エピローグ……スミカ
桜吹雪舞う春の小道に私は立つ。
不思議なくらい火傷も治って元気。お久しぶりです。
さわさわと風に揺れてなびく桃色かかった小枝から、薄い桜の花びらが飛び立つ。
誰かがどこかで花見をして騒いでいるのだろう。調子の外れた歌とバーベキューの臭いに口を少し歪めてみせる。
でも。春はいい。冬も好きだけど。春もすき。夏は命が輝き。秋は心が輝く。
花よ咲け。幸せになるために。青く緑の命の光を輝かせるために。
私の視線の先には、小さな内科診療所がある。
私は、そこで今、働いている。一人で病院事務ってちょっと大変だけどね。
ここが私の、私たちのユメノスミカ。
ただいま。
門扉をあけて微笑む。いつもの声が私を迎える。
足元で尻尾を震わせながら私を迎える古びたロボット掃除機。
「おかえり。澄香。何処で道草を食っていた。真が困っていたぞ」だって特売日だったもん。
「まま~」
抱きついてきた双子の少女の片割れを片手で抱きしめ、奥で怯えるようにしている少女にもう片手を広げてみせる。
少女は先ほどの泣き顔は何処へやら。私の腕に飛び込んできた。
「ちょっ?! ギブギブッ?! 」「まままま~! 」「まま~!! 」
爽やかな音楽が鳴り響き、珈琲メーカーの少女の声なき歌声が響けば診療所は休憩の時間。
今日も香ばしい薫りと、夢のような苦味と旨みを口に含める至高の瞬間が訪れる。
「そりゃそうよ。だって私が愛する新のために煎れているんだからッ 」
調子付く珈琲メーカーに冷たく毒づくロボット掃除機。「完全敗北だな」「なっ? 」くす。
「今日は私が煎れたんだよッ 」勝気な妹の額をなでてやる。
弱気な姉は、珈琲を煎れようとして失敗したらしい。「なかないなかない。がんばったな」彼女を抱き上げ、歩を進める。
「女の子は、嫌なことも辛いこともいっぱいあるけど、それを乗り越えることができるんだぞ」
不思議そうにする双子の頬に私は次々とキスをしてみせる。
「女の子は神様から、世界で一番幸せになることが許されているんだから」
その瞬間に気付くかどうかが、一番大事で。その瞬間を忘れなければ。乗り越えていける。
だって、スキとかシアワセだけじゃ、こんな世界つまらないじゃない。
介護も生き死にも。バッチこい。女の子は強いんだぞ。
私の名前は新澄香。
かつて珈琲を飲めば、お茶目なロボット掃除機の言葉が聞こえていた女。
今は。世界で一番。
「あ~ん! 」「もらしたっ?! トイレはここっ 」「澄香。子供にはわからない」「おねえちゃん。おまるおまる」
「……まだ私たちの力が必要なのか」「そうみたいね」
世界で一番。幸せな女。
だと思う。たぶん。……きっとねっ♪
かふぇ&るんばっ♪
~ お し ま い ♪ ~




