二話
前世の私はどちらかと言うと、一度好きになったものはずっと好きで心変わりしないタイプだったと思う。
好きなお菓子も飲み物も、このお店なら頼む物はこのメニューという風に必ず決まっていて、新作メニューが出ても浮気しない、そんな子だった。
深く狭く。
戦闘物よりも育成ゲームが好きで、廃人って周りには呼ばれていた気がする。
好きな物に飽きる事がそうそうないだけで、ちょっと牧場とかの育成ゲームをゲーム時間で三十五年とかやっていただけなんだけれどね。
そんな私が、すごくハマったゲームがある。
それは乙女ゲームだ。
十七禁という、十八禁ぎりぎり路線でシナリオ重視のとある乙女ゲームにハマッていたのだ。
そのゲーム会社は、王道の斜め上なお話を創ることで有名なゲーム会社で、声優なんかもいつも豪華で発売される作品全てフルボイス。
一人の攻略キャラにつきメインルートが最低六つは用意され、一人攻略するのに対する目安時間は十五時間程。
オープニングだけでスキップ機能を使わなければ、三時間はあっただろうか……オープニングだけで三時間である。
そこからさらにオープニング曲が入り、その後にオープニング後半が始まる。
とにかく、愛がないとクリア出来ないゲームを生み出す鬼畜なゲーム会社だった。
まあ、そこに惚れてしまったが為に、その会社が生み出した作品は必ず初回限定豪華版を手に入れていたんだけれど。
なかでも私が一番好きだったのは、鳥籠の薔薇姫というタイトルの乙女ゲーム。
主人公は、異世界を舞台とした実力主義の王国、ラグーンの第二王女。
力こそ全ての国。つまり成り上がり上等の実力主義の国だ。
王族以外は例え貴族であったとしても世襲制ではなく、実力での継承制。そんな剣あり、魔法ありの世界に生まれた主人公は、なんと残念な事に魔力がなかった。誰もが大なり小なりで持っているはずのものが、皆無。さらについていないことに、五つ年上の第一王女の姉がいたけれど、その姉は母親が違う。姉は主人公よりも母親の身分が低かった為に、王位継承権は主人公より下ときた。その所為で姉に王位を継いで貰えた方が動きやすい……つまりは、いろいろな野心を持たれている方々から主人公は毒殺暗殺と全力で逃げ出したい歓待を受けることになる。それをなんとか潰したり回避したりして生き残って五人いる攻略対象者の中から公的、私的両方の護衛っていうか、自分だけの特別な騎士を見つけ出し、落として姉を退け、君主として君臨する物語だったはずだ。
とにかく、やり込み要素抜群で、攻略対象者達はひと癖もふた癖もある奴らばかりで、ヤンデレなにそれ美味しいの。
てかもう狂ってるとかの表現じゃ追いつかないよ、な感じのキャラ達だった気がする。隠しキャラも一人用意されていたけれど、それはそれでキャラが濃かった……全体的にこのゲームは、十七禁ってなんだっけ。もう十八禁で良いんじゃないの、と。そう突っ込まずにはいられない乙女ゲームだった。
それを豪華声優陣が演じた。
声フェチでもあった私は、ハマりにハマりまくった。
ドラマCDもファンブックも買った。
アニメ化すればDVDを揃え、コミックも小説も保存用まで買った。
自分で自由にすると決めていたお金のほとんどは、この乙女ゲームに消えていったと言っても過言ではない。
中毒性の強い作品ばかりを生み出すあのゲーム会社が生み出した作品の中でも、売上上位の作品。
同人部門の方でもすごかった。
十七禁であったがために、そこはかとなくぼかされていた部分をファンは再現、もとい捏造。
これがまた、大手なところもばんばん出していて、美麗イラストだし、いろんなルートの裏話的な物とか出ていつも夏と冬は金欠だった……と思う。
そうそう、姉の方は凄かった。主に男性向けの方向で。
なまじストーリー重視のゲームだったから、恋愛ものと言っても視点を変えるだけで万人受けとなったんだよね。
まあもちろん、コアの方だと思うけれど。
主人公が退けることになる姉は、どうあがいてもどうしようもないくらいの悪女。
処刑か追放か幽閉エンドしかなかった気がする。
主人公よりも力はあった。
成り上がりの国に生まれたのに、血筋で勝てない。その事がコンプレックスで主人公を苛めに苛めぬき、隙あらば殺そうと影で暗躍とかしてた気がする。それがそのまま、攻略キャラとの絆を深めるイベントに繋がり、失敗すれば主人公バッドエンドになってたような。
主人公の姉の名前は、ルナティナ・シュバルティア・ラグーン。
「おや、目覚めましたか? 僕はロズアドと申します。お名前を窺っても?」
気付けば固くて冷たい床の感触。
うっすらと目を開ければ、そこは現代日本ではなく異世界。
重たい頭を振って起きあがると、何故か私は檻の中にいた。
「ここは……ああ」
そうして理解する。これもまた、鳥籠の薔薇姫のイベントの一つだと。
私は、檻の外にいるロズアドと名乗った獣人の男性に名前を告げた。
「私の名前は、ルナティナ・シュバルティア・ラグーン」
主人公をあの手この手で苛めぬき、時には殺そうとし、最後には処刑、追放、幽閉のバッドエンドになる姉。
それが、今の私だ。