ゆーがっとめっせーじ……澄香さん旅立つ
あ。新? 貴方まだうちの部屋のカギ持っているでしょ。
部屋引き払うことにしたから。プラレール大事にしていたでしょ。もって帰って。
え? 引越し手伝う? あなた手伝いにかこつけてまた襲うつもりでしょう。二度も三度もやったらもう二度と口利いてあげないから。ホントよ?
え。何処に行くかって? ナイショ。ナイショよ。
……白状するわ。貴方のことは今でも大好き。
結婚したいと思ったことは本当だし、ゴムに穴あけていたのも認める。
うん。ごめん。だから。好きだからこそお別れしたいの。
貴方なら許してくれるの、知ってた。だからこそ駄目。
別に貴方が籍をいれようって言ってくれなかったからじゃないから。むしろ私が嫌がっていたのね。
何時までも子供のままでいれると思っていた。無理なのにね。
うん。うん……。
私、もう少し大人になろうと思うの。新はさ。
もっと若くて綺麗な女の子見つけて、開業の夢をかなえなさいよ。
あんたイケメンでしょ。性格もいいし。絶対大丈夫。
まっている? 私はあっというまに三十路になって子供も……。
ごめん。新は変わっていない。すごくいいひと。だけど私は。
私は元恋人にいろいろ話した。
……。
……。
荒れていたこと。
元恋人を忘れるために他の男をお酒に酔った勢いで連れ込んだり、
他の男の子に恋をしたり、夢破れたり。
たいせつなたいせつな人がいつも見守ってくれていたこと。
悪態をつきながらも私が前に進むのを見守ってくれていた人。
お父さんみたいで心強く。恋人のように優しく。どんな間違いもみてくれたひとがいたこと。
……。
……。
ねぇ。私は貴方をお父さんみたいに扱っていたんだ。
ばかだよね。ほんとうに。どんなひどいことをしても新はわらって許してくれる。
そんなの嘘。嘘だよ。正直になってよ。怒ったことも悲しかったことも辛かったこともないって言える?
いえるんだ。うそつき。新真はうそつきだ。
しってる? 初めて会ったとき、私は貴方を「あらたしん」ってよんだわけではないのよ。
「あらた? しん? 」って。どう読むのって聞いただけ。知らなかったでしょ。
ほかの男の子たちがパンダパンダってからかうのが判らなかったってのもあるけどね。
ばか。ばか。
なんでよ。なんでよ。この……うそつき。
貴方のことがすきなの。思い出しちゃうでしょ。
絶対駄目。あんた『結婚するなら処女ッ 』とかばかなこと言いながら……。判っているわよ。
ほんと。でもね。いったんお別れしたほうがいいの。そうしないと私たち、もっと上を。夢を目指せないんじゃないかって。
だめ。それ以上しゃべらないで。
あのさ。
『珈琲を飲むとロボット掃除機の言葉がわかる』って言ったら。信じる?
はい? 『音楽を聴くと喋りだす珈琲メーカーと話していたことがあったからわかる』??!
あなたふざけているの?! 電話切るわよッ?
ごめん。あなたはそんな嘘をつかないよね。
そう。あなたも色々あったのね。へぇ。そんなぶっちゃけた話、新から聞けるなんてね。
すっごくぶっちゃけたことも色々したし、話したけど、それ。最高。
え? ぼくが嫌いにならないのかって? 私が貴方のこと嫌いになるわけが無いでしょ!
『不完全だから、寄り添いあう。一人で夢を追っていると思わないで欲しい』
元恋人の言葉が私の言葉を止めた。『一緒にな……』
判っている。私が間違っている。
うん。それ以上は言わないで。お願いだから。
……引越し手伝う?
あのね? さっきの会話はなんだったの?!
私は貴方のお嫁さんになれるほどすてきな女じゃないわよっ?!
むしろ最悪。駄目駄目。チョー駄目。あ。久しぶりに口汚いこと言っちゃった。
……ちょっと料理は出来るようになったけど。
駄目駄目。
もう切るからッ うそつきの新君。
でもさ。『音楽を聴くと言葉を話し出す珈琲メーカーの女の子』に浮気していたのは。許す。
え? そんなつもりじゃないって? この天然スケコマシッ! そういうところが腹立つのよ!
今まで一回もいえなかったけどねッ!
私の名前は紺野澄香。
珈琲を呑むとロボット掃除機の言葉が判っていた女。
元恋人の名前は新真
音楽を聴くと元恋人との復縁を励してくれた珈琲メーカーの言葉がわかっていた男。




