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九話

 ぐるりと会場を見回す。 

 わあっと盛り上がって落ちつかない会場から逃げ出したくて仕方がない。

 うう、お腹がぐるぐるしてきた。しっかりとご飯食べれていないし、空腹っていうのもあって余計に気分が悪くなる。


「ねえリオン」

「はい」

「疲れた。もう下がるけどリオンは」

「勿論お供します」


 出来れば断りたかったけど、主従を交わしてすぐに引き剥がすのは体裁が悪い、のかな。

 溜息を吐きたいのをぐっと堪えてお父様の方へと振り返る。お父様はそんな私の心情を全て知っているみたいにニヤリと笑っていて、反射的に鳩尾に一発入れたくなる。

 今の私の身長だと丁度良い位置なんだよね。本当にやったら親子のじゃれ合いでは済まされないから脳内でやるだけに留めておくけどさ。うん。犯罪良くない。


 お父様に退室の挨拶をして、ついでにアザゼルに黙礼をして会場を後にする。勿論リオンの方は振り向かない。半歩後ろを測ったかのようについてくるリオン。

 うん。私だけの騎士がリオンかあ。やだ何それ将来が怖い。や、むしろそれを知った王妃様の方が怖いのかな。王妃様的にはダクルートス家はクルシュの力として手中に納めておきたかったはず。

 もう。なんでナルキは反対しなかったのよ。いや、しないか。ナルキは実力主義者だけれど脳筋で、体育馬鹿なとこがあるからリオンの選択に反対はしなかったんだろうな。自分の道は自分で切り開けを地で行く人だもん。勝ち目のない戦いでも迷わず特攻を選んでしまう人。リオンが私側を選んだとしても、ならその道を貫けって静観しそうだ。


 クルシュじゃなくて私で良かったの?


 そう勝手に口が思った事を言ってしまいそうになって、慌てて別の言葉を探す。危ない。まだ私の部屋まではあと少しだけ距離がある。誰が聞いているか分からない廊下で迂闊なことは言えない。立てなくて良い所で死亡フラグは立てたくない。


「そういえば、お父様が言っていた権利と選択肢って?」


 かわりに、お父様が意味深に笑って言っていた事を尋ねてみる。

 今回の誘拐事件で、私の知らない所で何らかのやりとりはあっただろうってのは分かるけれど、どうしてそれが取引みたいになったのかがよく分からない。

もちろん振り向いたりはしない。早く部屋に帰りたかったし、なんとなくお互い無言で歩く空気に耐えられなかった。そのうち慣れないといけないんだけど慣れるかなあ。


「僕自身はただのダクルートス家に庇護される身なので……まだ何もなしえていない僕がルナティナ様と普通にお話することは難しいでしょう? だから、僕から話しかける権利というか承諾を王から貰いました」


 リオンの言葉に、思わず立ち止まって後ろを振り向く。

 一歩分の距離。手を伸ばせばすぐに捕まってしまう距離で、リオンはまっすぐに私を見据える。

 その、鋭利の刃物みたいにまっすぐな眼差しに私は口を開く事が出来なかった。


「今度こそお守りしたいんです。ずっとおとう……騎士に憧れて、立派な騎士になりたかった。まだまだ僕は頼りないし、ダクルートスを背負うには不十分ですが、それでもルナティナ様の騎士になりたかったんです」


 そう言って笑うリオンは、年相応の笑顔なのに纏うオーラというか気概は一人前の物で何も言い返せなくなる。

 時が来たらクルシュの方に行ってしまう。むしろそれが本来の正解のルートのはずなのに、今ここで言うのが憚られるくらいにリオンの言葉はまっすぐで、だからこそ私には重たかった。


「お慕いしています。この国だからこそ、努力し続ければルナティナ様の隣に居続ける事が出来る。ルナティナ様となら、僕はずっと目指していた騎士になれます」

「あ」


 かあっと頬が熱くなるのを自覚して、慌てて下を向いた。

 格好良い。格好良すぎて七歳児っていうの忘れてしまう。そういえば前世の私は何歳で死んだんだっけ? 乙女ゲームにハマって社会人の力でいろいろグッズを集めていたはずだから、二十歳は超えているはず。

 ショタコン。

 そんな単語が頭に浮かんで、熱かった頬は一気に青ざめる。

 やばい。やばいやばい。いくらリオンが格好良くて将来もイケメンになるからって言っても、今は七歳児。やばい。それ犯罪。それ駄目。ん? いやいやいや。でも私も今は五歳児だからセーフ? でも仲良くなってもそのうち凍らされたり足切断されたりなバッドエンドが待ってるのよね?

 無理!


「ルナティナ様?」

「あ、ううん。なんでもない。えっと、その……リオンの相応しい主になれるかは分からないけど」


 なんとなくリオンが直視できなくて、さっきよりも気持ち早めのペースで歩きだす。

 私の部屋はもうすぐそこだ。早く一人になりたい。

 あとはドアを開けるだけ。おやすみの挨拶をすれば終わりだ。

 そのことにちょっと肩の荷が軽くなった気持ちでいたら、とんっとドアに手をつかれた。ちょっとだけごつごつした子どもの手。

 剣を握ることに慣れたリオンの手。私のふにふにした手とは似ても似つかない。


「逆です。僕がルナティナ様に相応しい騎士になれるように頑張るんです」

「リ、リオン?」


 これはあれだ。壁ドン逆向き? ドンって激しくはされてないけどさ。けど! まさか五歳でこれ体験? え? なにこれ。

 思考がぐるぐるして状況についていけない。それでもなんとか思考を総動員してうっすら笑顔を貼り付け、動揺に揺れる目をリオンに定めて振り返る。


「ありがとう。私も頑張るね」


 主に自国脱出の方向で。

 リオンはまだ何か言いたそうだったけれど、そっとドアについていた手を降ろして礼を取る。

 一本筋の通った綺麗な礼に、自然と私の背筋も伸びた。

 うん。本当に頑張ろう。ただ頑張ろうって思うだけじゃなくて、どう頑張れば良いのかきちんと考えなきゃ。


「リオン、おやすみなさい」

「はい。夢の中でもルナティナ様の剣としてお供出来ますように」


 頭を下げたリオンを確認して、そのまま部屋の中へと入る。

 ドアを閉めて少し間を置いてからリオンが遠ざかっていく足音が聞こえた。


「はあ……疲れた」


 いつも履く物より少しだけ高いヒールを早く脱ぎ捨てたいけど、お姫様はそんなことをしない。

 リオンと入れ違いでスティが私の着替えをしに来るだろうし、それまでにぐちゃぐちゃになってしまった頭の中を整理したくて、私はそっとテラスのドアを開けた。



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