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オーバー・ザ・マインド  作者: Atsu
プロローグ 伝承
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伝承

新規プロローグ

これは古くからこの街に伝わる言い伝えである。


 人は古代、動植物と同じく、”裸”であった。

 進化の過程で脳が発達し、記憶能力が向上、さらには言語を獲得したことによって、ますます人間は他の生物と一線をなした。特に目立った違いとして、人間は”思い出”というものを獲得することに成功する。記憶というものは、情報の保存のみだったのに対し、思い出というものは”情報”と”思い”を保存するという、今までの生物が持ち得なかったものを獲得するに至った。そして、思い出は言語化され、人々の内部から外部へと言葉として解き放てるようになった。

 神々は、人間たちの新しい能力の獲得を祝福した一方、まだ精神的に不完全な彼らをどのように補い、育てるべきかを模索していた。中でも、心の弱さは突出しており、心のもろさが故に内面からの崩壊する可能性に憂いを募らせた。神々は多くの時間と思考を費やすことで、心を保たせる方法を模索し、ひとつの結論に達した。

「お前たちの”思い出”を身に纏えるようにし、外側からもお前たちの心を支えられるようにしてやろう」

 人々は大いに喜び、その衣を纏った。五感を用いて体外へと溢れ出た思い出が、衣となって人間を包むため、人々はそれを思衣〈しい〉と呼んだ。思衣によって人間は、長きにわたって心を補強できるようになった。その後、世代が移ろうにつれて、人間は思衣を生まれ持って纏えるようになり、思衣を纏うことが当たり前となった。

 しかし、時を経て、人間は思衣による恩恵を忘れる。「思い出」、ではなく「欲望」、すなわち「思い出で心を満たすということ」と、「欲望で心を満たすということ」を履き違えるようになった。思衣によって、体の外へと溢れ出た欲望でできた衣を纏うことで幸福を抱いていると錯覚し、さらには知能の発達に伴い、思衣が思いや欲望の強さにによって身体能力を向上させることを発見した人間は、争い傷つけあい、思衣を争いのための武器として用いるようになった。

 神々は激怒した。

 人間から思衣を取り上げよう。神々は決意をする。しかし、代を経たことで生まれつき思衣が備わった人間からは、人間の意志なしで思衣を引き剥がすことが出来なくなっていた。本来の目的を忘れた人間たちに見かねた神々は、人々の前に降り立ち、こう宣言した。

「戦いたい者は思衣を脱げ。さすれば、更なる力を与えよう」

その言葉に人々はまたしても歓喜し、次々を衣を脱ぎ、破り捨てた。しかし、それは神々による策略だった。自らの意志であれば、思衣を捨てることが出来ると知っていた神々は、甘い罠に乗せ、次々と欲に溺れた人間たちの欲望を煽り、思衣を捨てさせたのだ。

 さらに、裸の人間たちは、思衣を纏う人間に触れることで、心身、特に、心へ重大なダメージを受けることを神々は知っており、大喜びで衣を破り捨てていく彼らの姿を見て、愚かな人間たちを憐れみ蔑んだ。心を外側から支え、心身を増強する、という思衣の効果を失った人間たちは、そうであるとも知らずに、戦争に勝ちたいという目先の欲に目がくらませて、次々と戦争の渦中へと身を投じ、弱い心と欲望が故に、次々と死に絶えていった。

 しかし、神々の策略に反する出来事が同時期に発生する。同じ時代に、思衣の大切さを正しく受け継いだ人間たちの中で、、脱いだ衣の形を変えることで特殊な力を発現させた者が現れたのである。その結果、彼はその力を用いて、世界を統一することに成功し、それ以降地球規模の世界大戦は行われなくなった。

 どうして衣を脱いだにもかかわらず生きることができ、能力を得られたのか。神々は観察した。その結果、導き出されたのが、やはり思い出だった。

 彼は思衣を破り捨てるのではなく、思い出への強い思いを思いの強さのエネルギーへと変換し、モノへと込めたのだ。その結果、思い出にまつわる能力を開花させ、欲にまみれた人々を救済し、世界を統一させることに成功したのである。

神々は彼に会い、彼を人間代表として問うた。

「お前は、思い出でできた思衣を捨てたのではなく、思衣を『思いの強さ』というにエネルギーへと変換し、モノへと思いを込めることで能力を発現し、世界を導いた。お前は、形を変えてもなお、思衣は必要だったと考えるか?」

「そう思います。だって、思い出は人々の安らぎじゃないですか。捨てるような考えは僕にはありませんでした。だからこそ、思い出ともに、思い出を我が力として戦って、間違った世界を正したい。そう考えたのです」

神々は彼の言葉に感銘を受け、人間を滅ぼすことを止め、見守ることにしたのである。そして、最後に、お礼として神々は彼の願いをひとつだけ叶えることにした。

「思衣の記憶を、僕以外の人間から消し去ってください。僕がもう一度、思衣のありかたについて、この世界にゼロから説いていきます」

 その後、彼はこの神々と謁見した地に住み、人々に対し、「欲を思衣に込れば、身を滅ぼす」ことを説いたということだ。彼から助言を与えられた者の中で能力者となった者がいたが、それ以外の人間が力を悪用し、能力者となることはなかった。人々は思い出を大切にし、自分の心を育てていったということだ。

 使われないものは廃れていく。進化はそういうものだ。今日に至るまで、思衣に関する記憶はこの土地以外の伝承から消え、思衣は進化の名残として、人々をただ纏うだけとなったのだ。


 それから人間は、再び長い歴史を経た。思衣の伝承を元に、能力者は再びこの地に現れる。それぞれの思い、思惑をめぐる戦いがこの街で再び起こり出そうとしていたー







一話に続く。

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