのに、私はクルシュと同調して震えることしかできない。



「さあ、眠りましょう」


「ひ、い、やああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 また、ぱちり画面を切り替えたかのように視界が変わる。大きなベッドだけがある真っ白な部屋。ああ、ですよねー。うん、知ってる。知ってるからこそ早く起きたい。目覚めたい。私の現実に帰りたい。


 クルシュは起きあがろうとして、違和感に首を傾げる。

 手が動かない。足も、動かない。

 私はクルシュの中で、恐怖に震えることしか出来ない。


「おや、目覚めましたか」

「せん、せ? 体が」

「私以外の手を取る必要はありませんし、私の元から去る足もいらないでしょう? 貴方の側には昔からずっと私だけが控えていれば良いのです。さあ、玉座に行きましょう」


 先生に触れられた先から甘い香りがして、くらりと視界が歪む。

 誰もいない廊下を通って、誰ともすれ違わずに玉座の間へ。


「先生……みんなは?」

「みんな? みんなとは誰です? 私がいるでしょう」

「そう……そう、ですね。先生が、いる」

「さあ女王陛下、薬の時間ですよ」


 ちくりと腕に感じる小さな痛み。

 今以上にぼやけていく思考の中、クルシュは、考えるのをやめた。


「全ては女王陛下の為に」


 先生が笑う。

 それに私は恐怖しか感じない。
















 シフィージュbadend

「鳥籠の人形姫エンド」スチルをゲットしました。

 初めからゲームをしますか? 


 はい   ←

 いいえ





 エラー エラー




「いいえ」が選択されました。このままゲームは進みます。







ずっと。





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