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かふぇ&るんばっ♪  作者: 鴉野 兄貴
桜吹雪舞う空の下、命の緑は芽吹く

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50/63

はいからさんが通る……お洒落はお金と時間がかかるもの

―― 澄香。セーターを脱いで ――


 え? もう今日で三回目だよ。あらたったら。

苦笑するかつての恋人は告げた。「毛玉だらけだからとってあげるよ」



 ふう。昔のやり取りを思い出した。一人でやると意外と手間暇。

ウールものは毛玉取るの大変だからなぁ。


 ころころに毛玉をからめて、毛玉に指を添えて堅実に下から。

新はこういうの丁寧だったからな。


……。

 ……。

 隣でテレビゲームをしながら『かつての私』はつぶやく。棄てればいいのにと。

「棄てるような安物は買っていないんだ」ふうん。私はつぶやいた。

「安物の利点は汚れたら棄ててが出来ること。でも僕はそんなに几帳面でもお金持ちでもない」アンタを几帳面と呼ばずして誰が几帳面なのよ。

あと、安物をずっと汚いまま着ていたらどうするのよ。「僕は貧乏だけど貧しくは無い」

彼は時々難しいことを言う。そこが当時の私には気に食わない。同時に離れがたいのも事実で文句を言いながら別れられないのだが。


「僕はまだ研修医にもなれていない貧乏医大生だからね」医大とここなんてマンション出て五分じゃない。

「その五分の心がけが人生を変える。そう思ったら素敵じゃないかい」わかんない。


 だいたい、一時間かけて彼女のセーターの毛玉取ったり、アイロンかけてくれるのってアンタだけなのよ?

「ふふふ。僕は女の子に産まれたらよかったかもねぇ」気持ち悪いこと言わないの。

そりゃ昔のアンタって女の子に見えるほど可愛かったけど。


「そんなに杜撰にやったら毛玉は取れないし、生地が痛むよ。貸して」ふうん。

「セーターを洗うのも洗濯機より軽く手で押し洗いしているんだよ。そのほうが縮まない」へぇ。

そういうのは関心ない。お父さんが亡くなった後も私たち親子は生活に困ることは無かった。むしろお金もモノも恵まれていたと思う。



 お母さんは新のことを『良い子』というけど、なんとなくわからなくもない。

ちょっとヘンタイだけど外では実害ないし。

『長い』上『仕事が丁寧』で一日三回でも四回でもイケるのは私にとっては迷惑だが。

さっさと終わらせろ。


 私のカッターシャツにアイロンを当てながら彼は微笑んでいる。

その様子をゲームパットを握り締め、彼が淹れてくれた珈琲を時々すすりながら私がチラチラ。

ちょっとはこっちも鎌って欲しいな~。秋波を送ってやると彼はこちらに微笑む。ちくしょう。可愛い。

もうちょっと背が低いままのほうが良かったなぁ。

高校のときは私のほうが背が高かったんだぞ。大学になってから伸びるなんて反則だろ。


 悪戯心を起こしてアイロンがけの終わっていない彼の大きなシャツを手に取る。

彼はまだこちらに気づいていない。かつての私はシャツの胸元までを互い違いの段々にボタンをかけて、

袖をくるりと回してスカート風に着てみせる。


「……」ぽかんとしている彼にしたり顔で笑う。

もう一回したい? 私がニヤリと笑ってやると「是非お願いします」と返事が帰ってきた。

「あと、アイロンがけの練習、そのシャツでやってみるといいよ」と余計なことを珍しく言われたが。


……。

 ……。


「多くの人は手間をかけるか、それが駄目ならお金をかけてお洒落をする」彼はそう言ったが。

ホント。毛玉って取れないね。……服は立体縫製になっているから余裕も考慮して、縫い目に皺をよせてアイロンがけっと……。


 男の子と違い、多くの女の子はゲームをしない。

女の子のお洒落って、お金も手間も時間も気持ちも頭も使うのだ。

使わなくなったゲーム機に手を振り、ゲームショップに持っていく。

段ボール箱一杯の積みゲームを見たショップの店員さんは苦笑いをしていた。


 私の名前は紺野澄香こんのすみか

来年で二十八歳になる。アラサー独身である。


 好きなことは珈琲を飲んで音楽を聴きながらくつろぐこと。

そうすると私を見守ってくれる『大切な人たち』の声が聞こえる気がするのだ。

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