あさまでどん……美味しいお茶を淹れたくて
……うみゅ~。
乱れまくった布団を片付ける。何故敷布団まで百八十度回転しているのだろう。
珈琲を淹れる。あまったご飯は予約でパンになっている。ふわふわ。もっちもち。
「今日は仕事はないのか」うん。
「自慰は程ほどにしておけ」がぶっ。
げほげぼと咳き込む私の足元を優雅に通過してゆくロボット掃除機。
朝の目覚まし用音楽ラジオチャンネルを起動していて、地味にむかつく。
し、仕方ないだろ。この間インフルエンザのときにちょっと新もインフルエンザに。
「医者にあるまじき不注意と不用意だな」あの甘い獄からは逃れられなかった。
ぶっちゃけどんな男より今でもアイツのほうが気持ちいいだけなら。
「……まぁ十年近いつきあいだからな」なんか厭らしいこと言わなかったかッ?!
新の恋人から自立した女にならないと。
「誰のために」誰って……誰のためだろう。
「考えておけ」はい。
ラジオモードのまま充電状態になった彼を視界の端に収めながら職場の子ともうちょっと仲良くなりたいなとかアレやソレやを。
「……まだするのか。澄香」う……自粛しておきます。
「いや、傾向としては良いことだと思うぞ。回りに目が向いている証拠ともいえる」ふむ。
掃除機さん。掃除機さん。アンタって嫉妬しないの? 「掃除機は嫉妬しない」だねぇ。
ミネラルウォーターを取り出し、軽くお茶の葉をほぐしてからお湯を注ぐ。
「茶も飲むのだな」結構好きなんだけど。
……そうだ。最近珈琲ばかり飲んでいたよ。好きだけどこいつの小言は聞きたくないとか思いながら。
「自然な感情だと思うぞ。誰だって説教は聴きたくない」うん。
あ、そうだそうだ。出来ているかな。
私は冷蔵庫の中の大きな急須を取り出す。
急須の中にお茶の葉をいれ、大量の氷を水なしで淹れておけば、
0度の温度を維持しつつ旨みだけ抽出した冷たいお茶になる。時間かかるけど接待用の切り札である。
うん。美味しい。
私の名前は紺野澄香。
珈琲を飲むとロボット掃除機の言葉がわかる女。
後ろを押してくれる掃除機に何故か後ろ髪を引かれているような後ろめたさを少し感じてしまう女だ。




