お父さんとお母さんの部屋から変なこけしが出てきた かふぇ&るんばっ♪アフター4
「ねね。お父さんお母さん」
私、新香。
双子のお姉ちゃんの光ちゃんとお父さんとお母さん、お婆ちゃんと一緒に暮らしています。
「これ、お父さんの? お母さんの?」
私が取り出したのは二人の寝室にあった妙なおもちゃ。
それを見た途端お婆ちゃんの美夏さんがいきなり味噌汁をふきだしました。
~~ 『お母さんたちの部屋を掃除したらへんなこけしが出てきた』 かふぇ&るんばっ♪アフター ~~
「げほっ?! げほっ?! 紺野さ……大和さんが今一瞬見えたからっ?!」
噴きだした味噌汁を近くにあった布で拭こうとするお婆ちゃんですけどそれ、光ちゃんのお弁当のナプキン。
光ちゃんってすっごく泣き虫なんだよね。
あっというまにその顔がぐにっとなって、目に涙がたまって。
ああ。泣いた。やっぱり。
「ああっ?! ごめんね?! おばあちゃんが悪かったから?!」うん。確かに。
お婆ちゃんってそそっかしい処がたまーにある。たぶんお母さんの『イデン』ってやつだ。
ちょっと使い方はよくわからなかったけど、なんかスイッチがあってそれを押してみると、ぶううううんと言う音を出して先端がみっつくるくる回って。
ゴムで出来ていてちょっと臭う。変なの。
あと、ちょっと電気が通っているのかさきっちょを触るとピリピリして痛い。
「あっ?!」「ちょ?! 香?! どうして勝手にお父さんとお母さんの部屋に?!」だって掃除してって言ったじゃない。おかあさん。
あわふたするお母さん。とりあえず手に持っているものは置いて。危ないから。
「ああ~。その。あの。香」「父さん。どうしたの?」
ぎこちない動きのお父さん。肩でもこっているのかな?
なんか、お父さんっていつも穏やかで落ち着いていて優しいんだけど今日は体調も顔色も悪い。クリニックはお休みしていいと思うのに休まないしね。
「どうしよう?! 掃除機さん?!」「バカだろ。澄香。ちゃんと隠せ!?」
「何やっているのよ新?! もう珈琲いれてあげないよ?!」「うわああああっ?! これには事情が?!」
ああ。そうそう。
うちの家族は光ちゃん含めて変わり者揃いで、『モノの声が聞こえる』と言い出すんです。
お母さんはオンボロのロボット掃除機、お父さんは同じくボロボロの珈琲メーカーと話す妙な癖があります。
其れさえなければ普通なんだけどね。うちの家族。
まともなのはお婆ちゃんだけなんだけど。
「あなたたち。何をしているのよ」
容姿とか、怒った時の怖さとかはまともと言うにはちょっとね。
なんでも昔は『尾道の大魔神』とか『女ピカドン』とか『ミカドン』とか色々言われていたらしい。
怒ったお婆ちゃんってなんか笑っているけど、本気で怒るとすっごく変な顔になって面白いんだよ。
えっと、話を戻すとして。
ぶるんぶるんとゴムでできたそれは激しく動く。
手で持つのがちょっと重いな。これ。持ちにくい。
「光ちゃん。持って」
私がこの変なおもちゃをお姉ちゃんの光ちゃんに渡そうとしたら。
ぶるんぶるん。光ちゃんの頭も凄い勢いで動きました。
涙がまだのこってるよ。光ちゃん。
「あの。香。悪いけどそれ、お母さんのだから返してくれないかな」「お母さんのなんだ」
なんかイボイボいっぱいついてるね。どうやって遊ぶのかな。
「ああ。その。香。それはその。遊ぶものではないんだけど」「お父さん。さっきお母さんと騒いでいたとき、お父さんの買ったおもちゃだって」
お父さんは小声でボソリ。
足元でパタパタと尻尾を振る掃除機に真顔で一言。
「余計なことを言わないでくれ」「自業自得だ。真」
「ひどいっ?! 新も澄香も最悪?! 不潔だわっ?!」「いや、そのこれは」「あ、あのね。落ち着いてね珈琲メーカーさん」
謝る相手は怒っているお婆ちゃんの筈なんだけど何故そっち? ああ。お婆ちゃんの頬がビキビキ動いてる。
ぽっぽと湯気を立てる珈琲メーカーさんだけどなんか女の子が怒っているみたいに今日は格別湯気を立てている。そろそろ壊れるんじゃないかなぁ。
「新ちゃん。澄香」
お婆ちゃんはにこやかに告げます。「正座」
しゅんとしているお母さんとお父さんを鬼のようににらむお婆ちゃん。
ご飯を食べ終わった私はよくわからないおもちゃを手に光ちゃんと階下に。
このビル。三階が私たちのお家で二階がお父さんの内科くりにっくで、一階がおーぷんかふぇ? っていうのになっているんです。
「ぶるぶる震えるけど、これってどうやって遊ぶんだろう」「……」
そんなに重くはないんだけど動かすとずっしり。
お姉ちゃんは顔を赤くしたまま首を左右に振っています。変なの。
「ねね。光ちゃん」「香ちゃん。それ、持っちゃダメ」あ。びりびりするもんね。
「そうじゃなくて、その」「ん? ああ。いじめっ子に取り上げられたらやっつけてあげるから!」
光ちゃんは涙目でぶるぶると首を振って言いました。
「学校にもっていかないで」「なんで?」なんかぶるぶるいって面白そうだけど。
「お願い」「う、うん。光ちゃんがそこまで言うなら」「よかった」
私たちは自動車に乗り、自動運転で学校に向かいます。
「ねね。アレ、なんだったんだろ」「知ってるけど。教えない」
「ん? なんで? 教えてよ光ちゃん」光ちゃんって勉強得意なんだよね。
でも、お姉ちゃんの光ちゃんは時々梃子でも動かない頑固さを見せる。
「教えたくない」
光ちゃんの顔は真っ赤でした。
ところで、一緒に出てきたこのプルプル動くシールみたいなの。
お婆ちゃんに渡しそびれたなぁ。肩こりの道具だよね。たぶん。




