春までどん……水虫には気をつけて
はぁ。
「水虫澄香ちゃんやぁい」思わず近くのプラスティックカップを掃除機に投げつけた。
やかましい。人が気にしていることを。あと腋臭とか言うな。「言っていない」うっさい。
だいたいねぇ。三ヶ月かかるんだぞ。三ヶ月。皮膚科に行ったらそういわれたんだ。
「三ヶ月なら良いではないか。治そうという努力をしなければ『一生』だぞ」うう。
水虫だなんてダサいー!!!!!
「日本人の国民病とも言われている。昔の日本人は靴など履かなかったが昨今は西洋化が進んでいるからな」
ううううううう。
「だからブーツはちゃんと手入れしろとあれほど」既にかかっているもんッ
「悪化させてどうする。日ごろの心がけだ。心がけ。わかるな」
ふわふわ。ふわふわ。
尻尾を振りながら周囲を周回する掃除機に悪態をつきながら私は立ち上がる。
すっかり珈琲が冷めちゃった。入れなおしっと。
「水虫の原因は白癬菌というカビ。
これが発見・水虫の原因として確認されたのはここ百年の変化だ」
なんか言ってるし。あ~あ~。聴こえない~!
「夏になると高温多湿になり、もともと皮膚に付いていた白癬菌の繁殖が活発化する。
秋を越えると汗をかきにくくなるので、治ったと思い込み薬を使わなくなるが。
白癬菌は生命力が強い。普通に秋冬も生きている」ふんふんふ~ん。
おっと。ちょうどいいからベーコンエッグも焼こうっと。
「お前のように長いブーツをはいていると高温多湿状態が維持され、冬場でも発症するものがいる」
「言っておくが秋冬が勝負だぞッ 早くしろッ 間に合わなくなっても知らんぞ~! 」
内服液と水薬とクリーム薬の使い分けとか面倒くさいんじゃああっ?!
爪水虫を一度引っぺがすとかあの地獄を見て躊躇しない人間はいないっ!!!!!!!! 貴様も一度皮膚科に行ってみるべきだっ!
「でも一週間と立たずに改善しただろ」ぐぐ。
「さっさと行け。行きもしないエステに四十万かけた女」あ、あれは色々話してたらついつい。
「訪問販売に弱すぎる」ぐぬむ。
「水虫を完全に治す薬が出来たらノーベル賞といわれているが、多くは適切な治療と環境維持で治る。
それより人に移さないようにする必要があるだろう。さっさと行って来い」ううう。
そういえば今回は薀蓄少ないね。
「……聞きたいか? ノーベル賞を取れるほどの知識を」パスッ?!
私の名前は紺野澄香。
人間ならばノーベル賞を取れる知識を持つ(自称)掃除機さんと、
珈琲を飲むと会話できる女。




