セカンド婆人……失恋
三十路っておばさんなのかな。
取り留めなくしゃべり続ける私。彼は黙って聞いている。
フローリングに涙と鼻水の痕が見えた。ちょっとだけ冷静になれたかもしれない。
ごめん。こんな話して。
「続けろ。全部吐き出せ」
彼はそう呟く。彼は自由に動き回っているように見える。
ふわふわと尻尾を振り、くるくる回って愛嬌を振りまき、細かいところまでくまなく掃除して回るロボット掃除機。
でも、その動きは彼の『仕様』であって彼の意思とは別の動きだ。
人なんて好きにならないほうが辛くないよね。
私、まだ自分が若いって思ってたの。高校生になりたての子からみたらオバサンなのね。
「男性が性的に興奮するのと、人を思いやるのと、恋愛感情を抱くのと、それに責任を感じることは全て別問題だ」
わかってる。わかっているつもりだったけど。
「人間は共に老いることが、実は一番幸せかも知れないな。掃除機は老いない。調子が悪くなっていき、壊れるだけだ」……。
でもキミがいてよかったと思う。
友達私にはいないし。新以外に私の部屋に来る人はいないし。
「ほとんどの人間は同年代の友人が多くいるのは学生時代だけだ。
恋愛は人間関係の最たるもので他者を意識する要素だが」うん。
あんまりきつくいわないでね。喉が痛いんだ。
「自分の気持ちを整理して言語化は出来ないが、何かを黙って聞いてくれる友人が多い学生時代はさておき、
自分の心を整理して言語化できてしまう大人は周囲の都合もあって一人で多くを抱えてしまう」
失恋の心の傷は大人も子供も変わらない。
整理して言葉に出来る分、大人のそれはある種残酷だ。
みんな好きではなく、一番好き、二番目に好き、二番目の好きなヒトでいいなどがわかってしまうから。
新より好きになれそうだったのに。避けられてしまった。
言葉にしてもらえない分、わかってしまう自分が余計辛い。
ちょっと前の自分なら、他人の気持ちなんて欠片も考えなかっただろう。
新なら何でもニッコリ微笑んで甘えさせてくれた。
母さんなら呆れたり叱ったりはしてくれるけど、娘には甘い。
もっとお話していいかな。
「可能だ。しかしそれが出来る人間は少ないことを心にとどめておけ。
多くの人間の大人は苦しみながら表は笑って生きていく。相手の都合を考えてしまうからな」
私の名前は紺野澄香。
珈琲を飲むと酷い愚痴でも黙って聞いてくれる掃除機の言葉がわかる女。




